121 むかっ腹が立ったので疑惑を投下してやろう
朝です。日曜日の朝。私は隣に眠る浩二さんの顔を見て、そっと息を吐き出した。
昨日は私が歌った中島みゆきの曲が効いたのか、あの後男どもはおとなしくなった。浩二さんに飲まそうとしなくなったので、私はカラオケを楽しんだのよ。久々にピンクレディーメドレーを振り付きで歌い、それに触発されたのか、誰々の曲メドレーをみんなが入れまくり、わかる人が歌っていったのさ。デュエット曲のメドレーもあったから、それもみんなでマイクを回して歌ったの。
カラオケ店を出たところでこの後どうするかというから、私は「浩二さんと家に帰る」と言ったのよ。そうしたら「誘ったのは俺だし、うちに泊めるよ」と和彦がのたまわった。一応、酔い潰しても責任はとるつもりだったんだと思ったけど、和彦にはむかっ腹が立っていたので疑惑を投下しておくことにした。
「ねえ和彦、浩二さんと仲良くなったのね」
「なんか気が合ったんだよ」
「ふ~ん」
と、わざと意味ありげに目を細めて見つめてやる。
「なんだよ、なんかおかしいかよ」
「べっつに~」
「おい、麻美。なんの含みを持たせているんだよ」
「だから~、別に~って言ったじゃない」
にっこりと笑ってから浩二さんのそばに寄る。
「浩二さん、和彦の所に泊るのはいいけど・・・その、いろいろ気をつけてね」
浩二さんと目を合わせないようにして、そっと告げる。カラオケではお酒を飲まなかったから、少しは良くなったのか浩二さんが私の耳元に顔を寄せて訊いてきた。
「気をつけてって、何をだい」
「それは、まあ、いろいろよ」
そう言って一歩離れる。続けてもう一言。
「でもなあ~、女に取られるのならいいけど、男に寝取られるのは勘弁だわ」
そう言ったら、浩二さんは和彦の顔を見てササッと私のそばにきた。
「麻美、悪いけど泊めてもらっても?」
「もちろんよ。さっきうちの親にも連絡しておいたから」
「助かる」
「当たり前じゃない」
と、二人の世界を作っていたら、和彦の声が聞こえてきた。
「おい、麻美。俺に変な疑惑をつけるな。俺は男より女のほうがいい」
「男よりって・・・試したことがあるんだ」
私の言葉に智樹たちも和彦から一歩離れた。
「そんなことあるか~。俺はノーマルだ~!」
和彦が大声を出した。私達以外の道を歩いていた人たちにも注目されて、すぐにハッとした顔をしたけどさ。もう、遅いよね。
「クッソ~、麻美~、覚えてろよ」
「私に相談なく勝手なことするから悪い! あんたこそねえ、うちに出禁にしてやろうか。今回のことを聞いたら父も賛成してくれると思うな~」
私が父に話した場合のことを考えたのか、和彦は拳を握った。うん、和彦の伯父さんにまで話がいくわよね。フッ。伯父さんに頭が上がらないことは知っているのさ。
他のみんなも私が遊んでいることがわかったのか、乗って和彦のことをからかいだした。それを横目に見て、浩二さんの左腕に私は右腕をからめた。
「じゃあみんな~、私は帰るね~。あとのことはよろしく~」
「おう、気をつけて帰れよ、麻美」
智樹が代表してそう言ってくれたから、私は手を振り浩二さんと歩き出した。
「麻美~、またね~」
「うん、またね~」
菜穂子の声が追いかけてきた。後ろを振り向いて返事をして、歩いていく。とりあえず駅に向かって歩いて行った。
「浩二さん、大丈夫」
「まあ、何とか」
「気持ち悪かったら言ってくださいよ。どこかトイレに寄りますから」
「いや、本当に大丈夫だよ」
浩二さんはこう言っていたけど、このあとタクシーに乗って揺られたせいか、うちに帰って戻したのでした。吐くだけ吐いて落ち着いたみたいで、浩二さんは口を濯いでから私の部屋に行ったのね。部屋の中はちゃんと布団が敷かれていたので、私の口元には苦笑が浮かんできたわ。
(ここまでしてくれなくてよかったのにね)
浩二さんはこの前に置いて行った服に着替えると、布団に倒れるように横になった。きっとカラオケをする間までは、気を張っていたのだろう。
「ごめんな、麻美。こんなみっともない姿を見せて」
「みっともなくないよ、浩二さん。まあ、いろいろ言いたいことはあるけどね」
浩二さんがうっすらと目を開けた。私は微笑んでから軽く額にデコピンをした。
「まあ、それは明日にして、今はこれで勘弁してあげる」
「・・・後が怖いな・・・」
浩二さんは苦笑を浮かべた。
「吐き気はどう。まだ気持ち悪いのなら、洗面器を用意するけど」
「・・・もう、大丈夫だと思う」
「それなら、寝ましょうか。お風呂はまた明日の朝にでも入ればいいから」
そう言って私は部屋の明かりを小さくすると部屋を出ていこうとした。
「麻美はどこに行くんだ」
「シャワーを浴びてくるのよ。さすがにべたべたして気持ち悪いから」
「・・・」
浩二さんが何かを言ったようだけど、よく聞こえなかった。
私がシャワーを浴びて部屋に戻ると、浩二さんは眠ってしまっていた。私は起こさないようにと、そっと隣の布団に横になり、タオルケットを引っ張って眠ったのよ。
翌朝、二日酔いの浩二さんに父が何も言わずに肩を叩いていたのが見えたのさ。




