190 女だけのランチの席で その18
・・・ということは何かい。千鶴にだけでなく、みんなにもあれのことまでバレバレだったと・・・。
私は目の前のカップを横にどかすと、テーブルに突っ伏した。
「あっ、麻美が死んだ」
菜穂子が可笑しそうに声をあげた。私は顔も上げずに「もういい、好きにして」と呟いた。誰かがよしよしという感じに頭を撫でてきた。
「あらあら、麻美は本当に墓穴を掘るのが得意みたいね」
京香さんも可笑しそうに笑いながら言っている。あー、もうー、どうとでも言ってよ。
「まあ、そのキスマークのことも聞いているわよ。麻美の嫌がる姿に興奮して、やり過ぎたって言っていたもの」
・・・だから~、もう、聞きたくないです~。グスン。
それなのに、京香さんはまだ言ってきた。
「ねえ、麻美にとどめを差してもいいかな」
「何を言うんですか、京香さん」(千鶴)
「せっかくだから、駄目押ししておこうかと思うんだけど」
「え~、まだ幻滅させる要素があるんですか」(菜穂子)
「そうね。男って本当にしょうもないって話よ」
「ということは、まだあっちの関係で何かがあると」(華子)
「こらこら。ある意味男のロマンなんだから、目くじらを立てないの」
『だから、京香さん。ためないで教えてください!』
三人して声を揃えるな~!
「ほら~、花火大会の日に浴衣姿の麻美を見たと言ったでしょ。それでね、脱がせて『あ~れ~』をしたかったんだって」
・・・
「しょうもな~」
「本当に男って!」
「別れてよかったわ~」
私は顔も上げずに突っ伏したままでいた。
・・・本当に、男なんて~! 浴衣の帯でそんなことが出来るわけないだろ! いや、普通の着物でも無理だから。あれはコントだからできたんだよー!
「ところで京香さん。山本って人はどんな感じの人なんですか」
「どうしたの、菜穂子。興味が湧いたの?」
「う~ん、ここまで話を聞いたら、顔を見てみたくなりまして」
へへっと、菜穂子は笑った。そうしたら京香さんは「写真ならあるけど見る?」と言った。私はガバリと体を起こした。京香さんはバッグから封筒を取り出すと、菜穂子に手渡した。華子女史も横から覗きこんでいる。
「・・・」
二人はなんとも言えない表情で私のことを見てきた。
「なによう」
「・・・ブラコン」
私が唇を尖らせて言ったら、菜穂子から一言帰ってきた。
「はっ? ブラコン? どこがよ。似てないじゃない」
「それはこっちの台詞よ! 似てるなんてものじゃないじゃない。ここまで麻美が沢木先輩好きだなんて思ってなかったわ」
菜穂子が食って掛かってきた。
「そんなことないってば。兄とは違うもの」
「わかってないのは麻美のほうね。ブラコン以外の何ものでもないわ」
華子女史まで、そう言ってきた。私が言い返している横で、千鶴が写真を受け取って見て、声をあげた。
「ああ~、そうか~。高校の頃の先輩に似ているんだ~。やっとわかったわ~。誰に似ているのか」
・・・千鶴、そんなことはいままで言ってなかったよね。
結局、私がブラコン過ぎたから、似ている山本さんのことを好きになったのだと、落ち着いてしまったのでした。
◇
改めて時計を見たらもう16時を回ったところだった。
「あら、いけない。これじゃあ、待たせているわ」
京香さんが伝票を持って立ち上がった。みんなも立ち上がってレジに向かった。京香さんが奢ってくれようとしたけど、ここはきっちり割り勘をと、主張した。でも、ケーキセットの分は京香さんが先に払ってしまっていた。なので、私達はランチ代だけを払ったのでした。
お店を出て、車から降りてきた典行さんと挨拶をした。典行さんも私の顔を見て、安心したような表情を浮かべていた。
京香さん達の車が先に出て行ったのを見送ってから、私達も車に乗り込んだ。
それで・・・帰りの車の中で、華子女史の爆弾発言を聞いたのよ。
「あっ、そうそう。みんなに言っておくことがあったんだ」
「華子から? 何かしら」
「大したことじゃないのだけど、私この前の火曜日に入籍したから」
しばらく車の中に沈黙が落ちた。
「はい? 入籍? だれが?」
「私が」
「華子女史が・・・誰と?」
「もちろんつき合っていた人とよ」
『ええっ~!!!』
華子女史が言うには、先週の私のことが原因らしいのよ。私に起こったあれこれを彼氏に話したら、月曜日に仕事帰りの華子女史は拉致られるようにして、それぞれの実家に向かい、気がつくと婚姻届けに判子を貰っていたとか。火曜日の昼休みに、また彼氏に連れられて市役所に提出したそう。そのまま宝石店に行って結婚指輪を購入したとか。婚約指輪は後日選びに行くことになっているそうな。
・・・って、私よりも電光石火じゃないか。そう言ったら、その前の付き合いの長さが違うと言われたのだけどね。
それから、只今新居は探し中なので彼とは別居中なのと、結婚式はしない可能性が高いと言った。なんか私の式の準備の話を聞いていて、面倒になったらしい。ここは彼や家族と話し合い中だとか。
だけど、写真だけは撮ることにするのだとか。記念に何か残しておこうということらしい。
それから、この車は彼氏・・・じゃなくて、旦那様の車だということでした~。
華子女史!
おめでとう!
幸せに~!




