170 ウエディングドレス選び! その2*
さて、ドレスの形について説明をしていただいたので、もう一度それぞれのドレスをじっくりと見比べます。
「へえ~、壮観だね」
男の人の声に振り向くと、浩二さんがそこに立っていました。浩二さんのほうは終わったみたいです。
「浩二さんは終わったの」
「ああ。普通の白いタキシードにしたよ」
浩二さんは私のそばに・・・って、千鶴? なんで浩二さんの妨害をするように立ちふさがるの。
「下平さん、お疲れ様でした。あとは任せてお帰りくださっていいですよ」
「はあ?」
千鶴に言われて浩二さんの口から間の抜けた返事が聞こえた。・・・いや、私の口からも出かかったけどね。はあ~? って。
「そうよ~、ここからは私達に任せていてね」
「麻美にぴったりのドレスを選んであげるから」
菜穂子と華子女史も千鶴に並んでそう言った。
「え~と、それなら俺も」
「あら、私達の見立てじゃ、信用ならないとでもいうのかしら」
浩二さんが言いかけたのに、千鶴が言葉を被せるように言った。
「そんなことはないけど」
「じゃあ、任せてくれるのね」
「いや、でも」
千鶴の押せ押せムードにしどろもどろな浩二さん。もしかして浩二さんは千鶴みたいなタイプは苦手なのかしら。
そんなことを考えていたら、浩二さんが私のほうを見てきた。助けを求める視線に私が口を開こうとしたら、先に華子女史が話しだした。
「下平さん、これは私達からのプレゼントよ。麻美にぴったりのドレスを選ぶから、結婚式まで見るのは待ちなさいね」
「そうよ。当日に麻美のことを惚れ直させてあげるからね」
・・・つまり浩二さんへのサプライズなのね。結婚式当日まで、私がどんなドレスを選んだのかを見ることが出来ないのは。
でも、浩二さんはまだ何か言いたそうにしていた。その顔を見て千鶴の口元に笑みが浮かんだ。
「下平さんが麻美と居たい気持ちはわかるけど、たまには私達に譲ってくれてもいいんじゃないかしら。それともこのあと何か二人で出かけなければいけない用事でもあるの」
「それはない」
そう。今日はドレス選びがメインだもの。それも、メインの白いドレスを決めたら、お色直し用の色のドレスを選ぶのは、また別の日でもいいかなと思っていたのよ。
「じゃあ、今日は麻美といることを譲ってほしいわ。私達だってこんな風に4人で会うのは久しぶりなのよ。たまには女同士で話したいじゃない」
千鶴のいうことはもっともだ。千鶴とは会う機会が多いけど、華子女史とは向こうから戻ってきてから飲み会以外で会うことはできなかったもの。でも、それならそうと先に言っておいてほしかったわ。
浩二さんは千鶴の言葉に頷いた。
「わかった。それじゃあ、麻美のことを頼むよ。麻美、お義父さんたちには伝えておくから」
「あっ、私が自分でいうけど」
「いいよ。帰るついでに少し寄るだけだから」
そういうと、浩二さんは再度千鶴たちに挨拶をして、ドレスルームから出ていったのでした。
私は浩二さんが居なくなると、軽く3人のことを睨むようにした。
「そういうことは先に言っておいてよ」
「そうなんだけどね」
千鶴も軽く眉を寄せて言ってきた。
「まあまあ。説明はあとでするわよ。それよりもドレスを選んでしまいましょう」
華子女史が意味ありげに口を挟んできた。他にも何かあると含んだ言い方に、私は渋々頷いた。
「じゃあ麻美、どのタイプがいいの」
「ええっと、どうしようかな~」
「決めにくかったら、体にあてて見ましょうか」
千鶴の言葉に係のお姉さんがドレスを私にあててくれた。私も鏡に映った姿を見ながら見比べていく。
結論!
「麻美にはプリンセスラインかAラインのドレスがいいわね。エンパイアラインも捨てがたいけど」
千鶴の言葉に菜穂子と華子女史も頷いた。うん。私もそう思う。スレンダーラインとマーメイドラインのドレスはもう少しスラリとした体型の人のほうが似合うと思うのよね。千鶴や華子女史が着たら、似合うと思うのよ。
「でも、エンパイアラインのドレスは私はいいや」
「エンパイアラインは嫌なの」
「ううん、ちがうの。どうせならお姫様気分を味わいたいじゃない。ほら~、ベルサイユみたいな」
私の返答に3人は破顔した。
「そういえば麻美は言っていたわね。日本じゃ社交界デビューなんて、ブルジョワじゃなきゃないから、結婚式の時くらいしかドレスを着ないなって」
「そうそう。ベルサイユみたいなドレスなんて、普通は着れないよねって言ってたわねえ」
漫画、アニメ好きの私の嗜好を思い出してくれて、ありがとう。あんなフリフリのひらひらなんて、普段は邪魔だもの。こういう特殊な時に着るに限るわよね。
「じゃあ・・・そうねえ。麻美、提案なんだけど、白いドレスはAラインのドレスにして、色のドレスをプリンセスラインにするのはどうかしら」
「あっ、それはいいかも」
ということで、私についた係のお姉さんと、手が空いているのかもう一人のお姉さんが、ドレスをサササッと入れ替えてくれたのでした。




