102 眠気に負けた私・・・なんでこんなに眠いのだろう?
アルバムを見終わったところで、浩二さんは三人から解放をされたの。かなりむくれている様子。さあ、どうしましょうか?
時計を見るとまだ夜の8時だ。お手洗いに行って戻ってきたら、結花さんがまたお酒を渡してくれた。それを口に運ぼうとしたら、浩二さんに取り上げられてしまった。
「なんで~、とりあげるの~」
「麻美、もう飲み過ぎだから」
「むう。・・・つまんない」
だから浩二さんの左手を両手で持って、手の平を親指でムニムニと押し始めた。
「なにをしているの、麻美ちゃん」
「てのひらを~、おしているの~」
「楽しいの?」
「ムニムニして~、きもちがいいの~」
結花さんの問いに答えながらムニムニと押し続ける。
「麻美ちゃん、酔っているの?」
「うに? う~ん、そうかもしれない~、かな?」
小首をかしげて結花さんを見たら、そのまま体が傾いて、ポスンと浩二さんにもたれ掛かってしまったの。体を起こそうと腕に力を入れるけど、自分の身体なのに言うことを聞いてくれなかった。
「やっぱり飲み過ぎだろ。大丈夫か」
浩二さんが支えてくれて何とか体を起こす。浅井さんがお水を持ってきてくれたけど、飲みたい気分じゃなかったの。それよりも急激に睡魔が襲ってきている。(困ったな~)と思いながら浩二さんのことをなんとか見上げた。
「あのね~、こうじさん」
「どうかしたのか、麻美」
「うん。そのね~、すっごく~、ねむ~くなってきたの~」
そう言ったら浩二さんは視線を上げていた。きっと浅井さんとアイコンタクトしているのだろう。
「じゃあ、麻美ちゃん、眠れるところを用意するから、ひと眠りするといいよ」
浅井さんの声が聞こえてきた。
「は~い。ごめいわくを~、おかけしま~す」
浩二さんに支えられて立ち上がったけど、なんかフワフワしている。歩こうとしたら体が浮いた。近い位置に浩二さんの顔が見える。
「下平、こっち」
と、浅井さんに先導されて浩二さんがついていく。2階のどこかの部屋に入った。ベッドがあってそこに下ろされた。
「ここは?」
「ああ、妹の部屋だった。嫁に行く時にベッドはいらないって置いて行ったんだ」
二人が話しをしている。扉を開けるような音がしていたから、クローゼットでも開けたのだろう。襲ってくる睡魔と戦いながら、私は手を動かしていた。
「布団だけでいいかな」
「ああ、そうだな。麻美、この布団・・・って、何をしているんだ、麻美!」
浩二さんが怒鳴り声をあげてそばにきた。そして私の身体の上に布団をかけた。
「こうじさん、おふとん、じゃま~」
私が布団を落とそうとしたら、布団ごと体を押さえつけられた。
「邪魔じゃない。なんで服を脱ごうとしているんだ、麻美は」
「だって~、ねるときは~、ぶらは~、じゃまなの~」
「だからってワンピースまで脱ぐんじゃない」
「ぬがないと~、ぶらが~、はずせないの~」
布団の中でモソモソと動いて、何とか腕からブラとワンピースを脱いだ。素肌にシーツの感触が気持ちいい。私はそのまま目を閉じた。
「おい、浅井。今の見てないよな」
「見てない、見てない」
「本当か」
疑わしそうな声音の浩二さん。浅井さんは必死に言い募っている。
「本当だって! 白い肌が・・・コホン。それよりも今の麻美ちゃんの言葉から推測すると」
「推測するな! 想像もするな!」
「だけど、何か着せた方がいいだろう。Tシャツでも貸すか」
「お前が着たものは着せたくないんだけど」
「下平、心の狭いやつ」
「うるさい。お前が着ていないシャツとかないのか」
「あー、確かあったと思う」
部屋のドアが開いて閉まり、しばらくしてまた、ドアが開く音がした。
「これでいいか」
「まあ、これなら」
「で、どうすんだよ」
「これを麻美に着せる」
「出来るのか?」
しばらく沈黙が流れた。
「田川に頼むか」
「ああ、そうしよう」
また、パタンとドアが閉じた。布団から重みが消えて、髪を触られた。
「本当に困った子だね、麻美は」
まどろみながら(ごめんなさい、浩二さん)と、私は思ったの。
ドアが開いて「よろしく頼む」という、浩二さんの声。「任せて」と結花さんが答えている。
ドアが閉まり結花さんがそばに来た。
「麻美ちゃん、眠いのはわかるけど、このシャツを着ようね」
体を起こされて、言われた通りにされるがままに、シャツに腕を通した。横になった私のボタンを留めながら、結花さんが呟くように言った。
「麻美ちゃんって見た目通りの胸だったなんて。どうやったらここまで大きくなるのかしら」
シャツ越しに胸をつつかれた。
「う~ん」
抗議をしたいのに、言葉が出てこない。
「ふふっ。ごめんね、麻美ちゃん」
結花さんも私の頭を触ってから部屋を出て行ったのでした。
◇
その晩はよく眠れなかった。意識が浮上したり潜ったりを繰り返していたの。
浩二さんと浅井さんの会話が聞こえてきたり、隣に温もりを感じたり・・・。
夜中に目を覚まして、半分眠ったままトイレに起きたり。
もう一度布団の中に潜って・・・。
(朝起きたら覚えてろ~!)と、思ったのよ。




