11 友人と
翌週、11月の1週目の土曜日。私は千鶴につき合ってもらって街に行った。でも、買い物が終わるとすぐに家に戻ったの。
季節の変わり目の気温変化に体がついていけずに、風邪をひいてしまった私は、親に外出を止められていた。でも、どうしても買いたいものがあったので、千鶴につき合ってもらったのよ。千鶴はうちの両親の受けが良くて、千鶴と一緒なら大概のことにはOKが出たの。
「それにしても水臭いじゃない。彼氏が出来たのなら教えてくれてもいいでしょう」
「それについてはごめん。なんか照れくさくて、話すことが出来なかったのよ」
私の部屋で紅茶とケーキを楽しみながら、近況を話していたの。てっきり京香さんから話を聞いていると思い込んでいた私は、千鶴に謝った。
「まあ、いいわ。やっと失恋の痛手から立ち直ったようだから」
「それについても、ご心配をおかけしました」
軽くペコッと頭を下げる。その私の頭をヨシヨシと千鶴が撫でてきた。
「千鶴~、私は子供じゃないんだから~」
「ふふふっ。子供みたいなものじゃない。麻美は恋愛に関しては小学生並なんだから」
「いくらなんでも小学生は酷くない」
「あら、免疫なさすぎて、男の人とうまく会話ができない麻美がよく言うわね」
私の性格をよく分かっている千鶴が、笑いながら言った。
「それで、どんな人なの」
「とても優しい人よ」
「ふう~ん。ハンサム?」
「えーと・・・素敵な人かな」
「じゃあ、ハンサムね」
「そうかな?」
私はよくわからないと首を傾げた。私の様子をニヤニヤと笑いながら千鶴は見つめている。
「麻美はそこの感覚はおかしいのよね。なんで人の美醜はわからないわけ」
「美醜がわからないのじゃなくて、世間一般の人が云うかっこいい人が、私にはかっこよく思えないのよ。二次元コンプレックスを舐めないでよね」
「舐めてはいないけど、麻美が素敵と言うからには二次元にしやすいと見た」
「だからわからないってば」
「それぐらい特徴があるかっこいい人なんじゃないのかしら。ねえ、写真ってないの?」
「えーと、これ」
ボウリングの時に京香さんが取ってくれた写真を見せる。もちろん4人で写っているものだ。
「ねえ、当てて見ようか。こっちの人でしょう」
「なんで分かったの」
「そりゃあ麻美とつき合いが長いからね。・・・というのは嘘で二択だから消去法よ。こちらの人って見た目から軽い感じが伝わってくるから、こっちかなって思っただけよ」
さすがに中学からのつき合いだからバレたか。私も写真に視線を向けた。
「ねえ、麻美。何か心配事でもあるの」
「なんで」
千鶴の問いかけに、視線を彼女に向けた。千鶴は自分の眉間を指さしながら言った。
「ここにしわ。そんな顔をする時って何か気にかかることがあるんでしょ」
(するどいなあ~)
私は苦笑を浮かべながらそう思った。
「えーとね、聞いてくれるかな。その・・・本当に私でいいのかなって、思って」
「なんで? その、山本さんだっけ。その人から言ってきたんでしょ」
「うん、そうなんだけど。私じゃ彼に相応しくない気がして。こんなつまんない女とつき合うなんて・・・いひゃい」
手が伸びてきたと思ったら両頬を思いっ切り引っ張られた。
「まーた、言うか。麻美の悪いところだよ。自己否定が過ぎるところ」
「だって、本当のことじゃない。私なんかとつき合おうなんて、奇特な人なんていない・・・いひゃいってば」
一度離したのにまた頬を引っ張られた。
「あんたねえ、いい加減にしなさいよ。麻美はつまらない女じゃないわよ。あんな男の言葉に惑わされないで。まーだ呪縛は解けてなかったのか」
千鶴が手を離したから、私はひりつく頬をさすりながら間違いを指摘する。
「言われたのは彼じゃなくてその彼女なんだけど」
「同じことよ。暴言を吐くような女としかつき合えない男なんて。大体ねえ、その女の言葉は裏を返せば嫉妬よ、嫉妬! 自分より女らしい麻美に嫉妬したんだってば」
「別に私は女らしくないよ。たまたま料理は作り慣れていただけだもの。それ以外はぜんぜんダメだし」
「あのねえ、他の女達からすればそれって嫌味よ。確かに料理は作り慣れているというのはあるかもしれないけど、普通手作りでクッションやベッドカバー作らないでしょ。出た学校の関係で洋裁は型紙からおこせるとか、和裁もできて、編み物もお手の物じゃない。これじゃあ、危機感持って嫌味を言うわよ」
「千鶴・・・どっちの味方?」
「あら、本音が出ちゃった」
ペロッと舌を出してお道化る千鶴の様子に私の顔にも笑みが浮かぶ。
「でもね、麻美。本当に自信を持ちなさいよ。あんたはいい女なんだから。私が男だったら交際を申し込んでいたわよ」
「それは千鶴だからでしょ。私・・・」
「はい、ストップ。ねえ、麻美。もうさ、いいにしようよ。あの女が言った『つまんない女』の呪縛から解き放たれようよ」
「呪縛じゃなくて本当の「だから、もう言わないの。それってさ、山本さんに失礼に当たるよ」
私がなおも否定しようとしたら、千鶴に遮られた。
「山本さんは麻美がいいって言ってくれたんでしょ。それなのに麻美がそんなでどうするのよ。もっと堂々としてなさいよ」
「堂々と・・・」
「そうよ。でも大丈夫なの」
「何が」
「ちゃんと山本さんと向き合えているの」
「えーと、大丈夫よ」
私は誤魔化すように笑みを浮かべた。私の顔を見ていた千鶴は溜め息を吐き出した。
「まあ、いいわ。でも、本当に何かあったら言いなさいよ。麻美は自分の中に溜め込む癖があるんだから。相手の人にも言いたいことは言いなさいね。流されてされるがままじゃ駄目なんだから」
千鶴の言葉に神妙な顔で私は「うん」と、頷いたのでした。




