127 浩二さんの親友VS私の親友&悪友
さて、この会話がどう転んでもいいようにしておかないと。と、私は黙って向かいに座る浩二さんと、浅井さんのことを見ました。浅井さんは少し憮然とした顔をしていて、浩二さんはどうしたものかという顔をしていたの。
私は両隣の二人の顔をもう一度見たら、視線に気がついた千鶴はにっこりと笑い、和彦は頭に手を置いて撫でてきた。・・・おい、子供扱いかよ!
って、ピクリと浅井さんの肩が動いたのが見えた気がした。浩二さんは・・・和彦のことを見ているけど、睨んでる?
「だからそれが失礼でしょ。さっきだって私も一緒にいたわけだし、変な勘繰りしないでくれる」
千鶴が珍しく和彦の肩を持つようなことを言う。それから笑みを深めて、挑むように浅井さんのことを見つめた。
「それにね、なんで浅井さんがそんなことを言うの。下平さんがこいつに文句を言うのならわかるのよ。関係ないあなたに言われたくないわね」
目を細めて威嚇する千鶴はなかなかの迫力がある。千鶴は目鼻立ちくっきり系の美人だし、性格も姉御系。私がはっきり言えない分、千鶴が代わりに言ってくれるのよ。
千鶴は普段から私と和彦が一緒にいることをよくは思っていなかった。みんなで集まる時も大体私は女子の真ん中に座らされていたもの。まあ、千鶴が牽制していたのって和彦だけでなく、男どもすべてだったのよね。
・・・これか、前に浩二さんに言われたことって。私は千鶴に守られていたのね。
「関係ないねえ。それは香滝さんにも言えるだろう」
「あら、私は関係あるわよ。私は麻美の親友だもの。麻美の旦那になる人に変な人がくっついているなんて嫌じゃない」
「変な人って失礼だな。俺だって下平の親友だ。香瀧さんの言い方なら関係あるだろ」
浅井さんが不快感をあらわにしてそういった。
「それこそ、いかにも麻美ちゃんとなんかありますって態度の、渡辺君のほうがおかしいだろ」
「なんだ、挑発していたってわかっていたのね」
千鶴は事も無げに言って、浅井さんのことを睨みつけた。
「それだったら、私達によく思われていないことぐらいわかるわよね」
浅井さんは一瞬呆けたような顔をしてから、表情を消した。
「麻美ちゃんから聞いているんだ。だけど麻美ちゃんは許してくれたけど」
そう、謝ってくれたから一応許しはしたのよ。でもわだかまりは残っているわ。
「麻美の気持ちはどうでもいいのよ。親友として私たちが許せないのよ」
浅井さんはしばらく考えて千鶴たちに言った。
「俺のことを許せないのはわかったけど、どうすれば君たちの気が済むんだ」
「そうね、麻美と同じ目に合うのはどう?」
「それは無理だと思う」
千鶴の言葉に黙って見守っていた浩二さんが口を挟んだ。
「どうしてかしら、下平さん」
「浅井はザルだから、酔い潰すのは難しいと思う」
浩二さんは渋面でそういったの。私と千鶴は思わず和彦の顔を見た。
「やだ、ここまで似ているなんて」
「ほんと、なんてめんどくさい・・・」
「おい、どこが似ているんだよ、こんな奴と」
千鶴と私の素直な感想に和彦が文句を言ってきた。でも、この短時間で浅井さんのめんどくささをわかる千鶴も大概な気がするわ。
「じぁあさ和彦、あんたに任すから浅井さんと飲みに行って潰してきてよ」
「やだよ。そんな奴とじゃいくら金があっても足りないだろ。それならここでおじさんと飲んだほうが楽しいし」
和彦が本当に嫌そうな顔をしてそう言った。まあ、確かにね。この言葉にまた浅井さんが反応してきた。
「渡辺君は麻美ちゃんちで飲むような関係なの」
それに対して何を今更という感じに私と千鶴と和彦は顔を見合わせた。
「だってな」
「今までに何度か」
「うちで集まって飲んだものね」
「夏の時にはみんなで泊って雑魚寝したよな」
「そうそう。女子は二階で寝たけど、和彦たちはこの部屋で寝たわよね」
「タオルケットが足りなくて、大判のバスタオルをかけたのよね」
「朝におばあさんが枕元にいたのには驚いたけどな」
「ああ、あの時は驚かせてごめんね~」
思い出して、頷きながらそう言いあった。
「俺たちが浅井の家に集まる時みたいだな」
「いやだけど、男もって・・・」
浩二さんは納得したようにつぶやいたけど、浅井さんは気にかかったようね。
「泊まったのは一回だけですよ」
と言ったけど、浅井さんは何かを感じたようで浩二さんの肩に手を置いた。
「下平、苦労しそうだな」
「お前らよりはめんどくさくないぞ」
浩二さんの言葉に浅井さんは少しずっこけるようなふりをした。なんかこのままうやむやになりそうだと気を抜こうとしたら、千鶴が浅井さんに言った。
「仕方がないから酔い潰すのは無しにするけど、浅井さん、もしまた麻美に余計なことをしたら、覚悟してくださいね」
「怖いこと言うな~、香滝さんは。ちなみにどんな事されるのかな」
その言葉に千鶴はニヤリと笑った。
「ふふっ。物理的に落としてあげますね」
落とすってあれか~。柔道などの技をかけられて意識を失うやつ。あれなら千鶴はやれるだろうね。
千鶴の本気を感じとったのか、浅井さんはコクコクと頷いていたのでした。




