107 田植えの手伝いに・・・ 中編
気を取り直したように和彦が訊いてきた。
「だけどさ、麻美も自分の飲み方の癖を下平さんに話してなかったんだよな」
「そうだけど・・・でも結花さんたちには話したのよ。浩二さんと浅井さんが私を潰そうと考えなければよかったわけでしょ」
和彦が言いたいこともわかるけど、つい言い返してしまう。
「結果がわかっていることを言ってもしょうがないけど、なんで下平さんに先に言っておかなかったんだ?」
うん。ごもっともな質問さね。
「本当は浩二さんの友達の家に着く前に言うつもりではいたんだけど、漫画の話をしていたら話しそびれたのよ」
「漫画? 下平さんも読む人なの?」
「そうみたい。今は買ってないけど、ジャンプの洗礼は受けたみたいだし。あだち充が好みなんだって。あと、高校の時にバスケをやっていたから、バスケ漫画も読むことに・・・」
そう言ったらなんか、疑わしそうに見てくる二人。
「麻美、なんかしたの?」
「なんにもしてないよ。失礼な~! 私を何だと思っているのよ。ただスラムダンクという作品があると教えただけだって」
そう答えたら和彦が「それで」と続きを促した。何を確信しているんだか。
「浩二さんは浅井さんの家に行く前に本屋に寄って、出ている巻を大人買いしただけだけど」
「ちなみに何巻あったんだ」
「えーと、確か9巻だったような」
二人は顔を見合わせてから同時にため息を吐き出した。これは似た者夫婦になるとでも思われたのかしら?
「まあ、いいや。とにかく、下平さんを俺たちの集まりに誘い出すことは決定な。そこで酔い潰すかどうかは、下平さん次第ということでいいか、千鶴」
「・・・甘くない、和彦」
「甘いわけあるかよ。麻美が自分から潰れたんだからな。下平さんにも情状酌量の余地はありそうだろ」
「まあ、そうね」
「ちょっと、それって私が悪いみたいじゃない」
二人がわかったように言うから、私はまた軽く頬を膨らませて文句を言った。
「あのな、アルコールの濃さがわかっているのに、文句を言わずに飲むやつがあるか。ブランデーやウイスキーをロックで飲むようなやつがわからなかったとは言わせないから」
「それは、まあ、わかったけど・・・。でもね、ウォッカを足してくるのって卑怯でしょ。いくら無味無臭だからってさ」
「だから、そこで文句を言うなり飲むのをやめるなりすればよかっただろ。何を意地張ってんだよ。その後の二日酔いも自業自得だ」
「違うもん。二日酔いになったのは、ワインを飲まされたからだもん。ワインを飲まなきゃ二日酔いにはならなかったもん」
「まあまあ。済んだことでしょ、和彦。麻美もね。でもねえ、なんで酔い潰されたふりをして、下平さんとお友達の会話を聞いていたのかは聞きたいかしら」
和彦の小言に頬を膨らませながら言い返していたら、千鶴が宥めながら訊いてきたの。
「別に酔い潰れたふりをしていたわけじゃないもの。飲み合わせが悪かったのか気分が悪くて、眠れなかっただけだもの」
「・・・それって、大丈夫だったの」
「大丈夫じゃないから、話を聞く羽目になったんだけど」
本当にね、あの晩は意識が浮上したり潜ったりを繰り返していたのよね。そうしたら、浩二さんと浅井さんが部屋に入ってきて、話し始めたのよ。その内容が、私が飲んだバイオレットフィズとオレンジフィズにウォッカを混ぜたって話だったのよ。せっかくグレープジュースとオレンジジュースで薄めてもらったのに意味ないじゃん。
それにやっぱりこれはひどいよ。急性アルコール中毒にでもなったらどうするつもりだったんだ~!
あ~、駄目だ~やっぱり腹立つ~。
私の表情に出ていたらしくて二人は苦笑を浮かべている。
「あっ、そうだ。麻美。お前が惚気た時の下平さんの反応ってどうだったんだ」
和彦が思い出したように訊いてきた。
「だから、惚気てないって」
「そこはわかっているさ。でも、端から見たら惚気に見えたんだろ。お前だってそこを狙っていたんだろ」
「まあね。えーとね、浩二さんはしゃがみ込んで顔を赤くしていたかな」
「で、それを見たお前はどう思ったって?」
「ん? 言葉でだけで照れて赤くなって、純情かよ。かな?」
私の返事に二人はまた顔を見合わせた。
「ほら、性格が悪い」
「本当よね。下平さんに知られて、泣かされることになっても知らないわよ」
このあとは他愛ない話に移ったけど、私の性格が悪いみたいに言われて納得ができない。いいじゃん。少しくらい面白がったってさ。だから、和彦に意趣返しをしてやる。
「ねえ、和彦。私さ、前々から気になっていることがあるんだけど」
「ん? 何が?」
「和彦ってさ、本当に女の人とそういう事しにいってんの?」
「いきなり何を言い出すんだよ、麻美は」
「何々? なんのこと」
和彦は不意をつかれた顔をして、千鶴は何か面白そうだと二マッと笑った。
「だからさ、先週もどこにいったのかな~、ってね」
「前にも言ったろ。そういう出会いの場があるんだって」
「でもさ、その相手が本当に女性なのか、疑問に思うのよね」
「思うな! そんなこと」
和彦は顔をしかめて私のことを睨んできたのでした。




