117 花火大会は浴衣でデート
7月の5週目の土曜日です。今日は浴衣を着て浩二さんと花火デートです。それに浩二さんはうちにお泊りです。浩二さんのお母さんの博美さんから許可をもらいました。ただし部屋は別にしてくださいと、念押しをされました。・・・チッ。
婚約指輪の件は下平の両親に受け入れて貰えました。最初は報告した浩二さんが指輪の金額を伝えたら、お二人に怒られたそうです。それを私の希望で真珠のネックレスもつけることにしたと伝えたら、逆に「でかした!」と褒められたらしいです。とりあえずよかったです。
そういえば、私の友人たちとの飲み会ですが、7月はみんなの都合がつかなかったそうで、8月の1週目に持ち越しになりました。ですが、そのことは浩二さんに伝えてません。
・・・あっ、違います。友人と集まって飲むことになったとは伝えてあるのよ。浩二さんを誘ってないだけ。このままあいつらの魔の手にかからないように、気をつけておかないとね。
午後の3時くらいに私は浴衣に着替えました。ただ、浴衣を着るのはいいのだけど、髪型がうまく纏まりません。こういうのは苦手なのよ。見かねた千鶴が髪の毛をセットしてくれたの。
そういう千鶴も私に浴衣を着せられて、彼氏とのデートに出かけていきました。彼女たちは近くで見るのではなくて、デパートの屋上のビアガーデンに行くそうです。そこからだと、程よく離れていて見るのにちょうどいいとか。浴衣にビールをこぼすなよ~と、憎まれ口をたたいて千鶴を送りだしたのよね。
着替えを終えて下に降りていくと普通の格好の浩二さんが、両親と話ながら待っていたの。どうかなと思ったけど、私から聞くのも恥ずかしいもの。黙ってそばに行くだけにしたわ。
浩二さんが何も言わないまま家を出ることなったの。今日はバスで駅まで出て、駅前で会場に近いバス停がある路線に乗り換える予定。
(何か言葉を言ってくれてもいいのに)
と、私は少しむくれながら家を出て歩いて行った。道を曲がり家から見えなくなったところで、浩二さんが話しかけてきたの。
「麻美、その、とても似合っていて可愛いよ」
「・・・ありがとう」
・・・って、両親の前で褒めるのは恥ずかしかったのかい!
チラリと浩二さんのことを見ると、頬を少し染めていた。私は見なかったことにして視線を戻したの。
駅につき少し駅周辺を散策・・・ってさあ、すごく見られてるんだけど~。他にも浴衣姿の女の子たちがチラホラいるけど、私のほうに視線が来ている気がするのは気のせいじゃないよね。まあ、着物が好きだから、立ち振る舞いには気を使ってますけど。背筋は綺麗に見えるように伸ばしてます。えへん。
浩二さんが少し離れた時に声をかけてきた人がいました。「待ち合わせなの」と聞かれたけど、私が答える前に浩二さんが戻ってきて、なにやらモゴモゴ言って離れていきましたけど、なんだったんでしょう。
もしかして女の子同士で花火を見に行くとでも思われたのかな。
ふっふっふっ。
そんな寂しい状態じゃないに決まっているじゃないですか~。ナンパなら相手を見てからにしてですよ~。
と、浩二さんに言ったら、何故かため息を吐かれてしまったの。
「麻美って、どっかズレているよな」
って、言われたけど、おかしいな~。変なことを言った覚えはないのに。普通に考えて私をナンパするなんてよっぽど相手がいない寂しい人だと思ったのよ。
だから、なんでまたため息を吐くの?
おかしなことは言ってないはずよ!
17時30分を過ぎたので、花火会場へと移動しました。そばには屋台が出ていました。先に席の位置を見ようとその場所に行きました。思っていたより立派です。スーパーでお得意様ご招待となっていた席はブルーシートが引いてあるだけなのに、こちらはちゃんとゴザが引いてあり、履物を入れる袋と薄手の敷物(座布団みたいなもの)に、お茶のサービスまであるんですよ。花火が上がるのは19時から。まだ1時間くらい時間があります。
「何か食べたいものがあるかな。買ってくるよ」
「それなら、私も」
「混んでいるから、一人でいいよ。それで何が食べたい」
「えーと、焼きそばでいいですよ」
「他には。たこ焼きとかは」
「そうですね、・・・浩二さんにお任せしてもいい」
立ち上がった浩二さんを座ったまま見上げます。そうしたらなぜか浩二さんが屈んで私の耳元に口を寄せてきました。
「麻美、わざとじゃないってわかっているけど、あとでお仕置きな」
「えっ?」
そういって浩二さんは屋台のほうに行ってしまったのよ。おかしい。お仕置きされるようなことをした覚えはないのに・・・。
というか、お仕置きって何をするつもりなんだろう?
ほぼ真下で見る花火の大きさと、思ったよりも煙がでることと、音の大きさに驚きながら、最後の大きな花火まで堪能しました。
が、このあと、家に帰るまでが大変でした。花火が終わり、誘導に従って会場をあとにして、一番近いバス停からはバスに乗れそうにないから、他の路線のバス停のほうに二人で歩いていきました。そこも待つ人がいっぱいで、ひとバスは見送らないと乗れないでしょう。
「もう少し歩けるか、麻美」
「うん、大丈夫」
慣らしておいたけど、履きなれない下駄でやはり足が痛いです。だけど、次の路線のバス停に向かう途中で、ちょうどお客を下したタクシーを見つけ、乗ることができたのでした。
お仕置きについては・・・内緒です。




