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120 私の友人たちは容赦がない! 後編

居酒屋を出たところで、私は浩二さんのそばに寄った。一応小声で話しかけたのよ。


「浩二さん、大丈夫」

「ああ、少し酔っているけど、大丈夫だ」


一応普通に立っているけど、かなり酔っているのは一目瞭然だった。


「ねえ、もう帰りましょう。私、浩二さんのアパートまで送っていくから」

「そういうわけにはいかないんだ。大丈夫だよ」


柔らかく微笑まれたけど、全然大丈夫には見えなかった。無理にでもタクシーに乗せてしまおうかと思ったら、和彦が浩二さんの肩に腕を回して言ったのよ。


「それじゃあ、二次会に行こうか。二次会はカラオケです。浩二さんは何を歌うんですか」


和彦は浩二さんに話しかけながら歩きだしてしまった。


「ちょっと、待ちなさいよ。和彦」


和彦は私が呼び掛けても浩二さんを連れてさっさと歩いていってしまう。私は二人を捕まえようと早歩きで追おうとしたけど、千鶴に腕を掴まれてしまったの。


「まあまあ。麻美ももう少し見守りなさいよ」


千鶴の言葉にムッとして横目で睨みつけた。私のほうを向かないまま千鶴は言葉を続けた。


「麻美には黙ってたけどさ、昨日私と和彦は下平さんを呼び出して会っているのよ」

「はあ? なによ、それ!」


千鶴がまあまあというように、掴んでいる腕を叩いた。


「私達もさ、麻美から話を聞いて憤慨したわけじゃない。でも、情状酌量の余地もありそうだったから、下平さんからも話を聞こうと思ったのよ」


言葉を切った千鶴が立ち止まった。つられて私も立ち止まる。


「下平さんはさ、なにも弁解しなかったのよ。麻美の気持ちを無視して酔い潰したって、認めたのね。私達が麻美のために怒る気持ちもわかるから、好きにしてくれと言ったのよ。それで今日の飲み会で酔い潰すつもりで飲ませるけど、それでいいなら参加しないかと誘ったのよ。下平さんは参加すると即答したわ」

「何をしてんのよ~」


私はため息とともに吐き出した。


「まあまあ。そういうわけだから、下平さんの男気を見守りましょう」

「・・・千鶴、今の言葉はあんたたちも含まれてんだからね」

「わかっているわよ。それに和彦とも言ったのよ。下平さんを飲ませるのは一件目だけって。次はカラオケだから、歌って発散すれば大丈夫でしょ」


千鶴はそう言うと歩き出した。


「あのねえ、もし浩二さんが急性アルコール中毒になったらどうするつもりだったのよ」

「えっ? そんなに弱いの、下平さんって」

「うちではビールしか飲まないし、浩二さんの友達も浩二さんは強くないって言ってたんだから」


千鶴の額に汗が浮かんできた。顔も引きつっている。


「えーと、そこは・・・自己申告するわよね」

「逃げ道潰しておいて、それを言うか」


尖らせた声で答えたら、千鶴は頬をピクピクとさせながら訊いてきた。


「あの・・・麻美、怒ってる?」

「まだ怒ってないよ。呆れてはいるけど」

「でも、この前反対しなかったよね」

「あれから何週間経ったと思っているのよ。私はそこまで怒りは持続しないわよ」


そうなのよ。さすがにひと月以上も経っていたから、そんな会話をしたことを忘れていたのよ。チラリと千鶴の顔を見たら、眉間にしわが寄っていた。やってしまったと思っているのだろう。


「その・・・ごめん」

「さあ~? どうしようかな~」


本当にどうしてくれようか。私はカラオケ店に着くまでの間、考えていた。


カラオケ店に着き予約していた部屋の位置を聞いて、私はみんなから離れた。みんなはお手洗いに行ったと思ったのだろうけど違うのよ。私は家に電話をかけて浩二さんを連れて帰ることを両親に伝えたの。両親は少し驚いたようだけど、逆に安心したみたい。・・・って、おい、親!


部屋に入ると飲み物を注文するところだった。私はウーロン茶を頼んで、曲選びをした。いつものように恭介が一番に歌って、次は浩二さん。そういえばカラオケに一緒に来たのは初だと思って浩二さんのことを見つめていた。曲は前に言っていた佐野元春のSOMEDAY。うん。普通にうまい。


浩二さんが歌っている間に飲み物が来てみんなはそれぞれが頼んだものを自分のそばに持っていった。残ったのは私のウーロン茶と浩二さんのチューハイ。浩二さんが歌い終わって戻ってきて隣に座った。グラスに手を伸ばしたから、私は浩二さんの手を掴んで止めた。


「浩二さん、私、それが飲みたいから、浩二さんはこれを飲んでね」


強引にウーロン茶を押し付けて、チューハイを奪って飲んだ。


「おい、麻美」


隼人が私に咎めるように声をかけてきた。


「あ”あ”?」


低い声をだして返事をする。ついでに半眼ですがめるようにチロリと見つめる。


「いや、何でもないです」


隼人の声はだんだん小さくなっていった。部屋の中は静かになった。修二の歌声だけしか聞こえない。修二が歌い終わり、次は私が入れた曲。私が歌いだしたら、みんなの顔が引きつりだした。歌い終わったら男どもが口々に言い出した。


「悪い、麻美」

「俺たちが悪かったから」

「もうしません」

「余計なことはしないと誓うから~」

『本当にごめん』


最後は菜穂子と華子女史と千鶴まで声が重なった。私はそれを見て一人だけ何も言わないやつのことを見つめた。


「なあ、浩二さん。麻美ってば最強だろ」

「ああ、そうだな」


この言葉を聞いた私が「こんのおバカども!」と、和彦と浩二さんにげんこつを落としたとしても仕方がないよね。


ちなみに歌った曲は中島みゆきの曲だったのさ。


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