174 女だけのランチの席で その2
京香さんと千鶴たちが知り合ったのは、私達が高校を卒業した年だった。夏休みがみんなと合わなかった私に、年末はみんなが合わせてくれたの。それで、みんなと会いカラオケに行く途中で、京香さんと会ったのよ。京香さんは私達が同じ中学の後輩とわかって、嬉しそうにしていたのよね。
その後、翌年の夏休みに私が帰ってきて昼間千鶴と出かけて、この時にまた京香さんと会ったの。何故か3人で喫茶店で話すことになって、千鶴と京香さんが意気投合をしたのよね。この時に二人は連絡先の交換をしたはず・・・。
そのあと、一度菜穂子と華子女史も含めて、女5人で会ったことがあったはずだった。
◇
私は改めて部屋の中にいるみんなの顔を見ていった。
だから、この状況はおかしくはない。おかしくはないけど、なんでみんなは京香さんが居ることを黙っていたの?
「麻美、元気そうで安心したわ」
京香さんに話しかけられたけど、なんて答えていいのかわからない。
あれ、待って。
最後に京香さんと会ったのっていつだっけ。
今年の1月・・・ううん、違う。みんなで居酒屋に行った時だから、その前。昨年の10月か11月だったはず。
その後は、会う機会がなくて・・・。いいえ、違うわね。京香さんに申し訳なくて、会うことが出来なかったのよ。
本当は謝りたかった。紹介してもらったのに、うまくいかなくなってしまったことを。
「あの、京香さん。私、京香さんに謝らないといけなくて」
「待って。謝るのなら私よ、麻美。だけど、その話はご飯を食べてからにしましょう」
京香さんは微笑んでそう言った。その笑顔に少し違和感がある。なんだろう。今までは頼れる姉御な感じだったのに、今の京香さんは聖母のように優しく微笑んでいる。もしかしてと・・・予感のままに聞いてみる。
「あの、京香さん。もしかして・・・その、お腹に」
「あら、わかっちゃった」
『ええっ!』
私の言葉に幸せそうに微笑む京香さんに、気がつかなかったのか驚く千鶴たち。確かに京香さんは体格がいいから妊娠していたとしてもわかりにくいだろう。でも、今までと雰囲気が全然違う。それに気がつかなったのかしら。
「おめでとうございます、京香さん」
「ありがとう、麻美。あなたもおめでとう。結婚が決まったんでしょ」
「ありがとうございます。でも・・・」
「ああ、だから、その話はあとでね。私も話さなきゃならないことがあるのだから」
京香さんが微笑んで言ったところで、そこに料理が運ばれてきた。
「じゃあ、いただきましょう。本当にお腹がすいたわ」
食事が終わるまでは和やかに会話が弾んだ。京香さんのお相手は居酒屋で会った彼氏さん。いや、今は旦那様の典行さん。私が京香さんと会わない間にいろいろあったらしいのよ。なんか京香さんは別れようとしたらしいのだけど、典行さんは承諾してくれなくて気がついたら妊娠、入籍をすることになってしまったらしい。そうか、典行さんが頑張ったんだ。
幸せそうに京香さんが笑うから、よかったのよね。きっと。
空いた食器を店員の方が片付けて、お茶とお菓子が並んで「ごゆっくりなさってください」と、出ていったところで、京香さんがほお~と息を吐き出した。
「そういえば、ごめんね、麻美。だまし討ちのように連れてこさせたりして。でも、どうしても気になっていることがあるからと、千鶴に相談したのよ」
「いえ、私のほうこそ、そのすみませんでした」
京香さんの言葉が切れた隙に、私は言葉を挟んで頭を下げた。
「だから、違うのよ。謝らないといけないのは、私なんだってば。あの時麻美を誘ったのは、俊樹と会わせたかったからなのよ」
「はっ?」
京香さんの言葉に顔を上げた私は口を開けて、固まってしまった。
いやいや、待ってよ。俊樹って、原田さんのことよね。あの時には原田さんには沙也加さんがいたのよ。なのになんで原田さんに会わせたかったの?
「だってね、俊樹と沙也加って似た者同士なのよ。いい時はいいんだけど、一度頭に血が上ると周りが見えなくなって言い争いを始めるのよ。お互いに折れるってことをしないの。何度あの二人の喧嘩をみたかわからないわ。だから私はね、二人は別れた方がいいと思ったのよ」
京香さんの口元に苦笑が浮かんだ。
「沙也加と真逆の麻美なら、俊樹にお似合いだと思ったのよ。でも、これは私の勝手な希望だったわ。あの時に俊樹は麻美に興味を示したけど、航平が麻美のことを気にしているのを見て仲を取り持つようにしたじゃない。もうここで私の思惑は外れてしまったのよ。俊樹が仲間を大事にする奴だってことを忘れていた、私が悪かったのよね」
千鶴が目を猫のように細めて、京香さんのことを見つめながら口を開いた。
「京香さん、私達にもわかるように話してくれませんか。なんか私が頼んだこととは違うことをしようとしていたみたいですけど?(勝手に修羅場りそうなことに麻美を巻き込もうとするな!)」
・・・なんか千鶴の心の声が聞こえた気がするけど、私の気のせいよね。




