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166 隼人の家で・・・こんにゃろう! 

私が無茶苦茶に振り下ろす新聞から修二は逃げようとしたけど、和彦と浩二さんにつかまれて動けない。修二の口から情けない声が漏れてくる。


「わ~、悪かったってば~。許してくれよ~」

「おい、麻美の気が済むまでつき合ってやれよ。新聞だったらそんなに痛くないだろう」


和彦が冷たく声を掛けた。


「確かに痛くはない。痛くはないけど、こんな情けない姿を子供に見せたくないんだ~」

「自業自得だね、伊藤君。君が麻美にしたことは聞いているからね」


浩二さんも冷たい視線を修二に向けながら言った。


「だからって、けつを叩くことねえだろ。そんなに俺の心を折りたいのかよ」

「当然でしょ! 奥さん、子供がいるのに、何してんのよ!」


私はパシパシと修二のお尻をめがけて新聞をふるった。最初は呆気にとられたように見ていた千鶴と菜穂子は、今は声を上げて笑っている。華子女史も、口を押えて声を上げないように笑っていた。


「大体さ~、私を怖がらせるにしたって、やり過ぎでしょう。ましてさ、キスする必要なんてないじゃない。奥さん、子供に謝れ!」

『はっ(へっ)?』


みんなの笑い声が止まったけど、私は構わずに言葉を続ける。


「あとさ、あの時、和彦が来なかったから、どうするつもりだったのか聞きたいんだけど? タイミング的にも間に合うかどうかよね」

「うぐっ」


修二は変な声を出して黙った。私は新聞で叩くのをやめて、修二の前に立った。修二は不自然なくらいに視線を逸らしている。


「まさかさあ、お酒に酔った勢いで浮気をしようだなんて、考えたわけじゃないわよね」


睨みつけていたら、一瞬視線を私に向けたあと、視線を落としてから言った。


「えーと、まあ、酔っていたし・・・その、据え膳を食わないのは男としてどうかと」

「食おうとするな~!」


スパーン


修二の頭に思いっきり新聞を振り下ろした私でした。


「ちょっと、修二! 聞いてないんだけど! あんた、麻美になにしてくれてんのよ。怖がらせただけって言ったわよね。それがキス? あと、和彦が間に合わなきゃ、麻美を襲うつもりだったの? この大馬鹿野郎!」


千鶴が隣に来て、修二に文句を言ったと思ったら、和彦が押さえていた修二の腕を取り、捻じりあげた。さすが護身術を習っていることはある。修二の額に脂汗が浮かんできた。


「痛い、痛い、痛いって~。千鶴、未遂だから~」

「未遂って、お前が言うなー!」

「そうね、千鶴の言う通りだわ。あんまり女を馬鹿にしないでくれる?」


華子女史もそばに来て、浩二さんがつかまえている手を受け取ると、その手の甲に爪を立ててつねりあげた。


「痛~って~。俺が悪かったってばよ。許してくれよ」

「いいえ、まだよ。前からバカだバカだと思っていたけど、ここまでバカだったとは。一歩間違えれば犯罪者よ! 奥さんや子供に肩身の狭い思いをさせるつもりだったの?」


問いかけながら菜穂子は、かかとでぐりぐりと修二の足を踏みつけた。その菜穂子の肩に恭介の手が乗った。


「菜穂子、ちょっとどいてくれ。千鶴と華子も」


千鶴と華子が手を離すと修二はホッとした顔をした。


「修二、お前、一遍死んどくか?」

「それか麻美が言ったように、もう集まりに顔を出せなくなるようにするか」


智樹も恭介の隣に立った。男どもの中では一番小柄な修二は、二人に挟まれて顔を青ざめさせて小さくなっていた。


「そんな~。頼むよう~。俺が悪かったからよ~」


修二は二人のことを、手を合わせて拝むようにしながら見た。恭介と智樹は顔を見合わせた。


「まあ、未遂だったわけだしな」

「女性陣にこんだけ責められたんだから、反省もしただろう」


甘いことを言う二人に、私は内心ぎりっと歯ぎしりをした。


「ねえ修二、本当に反省しているの?」

「もちろんだとも、麻美」


私はにっこりと笑いかけた。


「でもさあ、さっき据え膳の言葉を言った時に、視線はどこを向いてたのかな~。私が間違えてなければ、私の胸を見てなかった?」


みんなの視線が修二を見て、私の胸へと移動をした。


『修二~!』

「あなた~!」


女性たちの声にもう一人女の人の声が重なった。後ろを向くと、笑顔なのにこめかみに青筋を立てている弓子さんが立っていた。


「さっきから聞いていれば、父親として恥ずかしいことを。いいえ。妻としてもやってられないわ。こうなったら別れましょ」

「待てよ、弓子」

「はあ~? 軽々しく名前を呼ばないでくれる」

「すみません、弓子さん」


弓子さんが睨みつけたら、修二はビシッと背筋を伸ばした。・・・なんかこの夫婦の力関係がわかったような?


「私はあなたが友達のことを本当に思っての行動だと思っていたのに」

「そりゃあ、和彦のことは友達として大事だけどよう、目の前に触りごたえのありそうなものがあったら、手を出したくなるのは人情だろう」


修二の言い分にみんなの視線が私に集まった。そのまま視線が女性たちを移動していく。かくいう私もチラリと女性たちに視線を向けた。


AよりのB・・・C・・・B・・・弓子さんはDかな? でも、私は・・・と、自分の胸を見下ろした。

コンプレックスなんだけどね~。鳩胸のせいでワンランク上に勘違いされるし・・・。


顔を上げたら、私に注目しているみんなと目が合ったのでした。


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