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186 女だけのランチの席で その14

沙也加は俊樹の様子に諦めたような表情を浮かべた。それからまた言葉を続けた。


「私は誕生日が来たら28歳よ。・・・私もね、去年までは考えてなかったのよ。いまが楽しいから、まだ結婚はいいかなって思ってた。でもねえ、麻美ちゃんに会って話を聞いてから考えるようになったの。今まではまだ27歳だと思っていたけど、もう27歳なんだと実感したわ。私の友達はみんな結婚して子供がいる。私はそんなに早く家庭に入るだなんて、墓場に片足を突っ込むようなものだと思っていたの。自分の時間を削って家族に尽くすなんて考えられなかった。だけど、この間その友達と会った時に私だけ会話に入れないのよ。みんなは幸せそうに子供や旦那の話をするの。私にも話し掛けてくるけど、それはわたしの結婚のことよ。もうすぐでしょって言われたわ。それを曖昧に笑って誤魔化して・・・。彼女たちに悪気はないのよ。でもね、彼女たちとは見ているものが違うのよ。それを実感したの」


また、ため息を吐き出して沙也加は続けた。


「麻美ちゃんじゃないけど、私も先のことを考えてみたのよ。そうしたらさ、なんかこのままいったら、私は結婚できない気がしてきたのよね。俊樹も今が楽しいんでしょ。まだ結婚なんて考えたくないのよね。・・・ああ、別に責めているわけじゃないのよ、ただの事実確認だからさ。それに私はどうしても俊樹と結婚したいわけじゃないの。俊樹と居るのは楽しいよ。体の相性もいいし、不満はないのよ。でも、ただズルズルとこの関係が続くだけのような気がしてきたの」


フッと息を吐いた沙也加の口元に苦い笑いが浮かんできた。


「俊樹は30歳を過ぎてから結婚をしたいのでしょ。それはそれでいいのよ。だけど、男の30歳と女の30歳って違うのよね。今は結婚の適齢期もあがってきているから、30歳過ぎて結婚して子供を産むなんて当たり前になりつつあるわよね。だからって妊娠に対するリスクが軽減されるわけじゃないし。私の友達はそのことを言ってきたの。子供は早くに作ったほうがいいって。親にも聞かれたのよ。彼とどうなっているんだって」


俊樹の顔色は色を失っていくように悪くなっていく気がした。


「あとね、うちの会社は結婚しても働いている子が多いのよ。もちろん結婚していない人もいるわよ。この間後輩で結婚が決まった子がいたの。それを聞いても何とも思わなかったのだけど、その子が同期の子と話しているのを聞いて、空しくなったのね。私のことをお局様扱いよ。それだけじゃなくて結婚できない女みたいに言っていたのよ。なんかさ~、本当にどうでもよくなっちゃったわ。仕事は辞める気はないけど、気持ちが萎えちゃったの。友達に言ったってこんなことわかってくれないわ。麻美ちゃんだったら黙って話を聞いてくれて『お仕事しているといろいろありますね』って言ってくれたと思うのよ。ううん、何も言わなくていいから、聞いてくれるだけでよかったのよ」

「それって麻美ちゃんに迷惑だろ」


俊樹が口を挟んだ。沙也加は軽く目を見開いた後、悲し気に視線を落とした。


「ほら、俊樹はそうじゃない。少しの愚痴も聞いてくれる気はないんでしょ」

「そんなこと言ってないだろ」

「ううん。前に言われたもの。疲れているのに愚痴なんか聞きたくないって。だから、私は俊樹の前では弱音を吐かないようにしてきたの。でもねえ、本当に疲れちゃったの。会社では口うるさいお局様扱い、恋人は6年つき合っても私のことをわかろうとしてくれない。そうよね、俊樹は本当は私みたいな女じゃなくて、麻美ちゃんみたいなおとなしい子のほうが好みなんだものね。だからさ、もういいよ。別れましょ」



「この後私達は店を出て帰ったのだけどね」


京香さんも苦笑いを浮かべている。


「カラオケ店にいる間、俊樹は何も言わなかった。たぶん言えなかったのだと思うな。でも、私も俊樹たちのことを気にかけている余裕はなかったのよ。私もね、沙也加の言葉から考えてしまったから。私と典行の関係をどうしようかと思ったのよ。私が出した結論はやはり別れることだった。でも別れを切り出したら典行は嫌がったんだよね」



京香さんと典行さんの出会いは10年ほど前に遡るそう。まだ高校生だった典行さんは、喧嘩で怪我をして倒れていたところを京香さんに拾われた。京香さんのアパートに連れていかれて怪我の手当てをされた。行くところがないという典行さんを一晩泊めたそうだけど・・・お約束のように典行さんは京香さんに手をだそうとして返り討ちにあったそうだ。


そこから、京香さんのことを追いかけまわすようになったとか。口説いてくる典行さんのことが煩わしかったからか、京香さんは条件を出したそう。まず、高校は卒業をすること。次にちゃんと一人で生活できるようになること。そうしたら考えてやるって。


典行さんは休みがちだった高校に行くようになり、ちゃんと卒業をした。教師や親から進学しろと言われたけど、就職をしたそうだ。それと共に家を出てアパートで独り暮らしを始めたのだった。


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