128 結納 ー料亭にてー 前編 *
10月の2週目の土曜日。今日は朝から晴天です。気温も高くなると言っていました。
私は朝食を食べたら父に送ってもらい、美容院に行きました。髪のセットと着付けをお願いしていたからです。
そうなのです。今日は私と浩二さんの結納の日です。私は成人式でも着た振袖を着ます。
着付けが終わり家に電話をして迎えに来てもらいました。迎えに来てくれたのはいとこの晴子姉さんでした。結納の間祖母のことを見ていてくれるように、伯母に頼んだのです。伯母は祖母を自宅に連れて行って見ていてくれることになっていたから、晴子姉さんが運転手をしてくれたのでしょう。
「おめでとう、麻美ちゃん。とってもきれいよ」
「ありがとうございます」
晴子姉さんの言葉にお礼を言ったけど、私は少し不満でした。だって、前髪がほとんど上げられてしまって、額が全開なのよ。なんか自分じゃないみたいで、恥ずかしいというか・・・。
家に着くと伯母にも着物姿を褒められてから、伯母たちは祖母を連れて帰っていきました。
私達はそれを見送ってから忘れ物がないか確認をして、タクシーで結納会場の料亭へと向かいました。
そうそう、婚約指輪は8月のうちに下平家に浩二さんが持って帰りました。腕時計のほうは届いた連絡をもらったので見に行って確認をしました。そしてイニシャルを入れてもらい、出来上がった連絡を受けて私が取りに行ってきました。その腕時計は結納品と共に結婚式場に届け、丸山さんが今日会場に運んでくれる手はずとなっています。
結納会場の料亭、立花亭に着きました。仲居さんに案内をされて部屋へと行きました。そこには丸山さんがいるだけでした。
「この度はおめでとうございます、沢木様」
「ありがとうございます。早速ですがこちらはどちらに置きますか」
「ありがとうございます。私がお預かりします」
丸山さんとの挨拶もそこそこに父が結納金を入れた袋を出した。丸山さんがそれを受け取り結納金を入れる木の箱に収めたの。
・・・さすがに金額が2倍なことはあるのね。木の箱が浮いているわ。少し不格好だけど、これはこれで仕方がないのよね。結納品を注文しに行ったときに聞いてみたのよ。普通より金額が多いけどどうしたらいいかと。そうしたらあまり金額が多めの結納は少ないとかで、もし見合った箱を用意するのなら特注することになると言われたのよ。でも、2倍くらいなら少し不格好になるけど、不都合はないと言ってもらえたのね。それならそのまま普通の箱にしましょうということになりました。
しばらく所在無げに佇んでいたら、下平家も到着しました。下平家は両親と浩二さんだけでなく、お兄さんの泰一さんも一緒でした。
そのすぐあとに鉄蔵叔父さんたちも到着です。鉄蔵叔父さんは娘の章子ちゃんが送ってくれることになっていたと、聞いています。
両家、仲人が揃ったので、案内をされて席に着きました。席は床の間寄りの下座側に仲人が結納品を背にしないように、並んで座りました。
そして上座側の床の間に近いほうから私の父、母、私、下座側に浩二さんの父、母、浩二さんの順に座りました。
一番下座には丸山さんとその隣にカメラを構えた泰一さんがいます。どうやら泰一さんはカメラマンを仰せつかったみたいです。
丸山さんが司会をして、結納の儀が始まりました。
「この度は下平家浩二様、沢木家麻美様のご結納、おめでとうございます。僭越ながら私、丸山哲夫が司会をさせていただきます。それではお仲人の沢木鉄蔵様、よろしくお願いいたします」
丸山さんがお辞儀をして仲人にバトンタッチです。
「この度は浩二様と麻美様の良縁が相調いまして、誠におめでとうございます。仲人の御指名をいただきまして、未熟ではございますが、ご両家の良縁の仲立ちをさせて頂きます」
鉄蔵叔父さんはそう言って、軽く頭を下げました。静江叔母さんも一緒に頭を下げました。
丸山さんが移動していて、鉄蔵叔父さんに目録を渡しました。鉄蔵叔父さんはそれを持ち、浩二さんの父、泰浩さんの前に。
「本日は吉日でございます。こ、婚約の印として、沢木様からの結納の品・・・を、持参いたしました。い、幾久しくお納めください」
鉄蔵叔父さんは緊張のあまり、声が震えていました。それでも、言い終えたことでホッとした表情になりました。
泰宏さんが受け取って目録の中身を確認しました。
「結構な結納の品々を、ありがとうございます。幾久しく御受け致します」
泰浩さんが向上を述べて言い終わると、泰浩さん、博美さん、浩二さんが揃って礼をしました。
泰浩さんが懐から受書を出して鉄蔵叔父さんに渡しました。
「結納の受書でございます。どうぞよろしくお願いします」
受け取った鉄蔵叔父さんはそれを持って父の前に移動しました。
「下平様からの結納の受書でございます。どうぞお改めください」
「ありがとうございます」
父が中身を確認しました。
「相違ございません」
父の言葉に少しほっとしたような空気が流れました。




