100 浩二さんと浅井さんの・・・?
私の告白に二人は驚いた顔をしている。あなたの知らない世界の話だから理解するのに時間がかかるのだろう。
・・・と思ったのに。二人は顔を見合わせたと思ったら「プハッ」と同時に笑い出した。
「まるって、なんだよ」
「麻美ちゃん、かわいすぎる」
ひとしきり笑った後、浅井さんが浩二さんの肩を叩きながら言った。
「これから楽しいことが起こりそうだな、下平」
「楽しいことか」
「だってそうだろ。霊感がない人間は知ることも出来ない話だろ」
「だけど、その度に麻美が倒れるのだと問題だろ」
「滅多にないって言ってたぞ」
「そうだといいけどな」
二人の視線が私に向いた。
「確認だけどさ~」
とのんびりとした声で浅井さんに言われて、私は何を言われるのだろうと身構えた。
「麻美ちゃんて、面食いじゃないの?」
「・・・はっ?」
手相占いと関係ないことを言われて、私は思考が止まった気がした。
「だってさ、さっき顔がいい幼馴染みがいるって言っただろう。そいつより下平を選ぶのなら面食いじゃないんだよね」
(これは困った。本当のことを話すと、絶対引かれるよね)
「そう・・・そうですね。面食いじゃないですね」
「だとさ、良かったな、下平」
「おい! 俺が醜男みたいに言うのはやめてくれ」
「言ってないだろ、そんなことは。麻美ちゃんはイケメンより普通のお前がいいんだってことだよ」
「まあ、確かに渡辺君はイケメンだとは思ったけど」
「ええ~~~」
浩二さんの言葉に思わず私は声をあげた。それは絶対認めたくない言葉だもの。
「ええ~って、イケメンだろ、彼は」
「どこがよ! 顔は確かにいいかもしれないけど、性格に難ありな時点で、私はイケメンとは認めないんだけど!」
力を込めて言ったら、浅井さんが面白そうに訊いてきた。
「じゃあどんな人のことならイケメンだというのかな、麻美ちゃんは」
「顔は普通で構わないので、性格がいい人です!」
「じゃあ、俺は?」
「浅井さんはイケメンじゃないです。こんな癖がある性格の人は嫌です!」
即答したら、浅井さんの笑顔が引きつった。
「下平~、言われちゃったよ」
「それは麻美に言われるようなことをしたからじゃないのか。自業自得だ」
「最初から見透かされるとは思わないじゃないか」
浅井さんの言葉に浩二さんの表情が変わる。楽し気な笑顔から、少し邪悪さを感じさせるような笑いになった。
「・・・つまり麻美に何かしたんだな」
「・・・やべっ。・・・で、麻美ちゃんは下平のことはどうなの」
浅井さんは迫ってくる浩二さんから逃げながら私に訊いてきた。
「浩二さんですか。もちろんイケメンです。こんなにいい人が私の彼だなんて信じられないくらいです」
そう言ったら、浩二さんが動きを止めて私のことを見つめてきた。
「ほうほう。麻美ちゃんから見た下平ってどんな人なの?」
「え~、それを言えと~。・・・浩二さんは~、優しくて、温かくて、私を包み込んでくれるんですよ~。浩二さんに愛されていると思うと自信が湧いてきます」
「へえ~。じゃあ、下平の悪いところは?」
「浩二さんの悪いところ? う~ん、あっ! あのね、すぐに私を甘やかそうとするところ! もう大丈夫なのに、過保護にするの~。・・・でも、そんな浩二さんも好き」
ニッコリと笑って答えたら、浩二さんはしゃがみこんで額に手を当てていた。俯いた顔が赤い気がする。そこに近づいた浅井さんが溜め息交じりに言った。
「なあ、これって、酔っているよな」
顔をあげた浩二さん(頬が赤かった)は頷いた。
「そうだと思う」
「こんなに弱いのか」
「いや、前に一度飲んだ時はそんなに飲んでなかったから、わからない」
「失礼な~! そんなに酔ってないもん」
私は憤慨して答えた。なのに二人して額をつき合わせるようにして話している。
「顔に出てないよな。そして酔うと饒舌になるタイプと見た」
「ああ、そうみたいだな。そういえば初めて会った時も、後半はよく喋っていたような気がする」
「だ~か~ら~。酔ってないってば! 本当に酔うと眠くなるもの」
そう答えたら、二人は私の顔を見てからまた二人で話しをする。
「どうする?」
「もう、飲ませない方がよくないか?」
「逆に飲ませて潰すっていうのも手だぞ」
チラチラと私のことを見ながら話す二人。
(失礼しちゃう。まだ酔ってないのに)
私は頬を膨らませると言った。
「もう、いいもん。浩二さんも浅井さんも信じてくれないのなら、二人のことなんか知らないも~ん」
私は台所を出てリビングに戻ろうと思ったの。そうしたら有吉さんが丁度顔を出したのよ。
「なんだ~。今日の主役がこんなところにいたのか」
「有吉さん? どうかしましたか」
「ん? 戻ってこないからどうしたのかと思ってね」
「そうだったんですね。あのね、浅井さんが生地からピザを作っていたの。珍しくて見ていたのよ」
「そうだったんだ。じゃあ、もう向こうに戻ってもいいんだろ」
「あっ! そうですね」
「じゃあ、行こう! 行こう!」
私は有吉さんに背中を押されるようにして、台所を後にした。
「えっ、おい、有吉」
浩二さんの声が背中から追いかけてきたけど、知らないもん。




