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149/238

149 思ったよりもショックを受けていたみたい

浩二さんは炬燵の天板の上に置いた手をぐっと握り締めていた。和彦の余計な行動のせいで、誤解しまくっている浩二さんの説得は大変そうだと思ったの。


「浩二さん、前にも言ったよね。私は和彦のことを、好きか嫌いかと言われたら、嫌いよ」

「そう言われたけど・・・」


尚更困惑したようで、浩二さんは視線をあっちこっちに彷徨わせている。私はそんな浩二さんのことをじっと見つめていた。


「本の趣味とか近いし話は合うけど、私は和彦の女性に不誠実なところが嫌い。昨日だって、私のことをわかっているくせに、泣かすためだけにキスしてきたのよ。嫌がらせにもほどがあるわよ」


私の言葉に浩二さんの眉がピクリと動いた。


「キス・・・麻美にキス・・・そして襲おうとした、と」

「襲われてないから。振りだけで、逆に優しくされたわよ」


思い出して顔をしかめながら忌々しい口調で云い捨てた。浩二さんは一度大きく息を吸って吐き出すと聞いてきたのよ。


「一体昨日は何があったんだ」

「そうよね。バカ彦のことだから浩二さんに電話した時に、私が修二にホテルに連れ込まれそうになって、ショックを受けているくらいにしか言わなかったでしょう。バカ彦の部屋に行ってからのことも含めてすべて話すわ」


そう言ったら、浩二さんは目を見開いて私のことを見つめてきた。何を驚いているのかしら?


「無理に思い出そうとしなくても・・・」

「浩二さん、別に辛いことも酷いこともなかったから。それよりも相変わらずの自分の迂闊さに気がついただけよ」


真面目な顔でそう言ったら、浩二さんはしばらくじっと私の顔を見つめてから「話してくれ」と言ったの。


私はまず昨日のことを覚えている限り話したの。


まずは居酒屋で婚約指輪を見せびらかして、恭介が自分も結婚が決まったと報告してきた。それがうれしくて一軒目なのに飲み過ぎた。それで、言わなくていいことまで言ってしまったの。仲間内の恋愛事情なんて、気がついていても、いつもスルーしていたのよ。だけど恭介が結婚すると聞いて、仲間内でカップルが成立することがなかったと思ってしまったの。それがつい口を出て『そういえば』と出てしまったのね。これに気がついた和彦に問われるままに答えてしまったのが悪かったのね。不用意な一言だったと、いまならそう思っているの。


一軒目の居酒屋を出る時に、私はトイレに寄ったの。いつもならお店を出る時にいくようなことはしないのだけど、タイミングを逃してしまったの。それに千鶴が必ず待っていてくれたから、昨日も待っていてくれると思っていたのよ。だけど、待っていたのは修二だけで、それをおかしいと思わずに歩き出したのよ。前から来た人とぶつかってよろけてしまって支えられたんだけど、酔っていたからか歩いて行く方向が違うことに気がつかなくて。気がついた時にはホテルがある通りに来てしまっていたの。


逃げようとしたんだけど、逆に拘束するように抱きしめられて・・・。一応告白らしきものはされたけど、あれは絶対違うと思ったの。それに私は浩二さんと一生を共にするって決めたから。そう伝えたら、無理やりキスされたのよね。


と、ため息と共に言ったら、浩二さんが「ちょっと待った」と言ってきた。私の後ろに移動してきて、ぎゅっと抱きしめられた。


「な、に? 浩二さん」

「震えているから。麻美、無理して話さなくていいから」


言われて気がついた。胸の前で握った手が震えていることに。それを自覚したらもっと震えてきた。浩二さんが私の手を包むように握ってきた。


「もう、思い出さなくていいから。忘れよう、麻美」

「だ、いじょう、ぶ」


声を出したら歯の根が合わなくて、切れ切れの言葉になった。それと共に涙がポロリと落ちた。止めようと思うのに次から次へと溢れてくる。


「うっ・・・ふっ・・・」


口からも堪えきれなくて嗚咽が漏れてきた。そのまましばらく浩二さんに抱きしめられたまま涙を流していた。


浩二さんに会ったら泣いてしまうのはわかっていたもの。だから迎えになんか来てほしくなかった。弱い自分なんか見せたくなかった。男の人が怖いだなんて知りたくなかった。千鶴に庇われたまま知らない振りしていたかった。


しばらく泣いて涙と共にいろいろ考えていたら、泣き止むころには気持ちも落ち着いてきた。


私の涙が止まったのを見て浩二さんが離れて、またお茶を入れてくれた。暖かいお茶を飲んで「はあ~」と息を吐き出した。まだ、心配そうに浩二さんが私のことを見ていた。


「えーと、ありがとう、浩二さん」

「俺は何もしてないよ。・・・というより何も出来なかった。こんなことなら一緒に行けばよかったと思ったよ」


その言葉に私の口元に笑みが浮かんだ。『行かせなければよかった』と思われなかったことがうれしかった。


「それはこんなことが起こるとは思わなかったのだから、仕方がないことよね。私も修二があんなことを計画しているなんて思わなかったもの。・・・ということで、続きを話していいかしら」


私がそう言ったら浩二さんが驚いた顔をした。



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