17 気分は交際のやり直し?
12月の四週目の土曜日。クリスマスの次の日だから12月26日だった。この日山本さんと会ったのは夕方からだった。食事をした後いつものようにドライブに行った。岬まで。
そこの駐車場で、私は一日遅れのクリスマスプレゼントを渡した。
「開けていい」
満面の笑顔で言われて頷いた。ガサガサと包みを開ける音を聞きながら、私は目を伏せていた。
「もしかして、手作り?」
「う、うん」
「着てもいい」
「えっ、ここで」
顔をあげて山本さんを見たらシートを倒して空間を作ると、着ていたセーターを脱いで私が作ったセーターを着てしまった。藍色が彼にとても似合っていると思った。
「暖かいよ、とても。作るの大変だったんじゃないの」
「そんなに大変じゃなかったのよ」
手を広げて私の事を抱きしめようとしたから、私は手を突っ張って彼の抱擁から逃れようとした。
「麻美?」
彼が不審そうな声を出した。
「えーと、そのセーターにファンデーションをつけたくないな~、と」
そう言ったら彼は「ああ」と言ってセーターを脱いだ。そして自分が着てきたセーターを着こみ、丁寧に私が作ったセーターを袋の中へと仕舞ったの。
そうして手を広げたから、抱きしめられる前にその腕の中に飛び込んだ。背中に手を回してしっかりと彼に抱きついた。
少し間をおいてからそっと彼に抱きしめられた。
その様子にクスッと心の中で笑った。自分から抱きしめたりするのは平気なのに、私からされると戸惑ってしまうのね。
そんなことを思っていたら、躊躇いがちの声が聞こえてきた。
「その、麻美。キスしていい」
(・・・今更聞くの?)
顔をあげたら真剣な目をしていたから、コクンと頷いた。軽く触れてすぐに離れて、目を合わせられなくて・・・。また、抱きしめられた。
なんか、初めてキスしたような変な気分になった。
「あっ、そうだ」
思い出したような声をあげて、彼は後部座席から大きな袋を取った。それを私に差し出してきた。
「どうぞ」
「ありがとう・・・って、えっ? 開けていいの」
「うん」
渡された感触から何となくわかったけど、袋から出して驚いた。大きなシベリアンハスキーのぬいぐるみ。
「これって、この前に私が見ていたものよね」
「麻美が気に入ったみたいだったから、プレゼント」
「プレゼントって・・・もう、もらっているのに」
「麻美が喜ぶ顔が見たくて。・・・もしかして迷惑だった」
「違うの。驚いただけ。・・・本当にいいの」
「もちろん」
にっこりと微笑まれて、私はハスキーを抱きしめた。このぬいぐるみは、この前出掛けた時にファンシーな雑貨屋で見つけたもの。大きさ的に抱き枕に丁度良さそうだと思った。今も抱きしめながら胴回りの固さが丁度いいな~と思って抱きついていた。
そうしたら「麻美」と呼ばれて、ぬいぐるみを取り上げられた。
「あっ」
「抱きしめるのは、今はこっち」
といって彼に抱きしめられた。さっきより力が入っている気がして、私の口から言葉が零れた。
「ぬいぐるみに嫉妬?」
言葉の代わりにもっとギュッと抱きしめられる。
「変なの」
「なんで」
「くれたのは山本さんなのに」
そう言ったら、唇を塞がれた。すぐに離れたけど、動いたらくっついてしまいそうな距離に顔がある。
「名前を呼んで」
「・・・無理」
「どうして」
「・・・ハードルが高い」
また、唇を塞がれた。
「名前を呼んでくれるまで、離さないよ」
「それって横暴」
「なんで。自然な要望だよね」
「だから無理。心臓がどうにかなっちゃいそう」
そう答えたら、彼は胸に耳を当ててきた。くせ毛の私と違ってサラサラのストレートな髪が目の前にある。触ろうかどうしようか迷っていたら、彼が顔をあげた。
「本当だ。凄く鼓動が速いね」
間近の笑顔に心臓が跳ねる。もう一度口づけをしてから、彼は運転席に座り直した。思い出したようにぬいぐるみを取って渡してくれたの。私は毛並みに顔を埋めるようにぬいぐるみを抱きしめた。
「ところで麻美は初詣はどこに行くの」
「初詣? うちは特には行かないけど」
「じゃあ、一緒に行かないかい」
「本当に。行きたいです」
「じゃあ、決まり」
嬉しそうにニッコリと笑ってきた顔を見て、私は顔を伏せた。
「それじゃあ二日でいい?」
「二日? ごめんなさい、二日は駄目なの」
「何かあるの」
「親戚が集まるのよ。祖母がいるからおじおば達がくるの」
「それって麻美がいないと駄目なの」
彼の言葉に瞬きを繰り返して、彼のことを見た。なんでそんなことを言うのだろう。
「うちはおじおばにとって実家になるの。祖母もいるし集まるのは毎年恒例になっているのよ」
「でも、麻美が家にいないといけないわけじゃないよね」
彼が何を言いたいのかわからない。私に親戚を放っておいて出掛けようということなの。
「あの、母が足を悪くしているから、多分私がいないとだめじゃないかと」
そう答えたら視線が冷たいものに変わった気がした。
「そうか、それじゃあ仕方がないね」
私と視線を合わせずに前を向いてそう言った。何と返していいか困ってその横顔を私は見つめていた。
「それじゃあ三日の日にしようか」
「う、ん。そうね」
決めたという感じに私の方を向いてきた彼に、何故か不安を感じながら相槌を返したのでした。




