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135 ただの風邪のはずが大事に? その4

和彦がきっぱり言い切ったら、苦笑を含んだような父の声が聞こえてきた。


「そういえばお前たちはよく本の話をしているよな」

「ええ、そうです。そんなわけで俺にとっても麻美は妹の様なもんですから。・・・でも、麻美の中ではブラコンよりファザコンのほうが勝ったようですよ」

「ファザコン?」


(ファザコン? 私が?)


「浩二さんっておじさんに似ているじゃないですか」


(浩二さんが父さんに似ている? って、どこが?)


「おいおい、わしと浩二君は似てないだろう」

「容姿的なものじゃないですよ。雰囲気というか考え方っていうか。おじさんはスポーツを見るのを好きですよね。浩二さんも好きだって言ってましたよ」

「ああ、確かにそうだったな」


父は浩二さんが家で夕飯を食べながら、野球中継を一緒に観ていた時のことを思い出したのか、納得したように言っている。


「だけどな、和彦。麻美はファザコンじゃないだろう」

「そうですね。厳密に言うとファザコンじゃないですよ。麻美は普通に家族が好きなだけですから。だからおじさんも、麻美に無理やり後を継がせるなんて思わなくていいですからね」

「・・・それを麻美が言っていたのか」

「そんなこと麻美が言うわけないじゃないですか。でも見ていればわかります。麻美は自分で決めて家に戻りましたよ」


少し間を置いてから父の声がまた聞こえてきた。


「わしは、麻美は家を出ていきたいんだと思っていたんだが、違うのか」

「違わないけど違います。俺もあっちで麻美と再会したときに、謎だったんで聞いてみたんです。就職先をあっちにしたのは家を出る口実でした。だけど、ちゃんと調理師の資格をとるつもりだったし、そのあと地元に帰るつもりでもいましたよ」

「こちらでも調理師資格は取れただろう。行きたいのなら調理師学校に行かせたものを」

「それじゃあ、駄目だったんですよ。麻美は高校をわがままを言って私立にして、親に負担をかけたと気にしてました。だから、働きながら自分の力で資格を取ろうとしたんです」


また少し沈黙が流れた。


「おじさん、俺、口実だって言いましたよね。家を出るための。麻美はこうも言ってたんですよ。地元で就職をしたら他所を知らないまま、一生を過ごすことになるだろうって。それもいいけど、やはりほかも知りたかったって。その結果向こうで暮らして麻美が思ったのは、東京は遊びに行くところで暮らすところじゃないって、結論を出しましたよ。それと、麻美はおじさんたちに感謝してました。本当は家から出したくなかっただろうけど、私の気持ちを尊重してくれて送り出してくれたって。だから麻美が家に戻ったのも、麻美にとっての必然だったんです。嫌々従ったわけじゃないですからね」


かなり長い沈黙の後に父がポツリと言った。


「そうか。麻美は自分で決めたか」

「はい。・・・えーと、生意気言ってすみませんでした」

「いや、こちらこそ悪かったな、和彦」

「そんなことないですよ。親として心配するのは、当然のことだと思いますから」

「そう言ってもらえるとな、助かるというかな」


また沈黙が落ちた。でも嫌な感じの沈黙じゃない。


「おじさん、そろそろ俺、戻ります」

「ああ。こんな時間まで悪かったな」

「そんなことない・・・また・・・」


二人は部屋を出て行ったようで、襖が閉まり声が遠くなっていった。私は寝返りを打ち、仰向けになってから目を明けた。


(勝手なことを言って~。だーれがブラコンでファザコンよ。というか、余計なことを話すなや。和彦のバカ)


すっかり眠気が飛んだ私はしばらく、寝返りを打ってころころと動きまわっていたのでした。



いつの間にか眠ってしまい、眼を覚ました時には部屋の中は真っ暗になっていた。目を明けて、少しは状態が良くなっていることに気がついた。ゆっくりと体を起こして立ち上がり部屋の明かりをつけた。


だけど、すぐに座りこんだ。やはりめまいは治っていなかったの。立ち上がって上を向いたらクラリとしたもの。だから目を瞑ってめまいが治まるのを待った。

そこに誰かが歩いてくる足音が聞こえた。襖が開いた音がしたから目を明けて、そこにいた人を見て驚いた。


「浩二さん、なんで」


いるの、と全部言う前に咳き込んでしまった。浩二さんはそばに来て、いたわるように背中を撫でてくれた。咳が落ち着いたところで顔を上げて浩二さんの顔を見つめた。目が合ったら、何故か顔に熱が集まってきた。


「大丈夫か、麻美」


浩二さんの手が額を触り、熱がないのを確認した。


(いや、違うから。熱が出たんじゃなくて、和彦のせいで・・・その、いたたまれないというか、恥ずかしいというか・・・)


そんな私の気持ちを知っているわけがない浩二さんが、ホッとしたように言ったの。


「熱はないみたいだな。お義父さんに聞いたけど、めまいがひどいんだって。薬が合わなかったんじゃないかとも言ってたな。お腹はすいてないか。動くのが辛いならこちらに持ってくるとお義母さんも言ったぞ」


このあと、無理にしゃべらなくていいからと浩二さんは言って、私のことをかいがいしく世話をしてくれたの。私はされるがままに食事をしたのでした。


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