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12 小さな違和感

11月の3週目の火曜の夜。久しぶりの夜のドライブデート。


喉が弱い私は風邪をひくといつも長引いてしまう。なのでこの前の週末に山本さんと会うことが出来なかった。


会えないことが寂しかったけど、毎日電話で話をした。「早くよくなって」と言われたことが嬉しかった。


私は、電話の時に両親の機嫌が悪いことに気がついた。それも彼からの電話だとわかると不機嫌丸出しになるのだ。前に両親に「うちに連れてきなさい」と言われたのだけど、それを曖昧にしたままだったのがいけなかったかと思った。


昨日のデートの約束をして電話を切った私に父が言った。


「見舞いにもこないのに連れ出すことはするんだな」


私は一瞬動きを止めた。電話を終えたから部屋に戻ろうとしていた私は、父を睨むように見つめて尖った声を出した。


「なんのことよ」

「何がって本当のことだろう。恋人が寝込んでいるのに見舞いに来なかったじゃないか」

「それは私が来なくていいって言ったのよ。彼に風邪をうつすわけにいかないでしょう。お仕事をしているのに」

「それでも一度くらい顔を見せにきたっていいだろう」


父の言葉に口をグッと噤んだ。そして軽く深呼吸してから口を開いた。


「彼は家がどこか知らないのよ」

「じゃあ、いつもどこまで送ってもらうんだ」

「そこの広い通りまで」

「そいつは・・・」


といって父は黙ってしまった。


「まあ、お父さん。麻美も初めてのおつき合いなのですから、もう少し長い目でみましょうよ」

「だけど年が明けたら麻美も24歳になるだろう。もう若いといえる歳じゃない」

「お父さん、今は昔と違うのよ」


母が取り成すように言ってくれたのに、父は仏頂面で返していた。その言葉にカチンときた私は不機嫌な声で言った。


「麻美、違うわけないだろう。歳を取ればそれだけ先が大変になるんだぞ。それともそいつは麻美と結婚したいと言っているのか」

「そんな・・・まだつき合いだしたばかりなのに。まだ考えられないわ」

「そんなことも考えずにつき合っているのか。相手は27歳といっていただろう。将来を見据えてないようじゃだめだろう」

「私達はお父さんたちとは違うの。お父さんは30歳過ぎてのお見合いだったから後がなかっただけじゃない」

「麻美!」


父の言葉に言い返して、つい言うつもりもない言葉を言ってしまい、母に叱責の声をあげさせてしまった。


「ごめんなさい。そんなつもりじゃなくて」

「麻美、もういいから。お風呂に入って寝てしまいなさい」


私がオロオロとした声で謝ったら、母に合図をされた。父のことを宥めてくれるのだろう。私は頷いて居間を後にしようとした。


「麻美、子供が出来たから結婚するというような真似はするなよ」

「そんなことしてないわよ!」


後ろから聞こえた父の声に、振り向いて怒鳴り居間を後にした。


(本当に信じられない。デリカシーが無さすぎるじゃない。自分の娘がそんなことをしていると思っているの・・・そんなこと・・・)


私は真っ赤な顔で、想像したことを振り払うように首を振ったのでした。



今回行ったのは前とは違う山の中腹。ここも夜景がよく見えた。


だけど、夜景なんて見ていられなかった。そこについてライトを消すと、彼は私の事を抱きしめてきた。


「会えないのがこんなに辛いと思わなかった」


そう言われてキスをされた。角度を替えて何度もキスをされた。


彼にキスをされるのは好き。


そのまま流されてしまいそうになるのを、なんとかとどめて彼の胸に手をついた。彼がキスをするのをやめて私の顔を見てきた。


「あの、話したいことがあるの」

「うん。何」


笑顔で聞いてきたので、私も微笑んで言った。


「今度、もしよければうちに来てほしいのだけど」


言ってしまってから後悔した。言うのじゃなかったと。私の言葉を聞いて彼の顔から表情が消えたから。真顔というより無表情に見える。何を考えているのかわからないその顔に、体に震えが走った。


私から視線を外していたけど、また視線を戻してニコリと笑った彼。


「そうだね、考えておくよ。それよりも久し振りに会ったんだから、もっと麻美を味合わせて」


そう言って助手席のシートを倒されて、私の上に彼の重みが加わった。先ほどの表情に恐れを抱いた私は逃げ出したくて、彼の身体を押しのけようとした。その手を拘束するようにつかまれて身動きができなくなった。


宥めるようなキスをされて、段々体の震えは収まっていった。潤んだ瞳越しに彼を見ると、とても楽しそうな顔が目に入った。自分が与える刺激で私がどう変わるのかを楽しんでいるようだ。私は今のことは考えないように目を瞑ったの。


頬に手を当てられて目を開けると、満足そうな顔をした彼の顔が目に入ってきた。


「麻美は困った人だね」


意味を捉えかねて彼の顔を見上げていた。唇にやさしいキスをされた。


「そんな潤んだ目で見つめられたら歯止めが利かなくなるだろ」


そう言ってまたキスをする。


「そんなにキスだけで蕩けるようじゃ、この先に進んだらどうなってしまうんだろうね」


ぼうーっとしていた頭に言葉が伝わって、私は身じろぎをしようとした。


「大丈夫。今は・・・ここでは抱かないから。・・・でも次は・・・」


またキスをされながら、私の頭の中では今の言葉がこだまのように何度も響いていたのでした。


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