114 今度こそ婚約指輪選び・・・のはずが・・・ *
ジュエリーショップ内です。目の前の店員は笑顔もなく真剣な顔で私のことを見ています。私の前にはビロード(かな?)を張った台に載せられた指輪が7つ。様々な形にカットされたガーネットの指輪。私が伝えたように赤黒い色の指輪たち。
それを一つ一つジッと見つめた。その中から色目やカットの形リングのデザインから最終的に2つを残した。
ここで私は困ってしまいました。どちらも選べない。
片方の指輪は私が希望した色のもの。少し小ぶりで婚約指輪としては安いものになる。でもティアドロップ型でその形も気にいった。
もう片方は見た時に「ほお~」とため息が出たもの。色目は希望の色よりも茶色より。だけど、凄いのよ。まず大きさ縦2センチ横1.5センチはあろうかという大きさ。それだけでなく、カット面が少ないの。つまりこの石にはカットという小細工はいらないという証。なのでお値段もすごかった。たぶん浩二さんのお給料の4倍はするのではないかと思ったのよ。
「麻美、どちらがいいんだ」
浩二さんに訊かれて悩んでいる私は「う~ん」といううなり声しか出てこない。そうしたら浩二さんが囁いてきた。
「金額のことは気にしなくていいんだぞ。麻美が気にいったものでいいんだからな」
そう言われても気にするでしょう。婚約指輪にかける金額ってお給料の3倍くらいだと聞いたことがあるもの。そうしたら店員がコソッと言ってきた。
「丸山様からのご紹介でもありますし、お勉強させていただきます」
といって、電卓を叩いて金額を見せてきた。その金額はお高いほうの値引き金額。それでも浩二さんの顔が少し引きつっているから、痛い出費になるのだろう。
「ちなみにこちらだとおいくらになりますか」
私の問いに店員は電卓を叩いて金額を見せてきた。うん。かなりお安いよね。別の意味で浩二さんの頬が引きつっている。こちらを選ばれたら男の沽券に関わるとでも思われたかしら?
私はもう一度指輪を見比べてから気持ちを決めた。
「ねえ、浩二さん。もし私がこちら(値段が安いほう)の指輪を選んだらどうする?」
そうしたら浩二さんがまた私の耳に囁いてきた。
「金額のことは気にするなって言っただろ。それに、宝石に詳しくない俺でも、こちらの指輪のすばらしさはわかるんだぞ」
まあ、そうよね。普通は大きくて見ごたえがあるほうの石を選ぶと思うよね。でもねえ。
「あのね、浩二さん、婚約指輪ってね、使い道ってあまりないのよね」
「はっ?」
浩二さんが私の言葉に呆けた顔をした。
「だって、そうでしょう。普段から宝石つきの指輪なんてしないじゃない。しているとしたら結婚指輪でしょう」
「まあ、婚約指輪を普段使いにするなんて話は聞かないか」
「そうでしょう。そうなるとパーティーとか誰かの結婚式につけていくくらいよね。結婚式ってそう何回も呼ばれるとは思えないし、パーティーなんて縁がある生活しているわけじゃないし。ということは一生のうちに何度もつけるわけないじゃない。それなら私にはこちらの指輪が合っていると思うのね」
私の顔を見ながら浩二さんが訊いてきた。
「気を使って言っているわけじゃないんだな」
「うん。本気の本気」
そう答えたら、浩二さんは少し困ったように店員のほうを見た。店員もどうしたものかというように、浩二さんのことを見つめ返していた。
「それでね、その・・・ずうずうしいことを言うんだけど、差額で別の物をつけて貰ってもいいかな?」
「差額で別の物って・・・」
呆れたような顔で浩二さんが私のことを見てきたの。いや、わかっているから。普通婚約指輪の値段が安く済みそうだからって、こんなことは言わないってね。でもねえ、妥協はしたくないじゃない。それに、もう一つつけて貰えば、浩二さんが用意してくれようとした金額に近くなると思うしね。
「駄目かな?」
あざといかなと思ったけど、上目遣いでお願いという気持ちを込めて、浩二さんのことを見つめた。また浩二さんは店員と顔を見合わせた。店員も戸惑った顔をしていた。
いや、十分わかっているのよ、本当に! 婚約指輪がお値段が低めだからって、追加で何かを貰おうだなんてずうずうしいとは思うのよ。でもね、こんなチャンスはないじゃない。これを逃したらいつあれを手に入れることが出来るかわからないんだもの。
「えーと、麻美。本当にこっちでいいのか」
「うん。なんといっても色が私が思っているガーネットの色そのものだから。それにね、この形も好き。ティアドロップ型だしね」
「ティアドロップ型って?」
「ほら、形がしずくの形でしょ」
「しずく・・・」
浩二さんはジッと指輪を見つめた。そして私の顔を見て頷いた。
「麻美がいいのなら。じゃあこれをお願いします。それで、別の物ってなんなんだ」
浩二さんは納得したのか、店員に指輪を決めたことを告げてから、私に訊ねてきた。
「あのね、・・・真珠のネックレスが欲しいの!」
私はにっこりと笑って言いました。




