183 女だけのランチの席で その11
そんな引け目を感じている自分が嫌になっていたのに、見合いの話だろ。自分の不甲斐なさを棚上げして、麻美のことを責めてしまった。
見合いのことがどうなったのか気になったけど、すぐに会う勇気もなくて結局麻美と会ったのは、前回に会った時からひと月も経ってしまった。会って・・・・驚いたよ。麻美がすごく痩せていたことに。だけど、俺と会えたことがうれしいと態度が物語っていたから、また体調を崩していただけだろうと思うことにしたんだ。
またというのは前回に会った時にも、麻美は酷い風邪を引いた後で少し痩せていたからなんだ。
この日も結局は喧嘩別れをすることになってしまった。麻美は一度会うだけだと言っていたのに、見合い相手ともう一度会うことになったと言ったから。麻美の親が相手のことを気に入ったようで麻美に会うことを強要していたみたいだ。
これが麻美の親の意志なんだと思った。『俺は麻美に相応しくない。もっと相応しいやつが現れたから、麻美と別れろ』ということなんだと思ったよ。
次に会った時、麻美の様子で見合い話を断っていないことは察せられた。でも、会う約束をした時の、義理は果たしたとばかりの晴れ晴れとした声を信じようと思ったんだ。
だけど、どことなくギクシャクした空気が流れていて・・・。本当は麻美が不安を抱えているってわかっていた。でも、どうしていいのかわからなかった。
結局いら立ちを麻美にぶつける形になってしまって、酷い言葉を言って泣かせてしまった。このままじゃ本当に駄目になると思って、見合いの件が片付くまで会わないと言って別れた。
本当は不安で仕方がなかった。見合い相手とどんな時間を過ごしているのか。親から俺と別れろと言われているんじゃないかとか、そんなことばかり考えていた。
思っていたよりも早くに麻美から連絡が来て、驚いたけどうれしかった。前回から2週間後、いつもの場所で会って、麻美の強張った表情に別れ話をされるのだろうと察することが出来た。
意図したわけじゃないけど、話をするのに選んだ場所は、俺が告白をした場所だった。
麻美はどう切り出そうと迷っているみたいだった。それなら引導をさっさと渡してもらおうと思って、俺から見合い相手とどうなったのか聞いたんだ。
麻美は見合い相手に断ったと言った。その言葉に俺はホッと息を吐き出した。じゃあ、俺が考えたことは杞憂なんだと思った。なのに、麻美が続けて言ったんだ。『私と別れてください』と。
その言葉の意味がわかった時に俺は思った。断ったというのは嘘で、俺と別れてそいつとつき合う気なのだと。そう思ったから、俺は詰るように麻美に言葉を投げつけた。だけど、麻美は俺の言葉を静かに受け止めた。
そして麻美は今まで俺に言えなかったことを話してくれたんだ。家の事情というやつを。俺は黙ってそれを聞いていた。
麻美は何度も考えたのだろう。俺との未来のことも。でもそれは家族と俺とを天秤にかけるものだった。両方を一緒に取ることが出来ないもの。
麻美はそう結論づけていた。
いや、違うな。そうさせたのは俺だ。俺が聞きたくないと逃げ回ったから、この日まで麻美は話せなかった。
そして、そのせいで麻美を苦しめた。本音で話せない関係ってなんだ。いつから麻美は心からの笑顔を見せなくなったのか。
そう思ったら、別れを了承するしかなかった。少しでも麻美の心の負担を取り除いてやりたくて、自分が悪かったところをあげてみたけど・・・。
「好きだよ、麻美。君と一緒に暮らすことを夢見たくらいには大好きだ」
と言って、麻美のことを抱きしめた。麻美はされるがままに抱きしめられていたけど、俺はその痩せた体を実感して、本当にもう駄目なんだと思ったよ。
最後だからと麻美の家の前まで初めて送ったよ。麻美の家を見て諦めがついた。あんな家のお嬢さんじゃあ、最初から縁がなかったんだ。
◇
京香さんの言葉に言葉を失くしたみたいに黙りこむみんな。私もあの時に山本さんに言われていたけど、同じ時期に同じように不安を感じていたということに驚いてもいた。
やはり私と山本さんは似ていたのかもしれない。お互いに言いたい言葉を飲み込んでしまうところとか。
ハア~と千鶴がため息を吐き出した。
「意外といい奴だったんじゃないの、山本さんって」
「ところがねえ、沙也加に言わせると航平は悪いやつなのよ」
京香さんが千鶴の感想に苦笑をしながら言った。
「どこがですか。別れ話をされて怒りださずに、受け入れてくれたんでしょう」
千鶴が不満そうな顔をしてそう言った。
「だからね、そこが悪いのよ」
そう言って京香さんはまた、話しだしたのよ。
◇
航平は麻美との別れ話をこう締めくくったのよ。
「麻美はどう思っているかは知らないけど、見合い相手とのことは終わってない気がするんだ。俺がどうこう言えた義理じゃないけど、そいつが麻美のことを受け止めてくれるといいなと思うよ」
そうしたら、沙也加が航平のことを殴ったのよ。「バカ山本!」と言いながらね。




