158 親友に・・・拗ねられた? その1
千鶴のマンションについたのはそろそろお茶の時間の3時頃。送ってくれた浩二さんは千鶴に挨拶をして帰って行った。私は着替えをして、千鶴の部屋でくつろいでいた。
「麻美、帰るのは夕方でいいの」
「うん。あ~、千鶴もうちで食べていく」
「そうねえ。ついでに泊めてもらおうかな」
千鶴は明るい声でそう言った。でも、私が来てからずっとソワソワしっぱなしだ。というよりも昨夜からずっと気にしていたのだろう。
飲み物を出してくれてローテーブルに向かい合っている。
「ところでさ、麻美。昨夜は何かなかったの」
「昨夜って・・・あったでしょうが」
千鶴の言葉に眉をひそめて返事をする。
「あー、違うのよ。修二のことじゃなくて、和彦とよ」
「はあ~? なんで修二のことは置いておくのよ。・・・まさか昨日はみんなしてグルになってたの」
「グルになってないから。先に知っていたら、私が修二のことを殴り飛ばしていたわよ」
ムッとした顔でそういったら千鶴は慌てて否定した。
「でもね、和彦が麻美を連れていったところがどこか知らないもの」
「知らないって、和彦から千鶴に連絡があったんじゃないの」
「あったわよ。帰ったら留守電に『麻美は俺の部屋に連れて帰ったけど、すぐに浩二さんを呼んで連れて行ってもらう』って、入っていたもの。だけどね、下平さんが来るまで二人だけだったでしょ。その間に何かなかったのかな~って」
千鶴の言い方に尚更ムッとした。私の表情に気がついた千鶴が、また慌てて否定をした。
「いや、わかっているのよ。何もないだろうことは。でもね、修二が体を張ってまでお膳立てしたのよ。和彦も本当の気持ちを麻美に言ったのかな~って、思ったのよ」
「はあ~? 何よそれ」
テーブルをバンと叩いて膝立ちになり、千鶴に顔を近づけて半眼で睨みつける。千鶴は目を合わせないようにしながら話した。
「だってね、麻美が和彦に連れ去られたあと、修二が言ったのよ。『これでどれだけ麻美のことを大切に思っているか、和彦も思い知っただろう』って。だからさ、和彦が告白くらいしたのかなって・・・。で、どうだったの」
好奇心を隠せない表情で聞かれて、私は脱力してテーブルに突っ伏した。
「・・・まさか、そんなことのために、修二はあんなことをしたの・・・」
「そういうことになるわねぇ~」
千鶴の相槌に顔を上げて、睨みつける。
「なるわねぇ~、じゃないでしょう。あれってトラウマものよ。力じゃ男に敵わないって思い知らされたし・・・。恐怖で男の人に触れられなくなったらどうしてくれるつもりだったのよ」
「ええっと、そこは和彦が責任を取るということで・・・」
私は体を起こしてテーブルをバンと叩いた。
「なんで和彦に責任を取らせるのよ! それよりも、本当にどういうつもりよ。な~に? 和彦を焚き付けて私に告白させて寝取らせるつもりだったわけ」
「寝取らせるだなんて・・・」
「ふざけたこと言わないで。和彦がもし、私に本気だったとしたら、ただの告白だけで済むわけないでしょうが! やることやって奪い取るに決まっているじゃない。それとも何? そんなことにはならないように、頃合いを見て和彦んちに来たとでもいうの? すぐに後を追ってこない時点で手遅れだったでしょうけどね」
私の言葉に千鶴の顔から血の気が引いた。
「うそ・・・まさか、和彦ってば、そこまで思い詰めていたなんて・・・」
「千鶴~! そんなことにはなってないから! もし本気だったらの場合でしょ! 和彦は浩二さんが来るまで、私を足止めしていただけだから!」
今度はホッとした顔をして、すぐに私の言葉に気がついてハッとした顔をした。
「足止めって・・・麻美はどこに行くつもりだったのよ」
「・・・浩二さんに合わせる顔がないから、千鶴のところに行くつもりだったのよ」
「私のところって、どうやって来るつもりだったの。・・・というか、和彦んちってどこよ」
千鶴の言葉に「はっ?」となる。
「まさか・・・知らないの?」
「実家を出たことは知っているけど、住所は知らないわよ。電話番号も教えてもらってないって、みんなも言ってたわ」
千鶴の言葉に私の顔からも血の気が引いていく。
「じゃあ、前回と今回の集まるっていう連絡は?」
「私が和彦と仕事で会ったついでに計画していたのよ。で、男共には和彦が連絡して、女子には私がした・・・んだよね。えへっ」
最後に可愛く笑っても騙されないからね、千鶴。
「ザルな計画立てんなよ・・・。もし修二の思っていた通りになってたら、私は助けもなく和彦に手籠めにされていたわけなのね。・・・次に会ったら、修二のことボコってやる」
低い声で呟いたら、千鶴が手を打ち鳴らして言ってきた。
「あっ、そうそう。来週の土曜日に少し時間を取れないかな」
「なんで?」
「修二が今回のことを謝りたいんだって。昨日はちゃんと反省させたからね」
千鶴が明るく言うということは、期待通りに隼人に落とされたようね。
「それで、場所の提供は隼人の家よ」
「恭介の家じゃないの」
「そうなのよ。その日隼人の家は誰もいないんだって。ちょうどいいでしょ」
千鶴の言葉に一応頷いておいたのでした。




