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132 ただの風邪のはずが大事に? その1

は~、動くのがめんどくさい。


私は台所のテーブルに突っ伏しながらそう思っていたの。


10月も終わりに近づいた水曜日です。私は体調が最悪です。

美味しい焼き鳥屋に行った時には、軽く風邪のひき始めだったのに、あの夜にぬるい湯に浸かったのが悪かったのか本格的に風邪をひきました。うん。侮りました。


おかげであの日から約10日経ったけど、どうにもできない状態になっているのよ。

私の風邪は喉にくる。咳が中心で他の症状が改善されてもいつまでも咳だけが残るのよ。


あの日から浩二さんとは会っていない。ううん。正確に言うと浩二さんとまともな会話をしていないの。この咳はしゃべらないでいれば、あまり出ない。どうもしゃべることで喉が渇いて、それで咳が出やすくなるみたい。浩二さんとは最初電話で話したの。電話越しでも私の咳のひどさは伝わって、心配した浩二さんは仕事帰りに寄ってくれたのよ。でも、話はままならないし、それ以上に風邪をうつしてしまうのではないかと気になって、早々に帰ってもらったのよ。風邪が治るまでは会わないと言って・・・。


余り弱った姿を見せたくないのもあったけどこんな状態になるのなら、もう少し甘えておけばよかったかしら。


そんなことを考えながら突っ伏していたら、呆れた声が聞こえてきたの。


「何してんだ、麻美」

「ん~、和彦、来たんだ」


顔を横に向けて声がしたほうを見た。頭を上げる気力が湧かないから、仕方がない。和彦の顔が見えたと思ったら、和彦の顔が歪んだ。・・・違った。顔色を変えただ。駄目だ~、どうも思考も鈍っている気がする。


「おい、体調が悪いならちゃんと寝てろよ。まったく、おじさんが言うわけだ」

「なーにー? 父さんがなんか言ったのー?」


和彦のぼやき声を聞きながら、私はまた突っ伏す形に首を動かした。


「麻美のことだからおとなしく寝てないだろうから、布団に放り込んどいてくれってさ」

「・・・私は荷物じゃないんだけど」


一応返事はしたけど、まだ、動きたくない。


「いい匂いがするけど何を作ってたんだ」

「ん~、大根と鶏肉の煮もの。これなら手間はそんなにかからないから」

「お前は・・・もう出来たんだろ。ほら、戻って寝ろよ」

「うー、まだ、動けない」


そう答えたのに和彦の手が私の腕を掴んで立たせようとする。引っ張られるままに体は起きたけど力が入らない。立ち上がったものの手を離されたら、ふらりと倒れ掛かった。伸びてきた腕が肩を掴み倒れないで済んだ。そのまま体を預けるように、和彦に凭れ掛かる。


「おいおい。本当にどうしたんだよ。ぐにゃぐにゃじゃないか」

「言ったよね、動けないって」


回る視界が気持ち悪くて目を閉じてそう言った。


「仕方ねえな。運んでやる」


その言葉と共に浮遊感。和彦は台所を出て私を部屋に連れて行こうとしてくれているみたい。


「待って、そっちじゃない」

「そっちじゃないって」


階段に足をかけたところでそう言ったら立ち止まったもよう。


「階段は危ないからって、床の間の部屋で寝ているから」


和彦は何も言わずに床の間がある部屋に向かってくれたみたい。この会話の間にも、私は何度も咳き込んだ。


布団に寝かされて、しばらく咳き込んだけど、ようやっと治まってうっすらと目を明けた。見えたのはそばに座って苦虫をかみつぶしたような顔で、私のことを見ている和彦の顔。私が目を明けたことで、口を開いたの。


「それで、自分の部屋に居れないくらいの体調不良ってなんだよ」

「自分の部屋に戻れないわけじゃないのよ。ただ、危ないから用心のために下で寝なさいって言われただけで」

「だから、その原因は何だっていうんだよ」


和彦がじれたように言ってきた。咳き込みながらだから、会話もままならないのに。頭もぽやんとしていて、考えるのも億劫なのに。

そう思いながらも答えないと、和彦は納得しないだろうとも思ったのよ。


「めまいがひどいの」

「めまい? それって・・・どんな感じなんだ」


思ってもいなかったことを言われたみたいで、和彦は首を捻っている。


「本当に目が回っている感じなんだけど、それがこうして寝てても収まらないの」

「なんだよ、そりゃ。というか医者には行ったのか」

「行ってない」

「おい! そんな状態なら医者に行ってこいよ」


和彦に怒鳴りつけられた。すぐにハッとしたように声のトーンを落として「ごめん」と言ったけどね。私はまた、咳き込んでしばらくは返事どころではなかったのよ。


「一応、原因には心当たりがあるのよ」


そう言って、咳き込みながら切れ切れに、今回の体調不良について話したの。


先週月曜日には咳が出て喉が痛い、いつもの風邪の症状だった。それが金曜日にいつもと違う病院にかかることになったの。理由は父がもうすぐ白内障の手術をするので、その前の検査のために総合病院へ行くことになっていたのよ。そこで、いつも風邪をひくと咳がひどくなり、なかなか治らないということを心配した父が、ついでに診てもらったらどうかと言ったのよ。なので、私も受診して咳に効く薬を処方されたのね。その薬を飲みだして3日目にめまいの症状が出て、5日目の今日は寝ていても目が回っているような感じになってしまい、階段の上り下りが危ないからと、両親に下の部屋を使うように言われたというわけなの。


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