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108 田植えの手伝いに・・・ 後編

「あ~、それ! 私も常々思っていたのよ。私は仕事でも和彦とつき合いがあるわけじゃない。和彦のことを狙っている女がかなりいるのに、こいつってば歯牙にもかけないの。一応、仕事上面倒なことになりたくないっていうのはわかるんだけど、あまりに女の影がないのよね。前はさ、実は麻美のことが好きで、気のない麻美を振りむかせようと頑張っているのかと思った時もあったのよ。でも、どう見てもお兄ちゃんしているように見えたから、違うなって思ったわけ。それじゃあ、女の影がない理由は何か! 実は男色家だったといわれたほうが納得よ」


千鶴が頷きながらそう言った。


「アホか。俺は男好きじゃねえ」

「どうだか。わかんないわよね」


千鶴が悪乗りしてニンマリと笑いながら和彦のほうを向いた。


「だってねえ、和彦が女連れの所に会わないんだもの。疑いたくなるじゃない。こっちでは女をひっかけないとしか聞いてないし。いったいどんなところでひっかけているのか興味があるわ~」

「お前らが行かないようなところだよ」

「え~、怪しい~。実は新宿の・・・2丁目? 3丁目だったかしら? そういう店があるのって」

「行くか、そんなところ。ホテルのバーとかだぞ」

「へえ~、ホテル~。じゃあ、そのままお部屋にGOしちゃうんだ~。えっ、でも女性とは限らないわよね~」


(千鶴、さすがよ。和彦もタジタジじゃない。そのまま心をへし折っちゃえ!)


心の中で応援しながら私は黙って二人の話を聞いていたの。

しばらくして、からかうのに飽きたのか、千鶴が私のほうに向きなおった。


「あっ、そうそう。麻美、私、今度家を出ることになったから」

「えっ、どうしたの?」

「お前、俺を放置する気か。疑惑は晴れたんだよな」

「あー、和彦の疑惑なんてどうでもいいのよ。私たちに迷惑を掛けなければね」


まだぶちぶちいう和彦にぴしゃりと言ってから、私にしかめっ面を向けて千鶴は言った。


「それがさ~、聞いてよ。弟が結婚することになったのよ」

「へえ~・・・って、まだ学生じゃなかった?」

「そうなのよ。大学4年! 彼女を妊娠させたから結婚するんだって。それで、部屋を空けるために出ていけっていうのよ。ひどいと思わない」

「それは急だね。部屋は決まったの」

「まだよ。これから探すの。軽く不動産屋を見てみたけど、街に近いとそれなりのお金はかかるのよね。でも、あまり離れていて通勤に時間がかかるのは嫌だし」

「ねえ、東京とかに比べたら1時間かからない通勤時間ですむんだよ。少しくらい街から離れたっていいんじゃないの」

「うん。それも考えてはいるのよ。そうなるとバス停に近いのと、本数が多いところがいいわけでしょ。やはりそういうところは空きが少ないみたい」

「それなら俺が住んでるマンションにしたらどうだ。確か空きがあるって聞いたぞ」


和彦が気持ちを立て直したのか話に加わってきた。


「え~、絶対ヤダ!」

「おい!」

「だってそうでしょ。なんで休日もあんたと顔を合わす危険があるところに、住まなきゃならないのよ」

「俺が住んでいるところは最新のマンションでお勧めなんだぞ。麻美だって来たことがあるんだからな」


そう和彦が言ったら、千鶴の柳眉の角度が跳ね上がった。


「はあ~? なんで麻美を連れ込んでいるのよ。まさか、あんた、麻美に手を出してないでしょうね」

「そんなことするか!」

「どうだか。あんたの言葉じゃ信用できないわ。麻美、大丈夫だったの?」


千鶴の決めつけが可笑しくて笑いそうになるのをこらえて、口を開いた。


「あのね・・・襲われそうになったの」

「和彦! 何してんのよ!」

「待て! 誤解だって! おい、麻美。お前も何を言ってんだよ」


千鶴に胸倉を掴まれて、和彦が慌てて弁明をしようとする。


「ほんとのことじゃん。床に押し倒して服を脱がせて肩にキスマークまで」


ダン!


千鶴が和彦を引き倒して胸に膝を乗せて体重をかけている。


「あんたね、欲求不満を晴らしたかったら、他所でやれ! 手近なところで手を出してんな!」

「だから、手は出してないって! あの時は理由があったんだって! というか、どいてくれよ。膝が地味に痛いんだけど」

「痛くしてんだから痛がってくれなきゃ困るわ。理由って何?」

「・・・」

「言えないってことは大した理由じゃないんでしょ」

「いや、だから・・・。おい、麻美。いい加減助けてくれよ」


(さすが、千鶴。護身術を習っていると聞いていたけど、綺麗に抑えているよね)


と、呑気に見ていたら、和彦からヘルプ要請がきた。気分も晴れたことだし助けてやるか。


「千鶴、一応それ以上はされてないからさ、そろそろ許してあげて」

「本当に? 庇わなくていいのよ、こんなやつ」

「本当だって。そんなことがあったなら、ここに和彦はいられないから」


和彦を放した千鶴がそばに来て、私のことを抱きしめた。


「麻美、何があったの。こんなやつに身を任せようとするくらい、追い詰められていたの?」


(・・・何? この勘違い。思い込むにしてもひどい誤解をしている気がするんだけど)


「いや、身を任そうなんてしてないし。誤解してるよ、千鶴」

「いいのよ。わかってる。麻美は言いたいことを言わないでため込みやすいから、和彦がどうにかしようとしたんでしょ」


(ハハッ、ばれてる)


「でもね、ひどいじゃない。私に話してくれないなんて。和彦に話せて私に話せないなんて、そんなに私って頼りないの」

「そんなことないよ。千鶴にはいつも助けてもらっているもの。あの時は私自身も気が付いてなくてね」


ここまで言ったら、私から体を放した千鶴が私の顔を見つめてきた。


「ふう~ん。なんか、聞いてない話がいろいろありそうね。きっちり話してもらおうかしら」


この後、私と和彦は正座をさせられて、洗いざらい吐くことになったのでした。


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