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146 友人たちとの飲み会 その5

私はつかまえられた手を離そうともがいた。


「だから、待てって。もうすぐ浩二さんが来るから」

「やだ、会いたくない」


私の駄々っ子の様な物言いに、和彦は気色ばんだ。


「やだって、お前・・・」

「家に帰る」


じわりと涙が浮かんできた。


「それか千鶴のところに行く。そうよ、今日は最初から千鶴のところに泊る予定だったもの。だから千鶴のところに行くの。離してよ」

「麻美、落ち着けって。ここからどうやって千鶴のところに行くつもりだよ。バスは終わっているし、呼ばなきゃタクシーなんて捕まらないぞ」

「それなら歩いていく」

「歩いてなんて、どれくらいかかると思っているんだよ」

「知らないもの。歩いていればいつかは着くでしょう!」


和彦は私の肩に手をおいて落ち着かせようと声をかけるけど、私はその手を振り払おうと揉み合った。


「だから、落ち着けって」

「やだっ、離してよ・・・あっ」


何とか和彦の手を払いのけたら、足元に落としたバッグから出たハンカチを踏んで滑り、バランスを崩してひっくりかえった。後頭部に来るだろう衝撃を覚悟したのに、あたったのは床の固さじゃなかった。


「いって~・・・麻美、お前はぶつけてないか」


どうやら私を助けるために床との間のクッションになってくれたようだ。体を起こした和彦は後頭部に手を当てているから、私の代わりに頭をぶつけたもよう・・・。

その様子を見て少し頭が冷えた。


「ごめん・・・なさい」


項垂れてそう言ったら、和彦の手が頭に乗った。


「いいって。気にするな」


わしゃわしゃと私の髪をかき混ぜると、和彦はふう~と息を吐き出した。


「それよりも浩二さんに会いたくないって、どうして」

「・・・」

「気まずいからか」

「・・・そうよ。どんな顔をして会えばいいのよ」

「どんな顔って、普通に怖い目に会ったって甘えればいいだろう」

「甘えられるわけないじゃない。それよりもどんだけ警戒心のない女だって思われるわよ。呆れられちゃうじゃない」


瞳に涙の幕がかかる。浩二さんに嫌われるかもしれないと思うと会うのが怖い。


「大丈夫だって。麻美にあったことを説明したら、すぐ行くって言ったぞ。麻美のことをすごく心配していたからな。間違っても嫌うことはないって」


ぼやけた視界のまま和彦の顔を見つめたら、和彦に頭を抱え込むように抱きしめられた。


「しゃーねえなー。浩二さんに殴られるか」


和彦のぼやきの様な声が聞こえてきた。抱擁が緩んだと思ったら、和彦の手が顎にかかり上を向かされた。顔が近づいてきたと思ったら、軽く唇に触れて直ぐに離れた。されたことが信じられなくて、和彦のことを凝視した。和彦も私の目から逸らすことなく見つめている。


和彦の目がフッと優しい感じに細まって、また顔が近づいてきた。軽く触れるだけの優しいキス。唇が離れると、首の後ろの髪留めに手がかかって髪留めを外された。髪が解放されて広がったのがわかった。そっと肩を押されて床に横たえられる。


また顔が近づいてきたから「やだ」と横を向いたら、頬にキスをされた。


「麻美」


今までに聞いたことがない甘さを含んだ声で名前を呼ばれて、背筋をゾクリと駆け抜けたものがあった。


服の上から体の線をなぞるように手が動いていく。その動きに、体が震えてくる。嫌だと思っているのに、体が動かない。修二の時には抵抗できたのに、なんで出来ないの?


「・・・浩二さん」


呟いたら涙が目から溢れて目尻を伝っていった。


ピンポーン


来客を知らせるチャイムが鳴った。だけど、和彦は私の上から動こうとしなかった。


ピンポーン 


また鳴った。動こうとしない和彦。


ピンポン ピンポン ピンポン


立て続けに鳴らされて、やっと和彦は私から離れて玄関に向かった。「入ってきてくれていいのに」と、呟きながら。


残された私は起き上がる気力もなくて、手をあげて両手で顔を覆って泣き続けた。


「麻美、大丈夫か」


リビングの入り口くらいで足音が止まった。浩二さんの声が聞こえたけど、私は返事ができなかった。


「和彦君、君は・・・麻美に何をしたんだ」


声を低めて浩二さんは言った。


「何って・・・まあ、見ての通りなんですけどね」


悪びれた様子もなく和彦が答えている。


「見ての通りって、麻美は泣いているじゃないか」

「ええっ。修二にホテルに連れ込まれそうになったのがショックだったみたいで、浩二さんが来るまで慰めていたんですよ。もう少し浩二さんが遅ければ、慰め終わっていたかもしれませんね」


ダン 


何かがぶつかる音が響いた。


「慰めだと! お前は・・・麻美がされそうになったことをお前がする気だったのか!」


押し殺したような浩二さんの声。


「あ、麻美だって、嫌がってなかったですよ」


和彦が苦しそうな声を出した。まるで首でも絞められているみたい。


「麻美が嫌がってなかっただと。あの姿を見てよく言えるな。お前が言ったんだろう。友人だった男にホテルに連れ込まれそうになったことで、すごいショックを受けているって。それをそいつより信頼しているお前に、同じような目にあわされたら、もっとショックを受けて動けなくもなるだろう。それを・・・嫌がってなかっただなんて、よくも言えたな」


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