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10 募る思い

10月の4週目の金曜日。山本さんと夜のドライブに行った。この日は夕食を食べた後に会ったので、20時を過ぎていた。


行ったのは告白をされた岬だった。だけど、そこについても私達は車から降りずに、ずっと話しをしていた。


と、いうよりも、私が意識し過ぎていて、会話が途切れないように次から次へと話していたの。



先週の遊園地からの帰り、原田さんは山本さんの家に私達を送り届けた。そのあとうちのそばまで山本さんに送ってもらったの。


原田さん達が帰るのを見送って車に乗ろうとしたら、山本さんに抱きしめられた。キスをした後もっと強く抱きしめられた。


「早くこうして抱きしめたかった」


耳元で囁くように言われて、心臓がまた騒ぎ出した。耳に彼の唇が触れている。声も出せなくて、彼の服を左手でギュッとつかんだ。


もう一度キスをされた。今までと違う少し情熱的なキス。


彼の服をもっと強くつかんだ。そうしたら彼の唇が私から離れた。もう一度強く抱きしめられた。


「ごめん。急ぎすぎたかな」


顔を覗き込むように言われて、私は首を横に振った。目を合わせると彼は安心したように微笑んできた。抱擁を解かれ助手席のドアを開けてくれたから、そのまま乗りこんだ。彼も運転席に座り車を発進させた。


信号が赤で止まるたびに彼の左手が伸びてきて、膝の上で重ねた私の手を握っていく。何度目なのか、私の手に触れた彼が安心したようにポンと軽く叩いてから手を離した。


さっき、何故か体が震えてきたの。キスの質が変わったのが嫌だったわけじゃない。恐れたわけでもない。でも、何故か体が震えてきた。車を降りて寒く感じたからと、言えればよかったのに。


いつものところで降りる時に、いつものように触れるだけの優しいキスをされてから、彼と別れたのでした。



そんなことがあったからこの1週間、事あるごとに思い出しては挙動不審になっていたと思う。自分でも意識し過ぎだと思うけど、感情がどうにもならなかった。


恋しい

けど、怖い


会いたい

でも、仕事もあるのに呼び出すなんて出来ない


そばにいたい

でも、そばにいるとどうしていいか分からなくなる


もっと触れてほしい

でも、触れられるのが怖い


彼の目に映る私はどんなふうに見えているのだろうか。かわいいと言ってくれるけど、私の容姿は十人並みだもの。彼に相応しいとは思えない。


あのキスだって、嫌だったわけじゃない。その先に何があるかも知っている。


そうなったら・・・私はこの恋に溺れてしまうのだろうか。



そんなことを考えてばかりいたから、山本さんと会ってから私はしゃべり続けたの。でも、さすがに口の中が渇いてきたので、一息つくためにしゃべるのをやめた。


そうしたら、彼に右手をつかまれた。ビクリと体が動いた。私は自分の身体の反応に驚いて、目を瞬いた。


「そんなに急いで話さなくていいんだよ」


彼が笑って言った。


「でも、時間がもったいない気がして」


私の言葉に彼の笑みが深くなった。右手を引っ張られて彼の左肩に私の頭があたった。そのまま少し向きを変えた彼に抱きしめられた。


「あのね」

「・・・はい」

「会いたかった」

「・・・私も」


自然と言葉が口をついて出た。彼の手が顎にかかり上を向かされた。彼の顔が近づいて来て唇が重なった。すぐに離れたけど、その後小鳥が啄ばむようなキスを何度も落とされた。


彼のキスが嬉しくて彼の胸に添えていた手で服をギュッとつかんだ。彼が私を抱く力が強くなった。彼の熱が心地よくて、私は彼に抱きついた。


どれだけ抱き合ってキスをしていたのかわからない。突然がくんと体が落ちた。助手席のシートが倒されたのだ。一度離れた彼がまたキスをしてきた。今度はこの間のように少し情熱的なキス。それと共に、彼の右手が体に触れていく。今までに感じたことがない刺激に涙が浮かんできて、私は目を閉じた。


涙に覆われた目をうっすらと開けて私は彼のことを見た。背筋をゾクリとしたものが走り抜けた。彼はどことなく冷たい、冷めたような目で私を見ていた。そう、まるで私の反応を観察するように。私が反応を返すと嬉しそうに笑っている。その笑いが嗜虐的に見えて、私は自分の目を疑った。だけどすぐに強い刺激を与えられて、私はまた目を瞑ったのだった。


「やばい、我を忘れる所だった」


その声と共に私の上から彼の重みが消えた。目を開けると心配そうに覗きこむ彼の瞳が見えた。そっと目尻にキスをされた。


「ごめんね。この前もゆっくりいこうと思ったのに。麻美さんがかわいくて止まらなくなったんだ」


頬を撫でる手が優しくて、さっきのあれは私の見間違いなのだと思った。

彼は私を抱きかかえるとシートを直してシートベルトを止めてくれた。


「じゃあ、送るから」


別れる時に今までのように触れるだけの優しいキスをされた。車を降りた私は、車が動きだしてすぐに自分の家の方へと歩き出したのでした。


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