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15 気の置けない友人達 中編

和彦とのデュエット曲を歌い終え、席に座ってアイスティーを一口飲んだ。


「麻美、お疲れ」

「和君も。・・・でもな~、やっぱり私の声じゃ高すぎるのよね。好きな曲なんだけど」

「麻美の声は高いからな~。ところでさ」


和彦はそこで言葉を切って、私に近づいて髪の匂いを嗅いだ。


「やっぱり。麻美、シャンプーを変えた?」


邪気のない顔で言われて、私はギクリとした。動揺を顔に出さないように、笑顔を浮かべた。


「変えてはいないんだけどね」

「明らかに匂いが違うけど?」

「あー、それね、いつものシャンプーを切らしちゃって、もらった試供品を使ってみたんだよね」

「そうだったんだな。・・・だけど、いつもと雰囲気も違うよな」


また、私はギクリとなった。和彦から視線を外して、アイスティーをもう一口飲んだ。喉を湿らせてから口を開いた。


「今日は髪を縛ってないからじゃないかな」

「ああ、そうか。そういや、いつも首のところでまとめていたな」


気にしないようにしていたのに、指摘を受けたら気になってきた。私は視線を外したまま、髪を耳にかけた。それでも、気になって払うように背中の方に流した。


それを見ていた和彦が何かに気がついたように、私に外へと合図を寄こした。部屋を出ると廊下を先に歩いて行ってしまった。あとをついていくと、廊下の隅のほうで立ち止まった。私の方を向いたけど、目線を合わさないようにしている。それどころか顔を隠すように手で口元を覆っていた。


「・・・・・」


小声で何か言ったようだけど、手が邪魔をして聞こえなかった。


「聞こえないのだけど」


私が文句を言ったら、私の耳元に顔を寄せてきた。


「肩のところに赤い痕」


私は肩を手で押さえると、耳に掛けた髪を反対の手で元に戻した。赤い顔で視線をずらしている和彦を睨みつけた。


「なんで和君が顔を赤くしているのよ」

「いや、だって・・・」

「想像すんな、バカ」


そう言って私はトイレに逃げ込んだ。


鏡に映して見てみる。広い襟ぐりから少し赤い痕が覗いている。私はそれを見ながらため息を吐き出した。



今日の午前。迎えに来てくれた山本さんと、街に行った。2人でウインドウショッピングを楽しんでいた。かわいい雑貨屋を覗いたりCDの新譜を見たりした。その流れでアクセサリーショップにも立ち寄った。お手頃値段のお店で、若いカップルが多かった。


イヤリング、ピアス、ネックレス、指輪と順番に見ていった。


「どれか気に入ったものってあったの」


と聞かれてハッとした。目の前のかわいい指輪に意識を奪われていたようだった。


「つけてみたら」


と言われたけど、手が出せない。私は他の人よりも指が太い自信がある。細くてかわいい手なんかじゃない。白魚のようなとまでは言わないけど、もう少し細い指だったらよかったのにとは思う。


「じゃあ、こっちは。サイズが揃っているみたいだよ」


横の棚に彼が言うように、同じデザインのサイズ違いの指輪が並んでいた。その中で花を模した指輪が気になった。中心に赤い石が入ったかわいい指輪。かなり大きめのものを取ってはめてみたら流石にブカブカだった。そこからサイズを見るように一つずつはめて行く。ぴったりのサイズを見つけて、自分の指のサイズにガッカリした。戻そうと外したら彼に聞かれた。


「それが気に入ったの?」

「ええ。でも、普段身に着けていくところはないから」


そう言って元の場所に戻したのに、彼がそれを手に取って店員とやり取りをしている。包装されたものを受け取ると、私のところに来て「はい」と手渡してきた。


「えっと?」

「次に会えるのはクリスマス後だから、少し早いけどクリスマスプレゼント」


そう言う風に思ってくれていたのかと、嬉しくなった。ニッコリと笑って「ありがとう」と言ったら、彼は私から視線を外して照れていた。


最近評判のパスタが美味しいというお店に行って、食事をした。指輪をしているところが見たいと言われて指にはめた。


小説とかで表現されるような白魚のような手だったら、この指輪も映えるのにと思った。


食事を終えて車に乗って移動をした。指輪が嬉しくて、ついつい見入ってしまった。辿り着いた場所を認識したところで、心臓が煩く騒ぎ出した。


「行こうか」


彼に促されて車を降りた。肩を抱かれて部屋の中へ。部屋の中に入ったらすぐにキスをされた。


この前と同じように啄ばむようなキスをされて、私も彼の首に手を回した。キスの雨を目を閉じてうっとりと受けていたら、首筋にキスをされた。と思ったらチリリと痛みを感じた。


「痛っ・・・なに? ・・・あっ・・・待って・・・クッ・・・やだ」


体中に痛痒さを与えられて、私は悲鳴をあげたのだった。



彼が離れたのを感じていたけど、気だるさから目を閉じた私はそのまま眠りそうになっていた。


「麻美、起きて。お風呂に入ろう」


彼が戻ってきて私を起こしてくれた。眠りそうな私を抱き上げて浴室に連れて行ってくれた。体を洗われているうちに、頭が覚醒してきた。


「じ、自分でやるから」

「いいよ。洗ってあげるよ」

「恥ずかしいから自分でやる」

「・・・それじゃあ、かわりに俺を洗って」

「無理~!」


結局は彼に髪まで洗われてしまいましたとさ。


浴室を出てバスタオルで体を拭いてバスローブを着る時に鏡に映った自分の姿にギョッとなった。


「麻美、髪を乾かすからこっちに来て」


と言われた私は彼のそばに行き、彼の顔を勢いよく両手で挟んだのでした。


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