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178 女だけのランチの席で その6


浩二さんと二度目に会う前に、山本さんとホワイトデーで会って、また喧嘩をした。私が見合い話を断ってなかったことを、話してしまったから。私は断ってもらうつもりだったけど、千鶴の助言で母親が仲介してくれた人に連絡をして、二人で会うことが決定していた。結局嘘をつけなくて彼にバレてしまい、久しぶりの楽しかったデートは、気まずい思いで別れることになった。



そう言ったら、みんなの視線が千鶴に集中した。千鶴は居心地を悪げに首を竦めていた。でも、みんなは何も言わなかった。



ホワイトデーの翌週に浩二さんと二人で会った。家のそばに迎えに来てくれて、三保の水族館に行った。私は浩二さんに断ってもらおうと思っていたから、変に構えることもなく素のままで浩二さんに接していたの。ここに来たのは小学校の社会科見学以来だったから、浩二さんを放っぽって展示物に見入ったりしていたわ。・・・今となっては無駄な努力をしたと思うけど、あの時は振り回して嫌われようと思ったのよ。でも、私がしたことは逆に好感度を上げるだけだったみたいで・・・。とどめのつもりで手相占いもしたのよ。だけど、占うんじゃなかったと後悔したのよ。



「麻美にしては珍しいじゃない。占いをして後悔するなんて」


千鶴が合いの手を入れてきた。私は苦い笑いを口元に浮かべた。


「そうね。まさか・・・占えないなんて思わないじゃない」

『占えなかったの!』


千鶴と菜穂子と華子女史がそろって驚いた声をあげた。


「占えなかったと言うと、語弊があるんだけど・・・私が占う順番って、感情線で性格を視て、頭脳線で仕事運や勉強のことを視て、生命線で健康面と運勢を視るでしょう。もちろん運命線があれば運勢は運命線で視るのだけど・・・。それで、浩二さんの手相を視た時には、ここまでは順調に視れたのよ。でも、結婚線から恋愛関係を視ようとしたら、ことごとくはずれてしまったのよ。こんなことって千鶴以来だったから、私は困惑してしまったわ」


私の言葉に顔を見合わせるみんな。京香さんも何も言わずに黙っていた。私は軽く深呼吸をして、続きを話しだした。


「お店を出て帰ることになって、迎えに来てくれたところまで来たの。そこで降りて家に帰るつもりだったのに、浩二さんは家まで送ると言って車をうちに続く道に入ってくれたわ。うちの前の道って狭いじゃない。車が一台通るのがやっとよね。だから山本さんとはいつも公民館の前で別れていたのよ。なんか悪いなと思っていたのに、浩二さんは家の敷地まで入って車を停めたのよ」

「はっ?」


と菜穂子が大口を開けて目を見開いた。


「私が降りるより早く浩二さんは車を降りてうちの呼び鈴を鳴らしてしまって、出てきた父に挨拶をして帰って行ったわ」

「えっ?」


華子女史も菜穂子と同じように一言発して、口を開けて固まった。


「うちから車を出すにはバックで出なければいけないでしょう。私は道に出て車が来ないか誘導したの。浩二さんは道に出たところで、助手席の窓を開けて手を伸ばしてきたから、握手だと思って私も手を握ったのよ。そうしたら・・・」

「そうしたら?」


京香さんが続きを促すように私の言葉を繰り返した。


「握手していた私の右手をすくいあげるように持ち上げられて、中指の指先に下平さんの唇が触れたのよ」

『・・・』


みんなの声にならない声を聞いた気がした。


「そのまま何事もなかったように手を離されて、浩二さんは帰っていったのよ」

「聞いてない! 聞いてないわよ、麻美! なんでその時に私に言わないのよ!」


千鶴が興奮して立ち上がった。千鶴の腕に京香さんは手を掛けて、座れと身振りで示した。千鶴もハッとして席に座り直した。私は千鶴が座るのを待って続きを話しだした。


「家の中に入った私に、両親はどうだったのか聞いてきたの。私はこの話は断ってと言ったら『家まで送るくらいだから、浩二さんに気に入られたんじゃないのか』と言ってきたのよ。でもそれは『紹介してくれた人への義理だから』と、私は答えて『とにかく断って』と言い張ったの。・・・だけど結局母から断ってくれなかったから、私から浩二さんのところに連絡をする羽目になったわ。それに浩二さんからからもそこまでの2週間、断りの連絡は来なくて・・・。連絡をしたら電話で話すのではなくて、直接会って話したいと言われて、気がつくと会う約束をさせられていたの」


私はハア~とため息を吐き出した。みんなは何か言いたげにしていたけど、何も言わずに話を聞いていた。


「浩二さんに会う約束が2週間後だった。・・・その前の週に山本さんと会ったのだけど、この日、初めて山本さんと会うのが憂鬱だったの。理由は明白よね。浩二さんに断れないまま山本さんと会うんだもの。この頃の私はよく眠れなくて酷い状態だった。でも、それでも、私は山本さんと会いたかった。そばに居られるだけでいいと思っていたの。揺らいでしまう私の気持ちを捕まえていて欲しかったのよ」


あの時のやるせない気持ちが込み上げてきて、それと共に涙もこみあげてきた。瞬きをしたらポロリと一粒落ちていったのでした。


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