112 浩二さんの誕生日 後編
私たちが下平家に着いた時にはもうパーティーの準備はできていたの。だからすぐにパーティーは始まったわ。
「それじゃあ、隆政の無事の退院と1歳の誕生日、浩二の・・・お前はいくつになったんだ?」
「親父、麻美がいるのに締まらないことするなよ。28歳だよ」
「ああ~、そうだった。28歳な。まあ、とにかくおめでとう! 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
と、なんとなく締まらない感じに泰浩さんの言葉で、祝いの会は始まった。祖母の登美さんから真佑美ちゃんたちまでの4世代が一緒に暮らしているなんていいなと思いながら。うちも浩二さんと結婚して子供が生まれたら、同じように4世代同居になるのかなと思ったりした。
料理を食べて、最後に大きなケーキが出てきた。これは特注品だそうで、中央のチョコレートプレートには浩二さんと隆政君の名前が並んでいた。
「うわ~い、おおきいケーキ~!」
真佑美ちゃんが喜んでピョンピョンと飛び跳ねている。
「ロウソクはどうする?」
「隆政はまだ吹き消すことが出来ないから、浩二がやってくれ」
泰一さんはそう言うとロウソクに火を点けた。みんなでハッピーバースデーの歌を歌い、浩二さんがロウソクを吹き消した。ケーキは博美さんが切り分けてくれた。
私が車で浩二さんを送りそれから家に帰ると分かっているから、20時には下平家をあとにしたの。
浩二さんのアパートまでの10分間。なんといって切り出そうかと、すごく困ってしまったの。浩二さんは助手席で機嫌よく話をしていた。それに相槌を打ちながら車を走らせていたら、浩二さんのアパートに着いてしまった。
このアパートには2台分予備の駐車場があるの。そこを使いたい場合アパートの入り口にあるノートに記入しておくことになっているそうなの。今日は朝と午後に私の車を置いたから、ノートに書きこんであるのよ。でも、滅多に使う人はいないという話で、もし一晩おくことになっても大丈夫だろうと言っていたのよね。
浩二さんのアパートに着いて、浩二さんに言おうと口を開こうとしたら、抱きしめられてキスをされた。
「このまま帰したくないな」
唇を離した浩二さんが私を抱きしめながらそう言った。私も浩二さんの背中に手を回して抱きしめた。
「じゃあ泊ってもいい?」
そう言ったら浩二さんが私の肩に手を置いて引きはがした。
「それはうれしいけどさすがに駄目だろう。親父さんたちが心配するから帰らないと」
「心配しないから大丈夫と言ったら泊ってもいいの?」
戸惑ったように私の顔を見ていた浩二さんは、何かに気がついたのか口元を緩ませて訊いてきた。
「もしかしてサプライズ?」
「ううん。そんなつもりではなかったけど、でも、ちゃんと両親の了解は取ってあるから」
そう答えたらぎゅうっと抱きしめられた。
「本当にいいのか」
「うん」
浩二さんの問いに頷きながら答えたらもう一度キスをされた。
「じゃあ、行こう」
車を降りてトランクからバッグを取り出した。それを見て浩二さんがバッグをもってくれた。車のカギを閉めて浩二さんの後をついていく。
部屋の中に入って・・・さて、どうしましょうか?
さっきまでほろ酔い気分だったはずの浩二さんは一気に酔いが醒めたみたい。なんか少しオロオロしているように感じるかな。
「浩二さん」
「何かな、麻美」
「先にシャワーを借りてもいい?」
「あっ、じゃあお湯を溜めないと」
「シャワーだけで大丈夫」
にこりと笑ってそういったら、もっとオロオロしだした。
「えーと、・・・そうだ。シャンプーは男性用のやつしかないから、買ってこないと。・・・あっ、車の運転ができないんだった~」
余りの狼狽っぷりに浩二さんがかわいそうになってきた。こんなことなら予告しておけばよかったかな。
私は浩二さんの肩を叩いて言った。
「大丈夫。ちゃんと持ってきているから」
バッグの中から持ってきたお泊りグッズを取り出していたら、浩二さんの動きが止まった。視線の先には着替え用の下着があった。そのあと、私と目が合うと勢いよく目を逸らされた。
慌ててそれを胸に抱きしめると「じゃあ、お先にいただきます」と、逃げるように洗面所に行ったの。
髪を洗おうか洗わないでおこうかと悩んだけど、結局ちゃんと洗った。パジャマに着替えて洗面所を出て浩二さんのそばに行ったら、浩二さんはすぐに「俺も・・・」とモゴモゴと言いながら、入れ違いに洗面所に消えていった。
それを見送って、やっぱりと思ったの。
私は浩二さんに最初からとても大事にされていたのだと思う。激しめのキスをしてくるから気づかなかったけど、私の気持ちを考えてくれているんじゃないかと思ったのよ。そうでなければ手を出されない理由がね、あわない気がしたのよ。
戻ってきた浩二さんに手を引かれて寝室へいった。シャワーを浴びて頭もすっきりしたのか、戸惑いも躊躇いも消えた瞳で見つめられた。
「本当にいいんだな」
「うん」
念押しするように聞かれて私は頷いた。それだけじゃ足りないかなと思ってもう一言付け加える。
「気持ちよさを教えてくれるんでしょ」
私の言葉にベッドに横たわった私の上に覆いかぶさろうとした浩二さんは動きを止めた。
「・・・努力する」
軽く触れるだけのキスからだんだん思考を奪うような激しいキスへと変わり、素肌を滑る手が熱を伝えてくる。煽られるように私の熱も上がり、いつしか頭の中を白い闇がはじけて飛んだ。




