表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/238

188 女だけのランチの席で その16


「えっ?」


私は困惑した。幸せそうな姿って・・・。いつ見られたの? 

ううん。いつの時のこと? 

浮かれて選んだ婚約指輪の時のこと? 

それとも、結婚記念品を選びに行った時のことなの?


「あ~、麻美は気がついてなかったわねえ。あれは花火大会の日よ。浴衣姿の麻美を駅前で見かけたのは」


私が困惑した顔をしたからだろう、京香さんはすぐに教えてくれた。あの日は京香さん達はビアガーデンに行く予定で待ち合わせをしていて、その時に私を見かけたそうだ。浩二さんと笑顔で話しているところを見ていたそうなの。


「だからね、航平も麻美の姿を見て安心したのよ。体重が戻ったようで、頬とかふっくらしていたじゃない。私も暗い表情じゃないことに安堵したわよ。ということで、麻美の今彼のことも知っていたのよね。だから、もう航平のことなんか忘れて、次の恋に進んだと思っていたの。それが泣きそうな顔をしていたというからねえ。航平に麻美の様子を見てきてくれと頼まれて、私も頷いたわ。すぐにでも麻美に会いたかったのよ。だけど、このあとまさかの妊娠発覚で約ひと月、つわりがきつくて動けなくなってしまってね。やっと千鶴に連絡できたのが先週だったというわけなのよ」


京香さんに種明かしをされて、私は複雑な心境になった。そう、複雑。本当に私は現金だと思う。先ほどまでは話していて、山本さんとのことを思い出して苦しくなったのに、今はどういう表情を浮かべていいのかが分からなくなっているのよ。


京香さんが話してくれた、沙也加さんが言ってくれた言葉が、ストンと胸に落ちたからなんだけどね。今の気分は目が覚めた感じ? それとも憑き物が落ちたようなもの?


そんなことを考えて何も言えずにいたら、千鶴が顔をしかめて京香さんに抗議をした。


「京香さん、そこで山本さんの株をあげてどうするんですか。麻美はやり直す気はないといっていたけど、気にかけてくれたとうれしくなって、寄りを戻す気になったりするかもしれないじゃないですか」


いや、それはないからと、口を挟もうと思ったのに、京香さんのほうが先に口を開いたの。それもなんともいえない笑顔付きで。


「だから千鶴、最後まで話を聞いてからにしてよ、文句を言うのは。私は実際にあったことしか話してないのだから。それより航平が一つだけ後悔していることがあると言った話を聞いたら、麻美も航平に幻滅すると思うわ」

「それって、どんな話なんですか」


華子女史が警戒するように京香さんに聞いた。京香さんは人の悪い笑みを浮かべた。


「後悔というよりも心残りと言った方が正しいわね」


ニヤリと笑って言葉を切る京香さん。なんだか嫌な予感しかしないのだけど・・・。


「京香さん、じらさないでくださいよ」


菜穂子が待ちきれないように、続きを促した。


「航平が言ったのは、セックスで麻美を気持ちよくさせてあげれなかったこと、なのよ」


三人は息をのんで、私のことを見つめてきた。私はあまりの言葉に固まって、京香さんのことを見つめていた。


まさか・・・山本さんは私とイタシタことを京香さん達に話して聞かせたの?

いや、でも、まさか・・・と、グルグルと頭の中で言葉が回る。


だからって、そんなことを京香さんに訊けるわけがない。


「麻美、またあなたは変なことを考えているのでしょう。事細かに航平が話すわけないじゃない。そうじゃなくてね、気持ちいいセックスにならなかった理由(わけ)を話しただけよ」

「なんですか、それは。気持ちよくなかったということは、麻美に無体なことをしたのですか」


京香さんが安心させるように言ってくれたけど、ある言葉に引っかかった華子女史は、一段低くなった声で言った。


「まさか、いやがる麻美に無理やりしたとか」

「それよりひどい、SMプレイを強要した・・・なんてことはないですよね」


菜穂子と千鶴も冷えた視線を京香さんに送っているけど、言った言葉がおかしくないか? 何がそんなに変な妄想をさせることになったのか、私は聞きたいぞ。


「あんたたちは~」


京香さんは呆れたように一言いって、ため息を吐き出した。


「なんでそんな想像をしたのか知らないけど、航平はそんなことはしてないわよ。というより、どうしていいかわからなくて、おざなりなことをしただけよ。もう少し丁寧に麻美をかわいがりたかったって言っていたのよ」


・・・はい? 今、私は何を聞きまして?


私の混乱(但し表面には出てないだろう)を無視して、京香さんの話は続いた。


「まあねえ、今更な話なんだけどね、航平が麻美の前につき合った女が特殊な趣味の女だったそうよ。麻美とつき合いだして、いざ事に及ぼうとして航平も困ったといっていたわ。普通が分からなくなっていたらしいのよ」

「ふ、普通がわからないって・・・」


千鶴の顔は青ざめてきた。それに対して菜穂子の目は輝いている。・・・菜穂子さん?


「普通じゃないってどんなだったんですか」

「あら、菜穂子はこういう話がいける口なの」

「ええ、まあ」


京香さんは苦笑を浮かべながら言ったのに対し、満面の笑顔で答えるってどうなのよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ