13 彼の家へ
11月3週目の土曜日。あの日から4日後。今日は午後から山本さんと会った。DVDを借りると、彼の家に連れていかれた。予告なしの行動に驚いたと共に、緊張してきた。
彼は父親と兄との3人暮らしだと言っていた。家族に紹介されるのかと思うと、恥ずかしさと嬉しさがこみあげてきた。
彼の部屋に行き、今日は家族は出掛けていて2人だけだと言われた。呆然とした私を彼が抱きしめてきた。
軽いパニック気味に彼の腕の中から逃げ出そうとしたら、優しくキスをされた。その後落ち着くのを待つように抱きしめられていた。宥めるように背中を彼の手が動いていく。
彼の心臓の音を聞いているうちに落ち着いてきた。顔をあげると彼と目が合った。
「もう、落ち着いた」
「ごめんなさい。もう大丈夫」
「それなら良かった。じゃあ、もういいよね」
「えっ?」
軽くキスをしてから、微笑んだ彼。
「えっ、って、この間言ったよね」
「あの、今日はご家族に会うのだと思っていて・・・」
私の言葉に「ああ」と納得したように声をあげた。
「そうか。紛らわしいことしてごめんね。でも今日は麻美のことを抱くつもりだったから」
言われた言葉に私は表情を失くしたと思う。
「まだ気持ちの準備が出来てないかな」
私の目を覗き込むように訊いてきた。私は頷くべきかそれとも首を振るべきかと、逡巡した。
「だけど、ごめんね。嫌がっても今日は抱くよ」
私を抱く腕に力が入る。
「本当は待ってあげたいけど、それだといつまでも麻美の気持ちが決まらなさそうだからね。それに、初めて麻美を抱くのにラブホテルは嫌だったんだ」
私の目を真直ぐに見てそういう彼。
「無理やりには抱きたくないけど、そろそろ限界だから」
もう一度キスをすると私を抱き上げてベッドへと降ろした。愛おしそうに頬を撫でてくる。
「好きだよ、麻美。こんな形で・・・ごめんね」
優しい啄ばむようなキスが降ってきた。
そのキスを受けながら、私は彼の首に腕を回した。彼は驚いたようにキスするのをやめて私の事を見てきた。私も涙でぼやけた視界で彼のことを見つめた。
「私も・・・好きなの。嫌じゃないの。・・・あなたとなら、嫌じゃないわ」
抱かれる覚悟はもうとっくにできていた。本当に大好きだから。
「麻美」
嬉しそうに私の名前を呼んだ彼の手の動きが性急になる。刺激が快楽へと変わっていくのがわかる。私の口から甘い吐息が漏れていく。
彼の愛撫に翻弄されながら、私は頭の片隅で思っていた。今も彼はどこか冷めた目で私の事を観察しているのだろうかと。
彼は母親のことがあったから女性のことを信用しきれないのだと思う。彼が小学生の時に母親は家を出て行ったと言っていた。父親以外の男と暮らすために。父親は実直で真面目な人だそうだ。それが母親には物足りなかったようだと言っていた。母親とは高校の時に会ったのが最後で今はどうしているかは知らないそうだ。
彼は私以外に何人かとつき合ったことがあるみたい。はっきりとは教えてもらっていないけど、前に私は他の人とは違うと言っていた。それが初心すぎる反応になのか、それともおとなしく見えることになのか。
でも、時折見せる冷めた目は母親や前の彼女たちと比べているからなのだと思う。今もその目で見られているのかもしれないと思うと、目を開けることが出来ない。
私は不安な気持ちに気がつかないふりをして、快楽の波に身を任せたのだった。
◇
夕方、彼の家を出て夕食を食べに行った。彼の家を出るまで、彼の父も兄も帰ってこなかった。
彼はとても優しかった。いつものところで別れるまで、ずっと私の身体を気遣ってくれた。
いつもより早い帰りに両親は驚いていた。私は何か適当なことを言ったのだと思う。
私はお風呂を出ると、早々に部屋へと戻った。最近は夜なべ仕事に編み物をしていたのだけど、今日はそんな気になれずに、灯りを消して布団に潜り込んだ。
体は睡眠を欲しているはずなのに、頭は冴えわたっていて、全然眠くならなかった。何度も寝返りを打ちながら、思い出すのは昼間の事。
(どうして・・・どうして気持ち良くなかったの?)
布団の中で丸まりながら、目を瞑った私の目から一粒涙が流れ落ちたのでした。
◇
11月の4週目の金曜日。また夜のデート。だけど今回はファミレスに行った。食事をしたあと、コーヒーを飲みながら話をした。
12月は彼は忙しいそうで、12月の1週目と4週目しか会えないと言われた。私は12月の1週目の土曜日に友達と忘年会をする約束をしたと言ったら、彼は残念そうな顔をした。どんな人と忘年会をするのかと聞かれたから、中学の時の友達だと答えた。
最初は笑って聞いていた彼は、中学の友達が女性だけじゃないと聞いて少し考え込むようにした。それから「その日の昼間に会えないかな」と言われたの。私も少し考えて、了承した。その日を逃すと3週間も会えなくなってしまうのだから。
嬉しそうに笑う彼に笑顔を返しながら、私はまた少し違和感を覚えていたのでした。




