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144 友人たちとの飲み会 その3

和彦の言葉に修二の目から涙がこぼれた。


「俺だって、本気で麻美のことが好きだったのに。和彦も千鶴も、麻美のそばに寄らせてもくれねえじゃねえかよ。そんなんで麻美に俺のことを見てもらえるわけないだろう」

「それも言ったよな。はじめっから俺たちは麻美の相手じゃないって。だから、さっさと諦めろってな」


修二はぽろぽろと涙をこぼしながら、なおも言った。


「俺だってさ、見込みがないのはわかっていたさ。だけど、会うたびに可愛くなっていくのに、すぐそばにいるのにさ、手が届かないってなんだよ」

「仕方ないだろう。麻美が俺たちを占える時点で、およびじゃないんだよ」


それだけ言うと和彦は、私のそばに来て腕を掴むと、立ち上がらせてくれた。そのまま肩を抱かれて歩き出す。


「おい、どこに行くんだよ」

「家に帰るに決まってんだろ。こんなことがあって、カラオケなんか楽しめるか」


吐き捨てるように和彦は答えると、私を連れて大通りのほうに歩いていく。通りに出たら、すぐにタクシーが来たから、和彦が合図をして止めた。促されて先にタクシーに乗り込み修二がいるところを見たら、恭介たちが駆け寄っていた。修二が腕を上げてこちらを示している。千鶴が走り出すのが見えたけど、そこまででドアが閉まりタクシーは走り出した。


和彦が行先を告げるのを聞いて、そこは和彦のマンションのある町名だと気がついた。

マンションに着いて促されるまま和彦の部屋に入る。和彦はエアコンをつけると私をリビングに置いてどこかに行ってしまった。


今更ながらに体が震えてくる。ソファーに座らずにカーペットにじかに座った。腕を掴んで体を抱きしめるようにして目を瞑った。


コトリという音に顔を上げると、目の前にマグカップが置かれていた。鼻をくすぐるのはコーヒーの香り。向かい側に座った和彦の膝のあたりをぼんやりと見つめる。


「私が・・・悪かったのかな」

「麻美は悪くないよ。悪いのは俺だ。さんざん修二の邪魔をしたからな」


ポツリと呟いたら、沈んだ声が返ってきた。


「でも、ぜんぜん気がつかなかったもの。やっぱり私ってどこかおかしいのよ。人の気持ちがわからなんだもの」

「それは違う。麻美は俺たちの関係を壊さないために、気がつかないふりをしていてくれたんだ。修二が暴走するようなことをさせたのは、俺だ」


頭の芯がしびれているみたいで、考えが纏まらない。


「ねえ、占えるって何? それが何の関係があるの。まさか、手相を占えるから、私の相手ではないと思って、修二を排除しようとしたの」


しばらく和彦から返事はなかった。どれくらい経ったのか、ポツリと言う感じに一言答えが返ってきた。


「そうだ」

「おかしいよね、それ。私の占いって所詮余興じゃない。こんな当たるんだか当たらないんだかわからない力に振り回されてさ。・・・もしかして、向こうでも彼らとの接点を失くそうとしたのも、それが理由なの」

「・・・そうだと言ったら」


私の顔に笑いが浮かんだ。引きつったみっともない笑顔だろう。


「なんでさ、和彦はそうまでしてくれるわけ。私なんか放っておけばいいじゃない。別にさやさんのことは誰にも言わないし、あのことに恩義なんて感じてくれなくていいからさ。私のことを守ろうとしてくれなくていいよ」


視界の端で和彦が動いたのが見えた。視界が暗くなったと思ったら、和彦に抱きしめられていた。


「俺が嫌なんだよ。麻美が傷つくところは見たくないんだ。お前のことが大切なんだよ。お前が幸せに笑っていてくれれば、俺も幸せなんだ」


塞がった視界のまま、私は口を開いた。


「なんであんたはそんななのよ。それなら私の占いなんて当たらないってところを見せてよ。あんたも自分が幸せになる努力をしてよ。・・・私は、占いで不幸になってもらいたくないわよ」


私の頭を抱え込むように抱きしめる和彦が「やっぱり」と呟いた。抱擁が解かれて視界が明るくなる。和彦が視線を合わせるように覗き込んできた。


「麻美は占いが実現するのが怖いんだ」

「そりゃ、そうでしょう。いいことが当たるのならいいけど、悪いことばかりが当たるじゃない。あんただって、望んでなかったのに父親になってしまったでしょ。この先あんたが誰とも結婚しないで一人でいるなんて・・・そんな未来、視なきゃよかった」


視線を逸らしてそう言ったら、フッと和彦が笑った気配がした。


「バカだな、麻美は。占いなんて当たる時には当たるし、当たらない時には当たらないもんだろ。それにお前の占いはどちらかというと、悪いことは忠告をしているだろう。それを占った相手がどう取ってどう行動するかは、そいつの勝手なんだ。麻美が責任を感じることはないんだぞ」

「でも、私が占わなければ、そんなことにはならなかったかもしれないでしょ」


震える声でそう言ったら、和彦の手が頬に触れた。


「だから、お前が責任を感じることはないんだって。俺のことは自業自得なんだし。他の奴らだって麻美に責任を取れだなんて思ってないから」


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