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106 田植えの手伝いに・・・ 前編

6月の1週目の土曜日。午前中に田植えは終わった。まあ、1反だけだしね。家に戻った私はお昼を食べた後、部屋に戻ったのよ。


「わざわざ来てくれてありがとう」


コーヒーが入ったマグカップを置きながら、私は言った。


「こっちこそ、急にやりたいなんて言って悪かった」

「そうよ。私たちのわがままなんだから、麻美は気にしないでよ」


和彦と千鶴が座りながらにこやかに笑って答えてくれた。


今日の田植えは毎年手伝ってくれる父の弟の鉄蔵叔父さんに加えて、なぜか和彦と千鶴まで来てくれたの。まあ、来てくれるというから、田植え足袋を用意したりしといたけどさ。


「それにしてもてっきり下平さんも来ると思ったんだけどな」

「そうねえ、和彦の言う通り仕事関係より麻美のことを優先しそうだと思ったわね」


二人の言葉に私は苦笑を浮かべた。


「いやいや、仕事の付き合いのほうが大事でしょう」

「そりゃあ、そうだけどさ。でも、そこはいいわよ。それよりも、先週に何があったのか話しなさいよ。電話じゃ要領を得ないからこうして聞きに来たんだから」


千鶴の言葉に和彦も頷いている。


月曜の夜、千鶴と電話で話しをして、簡単に金、土曜に起こったことを愚痴ったの。そうしたら火曜に今度は和彦から電話が来た。おじさんの用事で訪ねてくることが多い和彦は、めったに電話をしてこない。それが電話を寄こしたから珍しいなと思っていたら、千鶴から仕事で会った時に『麻美に何したのよ』と怒られて、ついでに土曜日のことをかいつまんで聞かされたとか。電話では話しづらくて言葉を濁したら、今日の田植えに行くからそのあと話を聞かせろと言われてしまったのね。


田植えの手伝い・・・意外にと言ったら怒られるかもしれないけど、本気で手伝ってくれたのよね。和彦なんて、「田植え機をやってみるか」と父に言われて、最初は泥に足を取られながら、田植え機で植えていった。少し蛇行して植えていたのが、2回往復したらもう慣れたのか、割合真直ぐに植えることができていたのには驚いた。千鶴も欠株を見て植えるという作業を地道にこなしてくれて、本当に午前だけで終われてよかったと思う。


そうして午後は二人といていいと、両親から言われたのよ。



私は電話で話せなかった、浩二さんの友達の家に行った話を詳しく二人に語ったの。


話を聞き終わった二人はしばらく無言で何かを考えているようだった。そうして千鶴と和彦はお互いをちらりと見た後、ニヤリと笑いあった。


「これは~、お返しをしたほうがいいわよね」

「そうだな。幼馴染をコケにされて黙ってるわけにはいかないよな」


(・・・やっぱりこういう反応になるか~)


私は二人が少し邪悪に笑いあうのを、黙って見つめていた。


「それで、どうする?」

「そりゃあ、同じことを返すに限るよな」

「じゃあ・・・7月に皆でまた集まりましょうか」

「そうだな。それで下平さんも参加させて飲ませて潰すか」

「それが一番でしょうね」


ニッコリと笑いあった二人は私のほうを向いた。


「ということでいいわね、麻美」

「まあ、麻美が嫌だって言っても誘い出すけどな」


ニヤリと和彦が笑って言った。


「いいけどさ、潰した場合は責任もって送ってよ」

「そんなの知るかよ。そこら辺に置いていくに決まっているだろ」

「それをされると私が困るんだってば」

「それならタクシーに乗せるところまではしてやるよ。それならいいだろう」


タクシーに浩二さんを乗せてくれれば、私も一緒に行けばいいかと思って頷いた。


「ところでさ、麻美に聞きたいんだけど、なんで素直に酔い潰されたんだ」


やはり和彦は気がついたか。


「私もそこを聞きたいかな~。いつもいい具合に加減して飲んでいるのに珍しいな~って」


千鶴にも気づかれたか。まあ、付き合いが長い分わかるのだろうな~。


「だってさ、癪じゃない? せっかく浩二さんの株を上げようとしたのに、台無しにしようとするんだもの」


そういったら二人は顔を見合わせた。


「本当に素直じゃないわね、麻美は。建前はいいから本音を言いなさいよ」

「そうだぞ。麻美の天邪鬼さはわかっているからな」

「なんで、二人とも建前で納得しないのよ!」


ムウ~と、頬を軽く膨らませて言ったら、二人して肩を竦めてくれたよ。


「だってな~、つき合いの長さを考えろよ」

「そうよ。酔い潰されたふりをして、下平さんとお友達の会話を聞いている時点で、麻美が怒っていることはわかるわよ」


チッ ばれてーら。


「こら。舌打ちは行儀が悪いって言ってたのは麻美だろ。人に言うんだったらするな」


前に舌打ちのことを注意したことがあったから、和彦が睨んできた。


「もう! わかったわよ。言えばいいんでしょ、言えば! どうせ、二人にはバレてるんだもの。そうよ。私は怒っていたのよ。だってね、酔ってないっていうのを信じてくれなかったんだもの」


そういったら、また顔を見合わせる千鶴と和彦。


「それって、仕方ないんじゃない? 麻美は惚気を素面でいうようには、見えないもの」

「いや、惚気てないから。どっちかというと、浩二さんがどういった反応するのかが見たかっただけだから!」


そう答えたら二人は盛大にため息を吐いてくれた。


「本当に、お前って厄介な性格しているよな。ここだけは下平さんに同情するよ。」


和彦は首を振りながらそう言ったのでした。


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