148 翌朝の出来事・・・
翌朝、目を覚ました時に、隣に浩二さんはいなかった。しばらくぼんやりと布団の中にいたら、浩二さんが部屋に入ってきた。
「おはよう、麻美」
いつもと変わらない浩二さんがそこにいた。目が開いている私に声をかけて、頬に軽く口づけてくれた。
「おはようございます、浩二さん」
私が挨拶を返したからか、浩二さんの顔に笑みが浮かんだ。
「朝食出来ているから一緒に食べよう」
その言葉に瞬きを繰り返す。そういえば前に浩二さんは少しなら料理をすると言っていたのよね。両親が共働きで祖母も働いていて、学校から帰ってきてお腹がすいた時に、簡単なものを作っていたと教えてくれたの。
「だからそろそろ起きようか」
覗き込まれるように見られながら起き上がるなんて、なんか羞恥プレイを受けている気分。でも、私が起き上がるのに背中を支えて起こしてくれたの。
おかしいな。今は体調が悪くないから一人で起きれるのに。
首を軽く傾げて浩二さんのことを見たら、浩二さんは私の背中と膝の下に手を入れて持ち上げようとしたの。
「はっ? いやいやいや、浩二さん、私は病人じゃないのよ」
「でも、ぼんやりしているし、昨日は・・・」
と、言葉を濁された。心配をかけたのはわかるけど、何かがちが~う!
私はそんなに弱くはないわ。
「自分で歩けるから、大丈夫です」
浩二さんの胸に手を当てて突っぱねれば、少し残念そうな顔をしたけど私を抱き上げようとするのをやめてくれたの。
自分の足で歩いて寝室を出た。そういえばこういう部屋ってなんといったかしら。ワンルームじゃないのはわかるけど、1LDKだったかな。アパートやマンションで生活する予定はなかったから、賃貸の時の言葉がよくわからないのよね。そもそもLやDやKって何のことかしら?
このアパートは玄関で廊下、右側に寝室になっている部屋、左側にお手洗いと洗面所&浴室の扉が二つあって、奥が台所&リビングみたいな感じなの。つまり左側に水回りが集中しているのね。
そのリビングには炬燵があって、この前までは布団はなしの状態でテーブルとして使っていたのよ。流石に12月になったから布団をセットしたようね。
テーブルにはチャーハンと卵スープが置いてあった。
「すまないな。こんなものしかなくて」
浩二さんはそう言ったけど、十分なのだけどね。お義母さんが一食ずつラップに分けてくれたご飯と、たまたま買ってあったと言った卵とネギで作ったシンプルなチャーハン。促されて「いただきます」と口に含んだ。
「美味しい」
パラパラのチャーハンはシンプルなぶん、本当においしかった。私の言葉に浩二さんの口元が綻んだ。「そうか」と嬉しそうに言って自分も食べだした。
無言で食事を終えて、食器の洗い物はやらせてもらう。その間に急須にお茶の支度をしてくれたから、片付けを終えて炬燵に入ってお茶を飲みながら二人でくつろいだ。
「ご馳走様です、浩二さん」
「口に合ったのなら良かった。それより寒くないか」
今日はとても暖かい日でこの部屋は南側に窓がある。そこから陽の光が入ってくるから、スウェットだけでも十分温かい。
「大丈夫よ」
そう言ったのに浩二さんは上着を取って私の肩にかけてくれた。というか、そのまま抱き込まれたんだけど。
「このほうがいいかな」
って、何を期待しているのよ。
・・・でも、抱きしめるだけで何もしてこないの。
浩二さんのことを見ようとして思いとどまった。この位置だと上目遣いで見ることになるものね。不埒なことを仕掛けられるのは嫌だもの。
そんなことを考えていたら浩二さんが「そういえば」と言ったの。
「麻美、家に帰らなくて大丈夫か。お義父さんたちが心配しているんじゃ」
私から離れて立ち上がろうとするから、浩二さんの手を捕まえた。
「大丈夫。もともと昨日は千鶴のところに泊る予定だったから」
「そうか」
と、隣に座り直したけど、またすぐに立ち上がろうとしたのよ。
「それなら香滝さんに連絡を」
「それも大丈夫。きっと和彦が連絡しているはずだから」
努めて普通な声になるようにそう告げたら、案の定、和彦の名前を聞いた浩二さんの表情は強張った。眉間にしわが寄って不機嫌そう。私はため息を吐きそうになって、それを飲み込んだ。やはり昨日のことを誤解しているみたい。
・・・まあ和彦が誤解するように誘導していたものね。でも、このまま和彦が家に顔を出せなくなるのは、私も困るもの。私から会いに行く気はないから、顔を見せに来させるしかないわよね。
「麻美は」
「ねえ、浩二さん」
浩二さんと言葉が重なった。二人して口をつぐんで見つめ合った。私は浩二さんが続きを言うのを待った。
「麻美は怒ってないのか」
「怒っているわよ」
「じゃあ、なぜ普通に彼の名前を出せるんだ」
「えっと、和彦ならそこはちゃんとしてくれたと思ったからだけど」
私の返答に浩二さんが困惑した顔をした。口を開きかけては閉じるということを数回してから、口を開いた。
「麻美は・・・襲われそうになったというのに、まだ彼のことを信頼しているのか? やはり彼のことが好きだから?」




