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133 ただの風邪のはずが大事に? その2

私の話を聞いた和彦の顔は、相変わらず苦虫をかみしめたような顔。


「それは薬の副作用なのか? 薬にめまいの副作用があるなんて聞いたことないけど」

「私だって聞いたことないけど・・・それしか考えられないもの。前にひどいめまいを起こしたことがあったけど、その時は横になればめまいは感じなかったのよ。こんな寝ている状態でも目が回っているなんて、今回が初めてなのよ」


咳き込みながらやっとのことでそう言った。


「医者に行かないのは?」

「こんな状態で動けると思って?」


本当に寝ていても目が回っていて気持ち悪いのに、動けるわけがない。


「薬は飲んでいるのかよ」

「今日は飲んでないよ」

「薬がなくなったからか」

「ちがう。処方されたのは7日分。あと2日分あるけど、気持ち悪くて飲めなかった。・・・ついでに言うと、ぜんぜん効かなくてこんな感じなの」

「ああ、なるほど」


咳き込みながら答えたけど、そろそろ話すのを止めてくれないかな。話さなければ咳き込むこともなくて、少しは楽なんだけどな。


そう思って和彦の顔を見たら、顎に手を当てて何かを考えているみたい。目が合ったらまた訊いてきたのよ。


「それで、浩二さんに会おうとしないのはなんでなんだ」


この言葉で和彦がここにいる理由がわかった気がする。私が風邪が治るまで会わないって言ったから、浩二さんは律義に守ってくれているの。でも、毎日電話はくれて・・・一昨日はめまいがひどくて、電話も早々に切ってしまったから。昨日は電話に出られなかったし・・・。それで浩二さんから話を聞いた和彦がおせっかいにも様子を見に来たのだろう。


私だって会いたくないわけじゃない。ただ風邪をうつしたくなかったからと、まさかこんな状態になるとは思わなかったと言ったの。ついでに和彦にも風邪をうつすかもしれないから、もう帰ってと言ってみたけど・・・。


「あのな、今まで麻美から風邪をうつされたことはないだろう、俺は。それにその空咳になったのなら、うつらないから心配するな」


和彦の手が伸びてきたのを見て、私は目を閉じた。頭に触れて撫でてきた。撫でる手が優しい気がする。


「で、本当は何に悩んでいるんだ」


なんでもないように言われて、目を明けてしまった。和彦の視線に何もかも見透かされているような気がして落ち着かない。


「なんで、そう思ったの」

「なんとなくかな。体調が悪いのは本当だろうけど、それだけにしちゃあ表情が冴えないからな」


やっぱり、和彦にはわかってしまったのか。でも、私は虚勢を張った。


「なんでもないよ」

「麻美、その答えがなんかあったって言っているようなもんだろ」


やはり下手なごまかしは通用しないのか。どうしよう。・・・他の人には言えないけど、和彦には言えるかもしれない。・・・ううん。この10日間の、堂々巡りを聞いてもらうのもいいかもしれない。


「誰にも言わないって約束してくれるなら話す」

「なんだ。やっぱり抱え込んでたのか」


(しょうがないやつ)と聞こえた気がするのは、気のせいよね。


「別に抱え込んでないけど・・・少し思い出してしまっただけだから」

「何を?」


間髪入れずに聞き返された。これじゃあ躊躇っている間もないじゃない。でも、咳き込みながらだから、その間に躊躇っておけばいいか・・・。


「10日ほど前に・・・山本さんを見かけたのよ」

「・・・山本って誰?」


そうよね。他人の元カレの名前なんて覚えてないよね。


「元カレよ」

「・・・で?」

「だから、思い出しただけなのよ」

「思い出したくらいでそんなになるか」


・・・いや、体調不良は違うから。


「これは違うけどさ。・・・でもね、まだ好きだなって思ったのよね」


そう答えたら、なんか剣呑な雰囲気が和彦から漂ってきた気がする。


「おい。まさか浩二さんと別れてやり直したいなんて言い出さないよな」

「言うわけないじゃん。ただねえ、見かけた日は気持ちがぐちゃぐちゃになったのよ」

「なんで今更そんなことを言うんだよ」


和彦がわからないと声に滲ませて言ってきた。


「仕方ないじゃん。嫌いになって別れたわけじゃないし。別れ方だって、綺麗なものだと思うのよ。でも、これは別にいいのよ。再会したからってもう一度やり直したいとは思わなかったし」


そう、問題はここじゃない。


「じゃあ、何がそんなに悩むことになったんだ」

「悩みとは違うのよ。ただね、あの時に考えたことが、自分に唾棄したくなるくらいな考えだったから」

「そんなに嫌なことを考えたのかよ」

「そうね。・・・あの時、山本さんの隣に女性がいないことを喜んだ私がいたのよ。私は・・・別れてすぐに他の人とつき合いだして、結婚まで決めているのに。・・・別れるときに山本さんに、浩二さんとはつき合わないって言ったのに、それも嘘になったし。ああ、あと、会えたのがなんで結婚後じゃなかったのかとか、それから滅多に街に出かけないのに、なんであの日に会ってしまったのとか、自分勝手な考えばかりが浮かんできて嫌になるわ」


そう言ったら和彦に頭を乱暴に撫でられた。目が回っているのに揺さぶらないでほしい。


「ちょっと」と力の入らない声で抗議したら「悪い」と言ってすぐに撫でるのは止まったのだけど。


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