157 話したつもりはないことで・・・
他に何か話してない事ってあるのかしら? もう、眠くて考えが纏まらないんだけど・・・。
「麻美、ここで眠っちゃ駄目だよ」
浩二さんの声がするけど、目が開かないわ。このまま眠ってしまいたいのに・・・。
「しかたがないな。眠るのならベッドに行こうな」
この言葉と共に体がふわりと持ち上がる。せっかく暖かいところにいたのに、12月の冷えた空気に「やだ」と、抗議の声をあげた。浩二さんの苦笑を含んだ声が聞こえてきた。
「麻美、駄々っ子かい」
そんなんじゃないもの。温かい炬燵から移動したくなかっただけだもん。
そっとベッドに降ろされて布団を掛けられた。毛布は暖かいのだろうけど、温もりがなくてムッと眉間を寄せた。そこに何かが軽く触れて優しく頭を撫でられた。
そして浩二さんが離れていく気配がした。
そうか、浩二さんは行っちゃうんだ。
少し寂しく思いながら、意識が闇の彼方へと落ちていこうとしたら・・・。
「・・・んん?」
布団がめくれてひんやりとした空気が入り込んだと思ったら、体の上に重みが加わってきた。ついでに唇に触れた柔らかいもの。
うっすらと目を開けたら、浩二さんと目が合った。浩二さんが笑ったけど・・・あれ? なんかヤバイ気がする。
「麻美、いくつか聞きたいんだけどいいかな」
私はコクリと頷いた。浩二さんは私の顔の両側に肘をつくようにして見ているから、距離が近い。・・・というより、拘束されている感が半端ないんですけど。逃げられないよ~。
「和彦君にされた優しいキスって、どんな感じだった」
・・・はい? なんでそんなことを聞かれなきゃならないの。
眠気が吹っ飛んで目を大きく開けて浩二さんのことを見つめたの。浩二さんは真面目な顔で見つめてくるけど。・・・なんだろう、今すぐに逃げ出したいんだけど。
浩二さんの顔が近づいてきて、軽く啄むようなキスをされた。
「これとは違うのかな」
・・・って、怖いんですけど。真面目に考察しないでください。
何度か軽く触れるキスを繰り返したあと、浩二さんが笑った。
「どれも違うみたいだな。意外と難しいものなんだな~」
などと、しみじみ言うけど・・・私の顔色を見ながら何してんの!
でも、怖くて言えない。
「あとさ、和彦君に本気で怒られたのって、何をしたんだ?」
「え~と、その・・・たいしたことじゃ・・・」
「麻美、嘘は駄目だよ。本気で怒ったということは、それだけ心配させるようなことをしたんだろう。麻美が自分で馬鹿なことをしたって言ったじゃないか」
視線を逸らしたくても近すぎて逸らせない。というか、逃げ道を塞がれているよね。
「あの・・・浩二さん。いま話すようなことじゃないよね」
「別の日にしたら麻美は答えてくれないだろう」
まあ、そうかもしれないけど・・・。というかなんで尋問されているの私? 体制もおかしいよね。
「あと、和彦君に泣かされたのって何回あった?」
「・・・えー、あの、泣かされたのって、・・・色っぽいことではなくて、物理的だったというか・・・」
しどろもどろに言ったら、浩二さんがニッコリと笑ったの。
「それはわかってる。彼が麻美とそういう関係になっていたら、俺とは出会ってないだろう。それより、他の女の子にしたような優しいキスをされて、腹立たしいと言ったよな。やはり嫌い嫌いも好きのうちということで、本当は彼のことが好きだったのか」
「そんなことあるわけない・・・って、私そんなこと言った?」
半分眠りながら話していたから、自分の言葉に自信が持てない。なんか、余計なことを言ったかな。
・・・というか、やらかしたか、私。
「・・・自分で話したのに覚えてないのか。和彦君が彼女と別れた後の1年間。相当彼は遊んだようだね。来るものは拒まずだったんじゃないかと言っただろう。その女たちが麻美に言ったって話していたじゃないか」
・・・ああ、そうだった。和彦と寝た女たちが、私に見せつけるように囁いたのよ。和彦のキスが・・・って。でも、恋人気どりで和彦のそばにいようとしたけど、和彦は一度だけで見向きもしなかったんじゃなかったっけ。それで大学を卒業して地元に戻ったから、女たちは諦めるしかなかったんだよね。
・・・って、この部分を話した覚えがないんだけど。あれ?
「あと、彼に前に泣かされた時に、キスマークつけられたのはどっち」
・・・ええっ? なんで知って・・・。えっ? 私、これも話したの?
「まあ、いいか。今からじっくり話し合うことだし」
はい?
「やっぱり優しいキスは性に合わないわ」
えっ? えっ?
って~、唇をふさぐな~。
◇
結局、言わされましたよ。本気で怒られた時に何があったとか、キスマークつけられた時の事とかを・・・。
『夫婦に隠し事は無しだよ』なんて言ったけど、まだ結婚してないやい!
◇
服を着替えて送ってもらいましたよ。千鶴のところに。泊まる予定だったから、着替えを先に置いておいたんだよね。このまま家に帰ったら両親になんかあったと思われちゃうものね。




