1 出会いは合コンパーティーで 前編
私の名前は沢木麻美。私が前の仕事を辞めて家に戻ってそろそろ1年が経つ。その間に車の免許を取ったり再就職したりしたけど、家庭の事情から外で働くのを辞めて、家の手伝いをすることになった。
そんな状態だから異性との出会いなどない日々を送り、彼氏いない歴が年齢と同じという悲しい状態が続いた23歳の8月。
せっかく就職したのに半年で辞めることになった仕事場にひと月ぶりに顔を出した私は、ついでに、同僚だった市川三友紀ちゃんとランチに行くことになった。三友紀ちゃんは中学の後輩であると共に、会社でも後輩になった子だ。
二人で近くのカフェでランチを楽しんでいたら、声を掛けてきた人がいた。見ると地元の先輩でもある竹下京香さんだった。京香さんも一緒にランチをしたのだけど、この時に週末は暇かと聞かれたの。
なんでも、友人達とパーティーをするから来ないかと誘われたの。私は断ろうと思っていたのに、三友紀ちゃんが興味を示し行きたがった。京香さんは私が一緒に参加するのなら、三友紀ちゃんも来てもいいと言ったのよ。私は期待に満ちた三友紀ちゃんのキラキラの視線に負けて参加することにしたのでした。
◇
「ハア~」
と、ため息を吐き出してから、私は慌てて周りを見回した。幸いにも私の事を見ている人はいなかった。それでも誤魔化すように手に持ったグラスを口に運び、一口飲んだ。
今居るのは京香さん主催のパーティー会場。洋食レストランを借り切ってのパーティーだった。私は隅の方で会場内を見つめていたの。
このパーティー、京香さんの人脈で参加者が増え50名ほどになったとか。ついでに言うと、独身でカレカノがいない人が集められたらしい。
つまり京香さん主催の合コンだ。
京香さんの挨拶が終わると、みんな思い思いにグラスを片手に話をしている。三友紀ちゃんは私を置いて、さっさと目をつけた男性の所に行ってしまった。相変わらずのちゃっかりぶりに、苦笑して見送ったのは一時間くらい前になるだろうか?
私はというと、ずっと壁の花よろしく隅の方で、料理を取ってきては食べていた。料理は立食形式で、さすが京香さんが選んだ店だと、舌鼓を打っていたの。本当に美味しい料理だ。みんながあまり食べていないのが勿体ないと思う私は、やはり少しみんなとズレているのかしら。
こんな状態だから誰も私に話しかけてこなかったし、私も話しかけることはなかったの。
ただ、少し気になる人はいる。料理を取りにいった時に何度か同じ男性と一緒になったの。その人も異性に話しかけていないようだったから、私と同じで無理やり連れてこられたのだろうと思ったわ。
少し俳優のMに似ている感じのかっこいい系の人なのにと、私は何故か残念に思ったの。
料理は堪能したからデザートを取りに行こうと思った時に、京香さんが三友紀ちゃんを連れて私の所にきた。
「麻ちゃん、このキティちゃんを野放しにしちゃダメじゃない」
「京香先輩、私は猫ではありません!」
「あ~ら、上手くいきかけたカップルの邪魔をする子は性悪猫じゃないかしら。大体あなたは麻ちゃんのおまけなのよ。少しは自分の立場をわきまえたらどうなの」
京香さんの容赦ない言葉に、三友紀ちゃんは眉尻をさげて私に泣きついてきた。
「麻美先輩~、京香先輩が酷いです~。今日のパーティーは出会いの場って言っていたのに~」
「だからって、あんたは節操無さ過ぎでしょう」
「だって~、他の女と居る男の方が良い男なんですもの~」
三友紀ちゃんの言葉に京香さんは、ポカリと頭を叩いた。
「何度も言うけど、あんたはおまけなの。メインの麻ちゃんが壁の花っていうのはどうなのよ。あんたを連れてきたのは、あんたが麻ちゃんを引っ張っていってくれるかと思ったのに」
私は京香さんの言葉に目を丸くした。三友紀ちゃんはバツが悪そうな顔をして、京香さんのことを見つめた。京香さんもまずいという顔をして私から目線を逸らした。
「あの、・・・私の為ですか」
私は半信半疑で言ったら、三友紀ちゃんがオロオロとした声をだした。
「麻美先輩~、違うんです~。これには訳があって~」
「違わないわよ。麻ちゃんのためよ」
三友紀ちゃんの言葉を遮るように、京香さんがキッパリと言った。
「千鶴に頼まれたのよ。麻ちゃんに出会いの場を設けてくれって。別に今日のパーティーは麻ちゃんのために開いたわけじゃないのよ。だけど、丁度よかったから誘ったのに、見ていてもずっと壁の花で料理を食べているだけじゃないの。いったい麻ちゃんは何をしにここに来ているわけ」
私は京香さんの言葉を理不尽に思ったの。私は誘われたからきたわけで、そこで何をしていても、私の自由だと思うの。
だから
「美味しく料理を食べていたけど」
と、答えたっていいわよね。
「プッ」
すぐそばで吹き出す声が聞こえてきた。見ると男の人が二人、そばに来ていた。片方の男の人は口に手を当てて「クックッ」と笑っている。もう一人の人は少し困ったような顔で、笑っている男の人の肩を軽くどついていた。
少し困ったような顔をした人に見覚えがあった。さっき何度か、顔を合わせた男性だった。




