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147 友人たちとの飲み会 その6

ダン


と再度音が響いて「グウッ」と和彦は呻いた。


「君がそんな奴だとは思わなかった。もう、麻美の前に顔を見せるな」


吐き捨てるように浩二さんは言って歩く音が聞こえてきた。


「それじゃあ、割に合わないな」


和彦は苦しそうな声でそう言った。歩く音が止まった。


「なんだと」

「だってそうでしょう。修二から助け出したのは俺ですよ。少しくらいご褒美があったっていいじゃないですか。結局まだ未遂なんですし。それで姿を見せるなは、言い過ぎでしょ」

「お前は~」


浩二さんの低い声が部屋の中に響いた。


「それに麻美だって浩二さんが初めてだったわけじゃないじゃないですか。俺と一度くらいそういうことをしたっていいでしょう」


バキッ ドカッ


殴られた音と壁にでも体を打ち付けられたらしい音が聞こえてきた。私は顔から手を離して、音がしたほうを向いた。壁を背に座り込んで俯いている和彦と、肩で息をしている浩二さんが見えた。浩二さんが視線を私のほうに向けて目が合った。


数歩の距離を大股で歩いてきた浩二さんに、私は抱き起された。


「大丈夫だよ、麻美」

「浩二さん・・・」


言わなきゃいけないことがあるのに、体が震えて言葉にならない。浩二さんはそばに落ちていた私のバッグを持つと、私のことを抱き上げた。


「帰ろうな、麻美」


その言葉に浩二さんの首に腕を回して抱きついた。首筋に顔を埋めるようにしたの。まだ、震えはおさまらなかったから。


リビングを出ていくときに、項垂れて座っているはずの和彦が、親指を立てているのが目に入った。


(グッ、じゃないわよ。バカ彦)


浩二さんは私を抱いたまま器用にパンプスも手に持って、和彦の部屋をあとにした。助手席に降ろされて足元にパンプスを置くと、浩二さんは運転席に回って乗り込んできた。そのまま無言で浩二さんのアパートまで行ったの。


アパートに着いて、また当然のように抱き上げられて、浩二さんの部屋に行った。ベッドに降ろされて抱きしめられた。浩二さんの胸に顔を埋めて、浩二さんの匂いに安心をする。少し顔を動かして、胸に耳をつける。


トクン トクン


規則正しい心臓の音が聞こえてきて、ホッと力を抜いた。スリスリと猫のように頭を擦り付ける。


「麻美、くすぐったいよ」


笑いを含んだ浩二さんの声に顔を上げて、浩二さんのことを見つめたの。優しい瞳に励まされるように口を開いた。


「浩二さん・・・来てくれてありがとう・・・」

「当たり前だろ。俺は麻美の婚約者なんだから」


そう言って優しい口づけをくれた。


「今日はもう、着替えて寝よう」


そう言って浩二さんは離れて、着替えにとスウェットを出してきてくれた。


「戸締りしてくる」


と部屋を出て行った浩二さん。私はのろのろと服を脱いで、スウェットを着込んだ。男の人のLサイズはかなりぶかぶかで、袖からは指先しか出ていない。ズボンはゆるくてずり落ちそうだし、脱いでしまってはダメかしら?


「麻美、着替えは済んだか」


部屋に戻ってきた浩二さんの声が聞こえてきた。瞼が暗くなったから明かりを消してから私のそばに来たようね。


「ここで寝たらだめだろう」


私を抱き上げるとベッドへと寝かせてくれたのよ。


そう、私は着替えた後、脱いだものを片付けようと、服を拾って畳んだの。それを邪魔にならないところに置いて、そのまま座りこんでしまったのよね。そして目を瞑って考えていたのよ。


でも、そのままウトウトと眠りかかってしまったみたい。


一つの布団の中でくっついて眠る。冷えた体を温めるように抱きしめられて、小さな頃を思い出した。あら、いやだ。和彦が父さんに言った通りだわ。この安心感って父さんといる時みたい。


スリッと浩二さんに猫みたいに甘えてすり寄る。浩二さんの手が優しく背中を撫でてくれる。時々額や頬に浩二さんの唇が触れてくる。私を安心させるように、ただただ優しくね。


とろとろと眠りに落ちかけながら思ったの。明日、起きたら浩二さんにちゃんと話さないと。そうでないと和彦はうちに顔を出さなくなるもの。このまま縁が切れるだろうだなんて、甘いことを考えているバカ彦に、親戚つき合いがなんたるかも教えなきゃならないし・・・。


『私が幸せに笑っていれば俺も幸せだ!』って、そんなの私が納得するわけないじゃない。私だってみんなに幸せになってほしいもの。周りに不幸な人間がいて、それが友人だったら・・・私がそれを知って笑えるわけないって、思い知りやがれ。


眠りかかっているのに、涙が浮かんできたのがわかった。でも、知らない。私は眠るの。バカ彦のために泣いてなんてやらないんだから。


もう一度浩二さんの胸にスリッと頭をこすりつけてから、私は眠りに落ちたのでした。


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