103 二日酔いで最悪の朝
目が覚めました。気分は最悪です。頭は痛いしムカムカするし。お日様はかなり高い位置にあるし・・・。
「麻美、大丈夫か」
目を覚ました時には居なかった浩二さんが部屋に入ってきて、私のことを覗き込むように見てきたの。その顔が憎たらしくて、私は頬を膨らませて布団を引っ張った。
「麻美、辛いのはわかるけど、そろそろ起きような」
「・・・やだ」
「やだじゃなくて」
「・・・頭痛いし、気持ち悪いから、起きるのヤダ!」
そう言ったら溜め息を吐いて、浩二さんが私の頭に手を置いて撫でてきた。
「だから飲み過ぎだと、言ったんだよ」
私はその言葉にギロッと浩二さんのことを睨みつけた。浩二さんは私の反抗的な態度に眉間にしわがよった。
「麻美、自業自得という言葉を知っているか」
「知っているけど今回は当てはまらないもん」
プイッと横を向いたら、浩二さんの手が布団に掛かった。
「可愛くないことを言うと布団をはがすぞ」
「どうせ可愛くないもの」
私も布団を掴んで取られないように力を入れた。その態度に浩二さんの眉間のしわが深くなった。
「本当に可愛くないぞ。ほら、駄々こねてないで、出ておいで」
「やだって言ってるじゃん。浩二さんのバカ~」
ムッとしながらそう言ったら、浩二さんは怖い顔をした。
「いい加減にしろ」
そう言って思いっ切り布団を引っ張られて、布団をはがされた。そうしたら、布団を持ったまま浩二さんが動きを止めた。私はむくれたまま渋々体を起こした。上半身を起こしたところで、浩二さんのことを見つめたら、目が合った浩二さんが動いて抱きしめられた。
違った。抱きしめられると同時に唇を塞がれて、ベッドに押し倒されたのよ。
「ん~、んん~」
浩二さんの胸を叩いてもキスするのをやめてくれないから、私は浩二さんの髪に指を絡めると、思いっきり引っ張った。
「痛いな、何をするんだ」
「何をするんだは、こっちの台詞だってば!」
浩二さんが唇を離して抗議してきた。私は睨みつけながら文句を言った。
「そんな恰好で誘惑するから悪いだろ」
「誘惑って、こんなことになったのは、浩二さんが悪いんでしょうが!」
悪びれずにまた顔を寄せてこようとするから、私は浩二さんの顔に手を当ててキスをされないようにガードしながら言ったのよ。浩二さんはなんでという感じに、瞬きをした後に私の上から退いたの。
「麻美は寝るのに邪魔だと、自分で脱いだだろう」
「家に帰れないくらいに酔っぱらわせたのは誰よ!」
そう言ったら心外そうな顔をしている浩二さん。私は口から罵倒がでそうになるのをなんとか堪えた。
「とにかく、服を着るから出てってください」
「・・・ここにいちゃダメか」
その言葉に視線に冷気を込めて、ジロリと見た。
「倒れると困るし」
「倒れるわけないでしょ! それよりも浩二さんに襲われるかもしれないから、落ち着いて着替えられないの」
そう言ったら、う~んと悩みだした。
「襲わないようにするから」
「信用できるかー! とにかく部屋から出てよ」
渋々とドアの方に行ったけど、出て行く前に「昨日は手を出さないことを怒っていたのに」というから、私は枕をひっつかむと浩二さんに投げつけた。枕は浩二さんには当たらなかった。私が枕を掴んだのを見て、素早くドアの外に出てしまったのだから。
「ハア~」
思いっ切り溜め息を吐いてから、畳んでくれてあったワンピースと、その上に置いてあったブラジャーを手にとった。きっと結花さんが畳んでくれたのだろう。そうして私はモソモソと着替えをしたのよ。
私のバッグもこの部屋に持ってきてくれていたので、それを持ってお手洗いに寄ってからリビングの方に行った。
リビングには浩二さんしかいなかった。
「浅井さんや皆さんは?」
「浅井は今、藤ヶ谷と新屋を送りに行ってるよ」
「有吉さんと結花さんは?」
「二人は泊まらずに帰ったから」
その言葉を聞いて私はリビングの椅子に座り込んだ。テーブルに肘をついて手に額をつける。
(あ~、家に帰りたくない~。絶対父さんに説教されるもの。そうならないようにしようとしていたのに~)
痛む頭で考える。
(それに浩二さんと一緒とは云え、無断外泊しちゃったよ~。これも絶対文句を言われるんだわ。・・・本当に浩二さんのバカ~!)
コトン、という音がして浩二さんが水が入ったコップを置いてくれた。
「ありがとう」
癪だけど、お礼を言って水を飲む。
「悪いな、浅井が帰ってこないと薬がどこにあるかわからないんだ」
浩二さんが向かいに座ってそう言った。それを恨みがましく見つめてやる。浩二さんは居心地悪そうに身じろぎをした。
しばらく沈黙が流れた。私は言葉を言う気力はなかったし、浩二さんは何かを考えている感じだった。
「ただいま~」
と、浅井さんの声が聞こえて、見るからに浩二さんはホッとした顔をした。それがまたムカついたけど、私は黙ってリビングの入り口に視線を向けたのでした。




