124 本格的に結婚式の準備がはじまります ― まずは結納の事 ― *
9月になりました。まだまだ暑い日が続きます。今日は両親と共に結婚式場に来ています。丸山さんからの呼び出しです。
・・・なのだけど、うちだけでなく下平家と、あとは鉄蔵叔父さんたちも結婚式場に集まります。要件は来月の結納の事。つまり、仲人立会いのもとに、結納の日の打合せです。
でも、先にうちだけ呼ばれたのには理由がありました。
「沢木さん、ご足労いただきましてありがとうございます」
「いえ、いろいろとお世話になります」
まずは父と丸山さんが挨拶をしました。そして早速本題です。
「沢木さんに先に来ていただいたのは、少々お話が在りまして・・・。その結納金のことなのですが」
丸山さんの言葉に父は頷きました。
「もちろんわかっております。浩二君に婿に来ていただくのですから、それなりの金額を用意いたしますとも」
「ああ、わかっていらっしゃるようでよかったです。親戚ということではなくて、常識としてお願いしたかったものですから。それで差し支えなければ金額をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ええ。まあ、(指を二本立てて)くらいは用意するつもりですが、少ないでしょうか」
丸山さんはにっこりと嬉しそうに笑いました。
「いいえ。その金額で十分です。結納品はどうなさいましたか」
「先日妻と娘が見にいきました。そこで結納の日を聞かれまして、結納品を受け取りに行くのは今月の下旬にしております」
「そうですか。では、結納品を購入されましたらどうなさいますか」
「どうとは?」
「当日に沢木家でお運びになるか、当方で預かりまして私が結納をする場所までお運びするか」
この言葉を聞いた父が逆に丸山さんに聞きました。
「預ければ運んでいただけるのですか」
「はい。責任を持ってお運びいたします。ただ結納金だけは当日沢木様のほうでお運びいただきたいと思います」
「それは構いません」
「ではそのように、お願いいたします」
ここまで話したところで、丸山さんの視線が私たちの後ろに向けられました。
「下平様、いらっしゃいませ」
「ああ、哲夫。沢木さん、ご無沙汰しております」
「下平さん、こちらこそご無沙汰しています。先日は麻美がお世話になりました」
「いやいや。世話になったのは私のほうです。それにしても、今日はお早いですね」
「妻が足が悪いので、余裕を持ってまいりました」
浩二さんのお父さんの泰浩さんと父の和やかな挨拶です。下平家も椅子に座り、またも早速話に入りました。
「結納なのですが、我が家に来ていただくのではなくて、料亭で行おうと思っておりますが、よろしいでしょうか」
「はい。こちらはどこで行っても構いません」
「それで、会食の費用ですが、これはうちで出させていただきます」
「待ってください、下平さん。普通は折半が一般でしょう。半分はうちで出しますよ」
泰浩さんの言葉に父が異を唱えました。それに穏やかな笑みを浮かべた泰浩さんが言葉を続けます。
「沢木さん、一般と言いますが、今回は一般から外れますよね。嫁取りではなくて婿取りです。そちらの負担が大きいでしょう。ですから、会食の費用はこちらにお任せください」
「ですが・・・」
父は何と言っていいのか困ってしまったようです。そこに丸山さんが声をかけてきました。
「沢木さん、叔父もこう言っていますし、ここは新郎側に花を持たせてください」
「だが・・・いいのでしょうか」
「はい。ケースバイケースです」
丸山さんにきっぱりと言われて父は引き下がることにしたようです。
「ところで、仲人の方へのお礼はどうされますか」
「それはもちろんうちからだします」
「いえいえ、うちからだします」
丸山さんに聞かれて、両方の父親がすぐに答えました。それに少し呆れたような丸山さんが言葉を挟みました。
「いや、叔父さん。どうせなら両家で連名で渡したらどうかと言おうと思ったんだけど」
「哲夫、そんなくだけた言い方をする奴があるか。だが、連名か。それでいいのならそうしてもいいな。どうですか、沢木さん」
「下平さんさえよろしければ、それでお願いします」
ここまで話したところで、丸山さんがまた私たちの後ろに視線を向けました。私達も振り返り、お待ちかねの人物が現れたことを知りました。
「鉄蔵、ここだ」
父が鉄蔵叔父さんたちに声をかけました。
「遅れたか、兄貴」
「時間通りだよ」
私達が揃っていたことで叔父さんは、遅れたのではないかと思ったようです。
「皆さん、今回の仲人をお願いした、私の弟の沢木鉄蔵です。隣が弟の妻の静江です。鉄蔵、浩二君のご両親の下平泰浩さんと博美さん。それから式場スタッフで下平さんの甥の丸山さんだ」
「沢木鉄蔵です。初めての仲人で何分不慣れですが、ご迷惑をおかけしないように努めさせていただきます」
「こちらこそお引き受けいただきましてありがとうございます。これからよろしくお願いいたします」
このあと、丸山さんが結納のことをそれぞれに確認しながら、てきぱきと打ち合せは続いたのでした。




