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「ほんとにゴメン!25日の午後は絶対空けとくから!」
12月22日、高校生の2学期の最終日であるこの日に俺こと金宮優斗は彼女である花園愛菜に謝られていた。気温的に言えばとても寒いが、クリスマスという一大イベントで、恋人のいる人はとてもホットになれるこの時期。ぜひとも俺も彼女とクリスマスの予定というホットな会話をしたかったのだが……。
「この間親戚のおじさんが倒れちゃってさ、自営業やってる人なんだけど、24日にケーキ屋さんから余りのケーキを余った分だけ買うって約束しちゃったみたいで……」
「つまり大量に仕入れるであろうケーキを売る人がいなくて困ってるってこと?」
「そうそう!だから店番の手伝い頼まれてて、いろいろお世話になってる人だから断れなくって」
なんて間の悪いおやじだ。その親父のせいで俺は愛菜とホットな会話どころかそもそも24日に会えないようだ。というか、クリスマスイヴである24日に高校生を呼び出すなんて無粋な真似は普通しないだろ。恋人がいなかったとしても高校生の過半数は24、25日に予定を入れているものだろうし。俺の本音としては愛菜に親戚のおじさんの話を断ってほしいところだ。
「おじさんの家は結構遠いし、店番の時間も遅くまでかかるから24日はおじさんの家で泊まって25日の朝には帰ってくる予定なんだ。だから、クリスマスの午後は一緒に楽しめるからさ」
だから許して、とでも言いたそうな上目使い。あまり女子に免疫のない俺としては卑怯だと言わざるをえない。くっ、そんな目をされたら何でも許してしまいたくなる!
「はあ、わかったよ。その代わり25日はほんとに空けとけよ?後で予定入ったとか言われたら俺、クリスマスを泣いて過ごすことになるから」
「大丈夫大丈夫!そこは安心していいから」
こっちが許したとたんに超笑顔だ。こっちは愛菜と会えなくて寂しいというのに。24日だって昨日までは空いてるって話だったし、予定だってほとんど決まってたじゃないか。思わずもう一度ため息をつきそうになったその時、俺の背中に大きな衝撃が走った。
「よっ、優斗。もう明日から冬休みだってのに痴話げんかか?」
「俺の背中に多大なダメージを与えたのはお前だったか、刀也……」
俺の死角からハイドアタックを仕掛けてきたのは俺の幼馴染で、親友でもある剣崎刀也だった。名前の通りに剣と刀が好きで、剣道部に入っており、しかもエース。そして勉強もできるうえにイケメンという文武両道のハイスペック野郎だ。持ち前のコミュニケーション能力で愛菜ともすぐに仲良くなり、俺が嫉妬したことは記憶に新しい。幼馴染でなければ平々凡々の俺は近づこうとも思わなかったかもしれないな。ちなみに俺は文学部で、愛菜は女子バスケットボール部に入っている。
とりあえず刀也に24日のことを軽く話す。
「そこは優斗、お前も男なんだからうじうじ言わないで許してやれよ。そんなんだから彼女いるのにいつまでたっても童貞なんだよ」
「うるせえ!刀也には彼女もいないくせに、てか愛菜の前でそういうこと話すな!」
あははは、すまんすまん、と心のこもっていない謝罪を口にする刀也。愛菜は顔を真っ赤にしてしまった。愛菜はあまり下ネタに耐性が無いのだ。
その後は俺と愛菜と刀也でたわいもない会話をしつつ下校した。刀也とは校門で別れたが、俺と愛菜の家は割と近いので愛菜の家の前までは二人で一緒に帰った。刀也は他人の彼女の前で下ネタばかり言うような奴だが、そのおかげでため息をつきたい気分が紛れたのは正直助かった。
しかしこのとき、俺たちを見ている冷めた眼差しに気づいたものは誰もいなかった。
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家に帰ってきたはいいが、とくに急いでやることもないし、そもそも何かをやる気も起きない。一人になって落ち着いてしまったことで、自分が今それなりにへこんでいるということを自覚してしまった。さっきまで一緒にいたのにもう既に愛菜に会いたくなっている自分はだいぶ重症だな。
愛菜には1か月ほど前に俺から告白した。もともとは教室では話すけど一緒に遊びには行かない程度のクラスメイトだった。可愛いな、とは思っていたのだが、俺が愛菜を本格的に意識するようになったきっかけは10月の文化祭。たまたまパートナーを組んで文化祭の仕事をする機会があり、そこで俺は愛菜と初めてしっかり関わった。明るくてあざといのに妙に初心な愛菜に惚れるまでにそう時間はかからなかった。俺はその時、恋は唐突に訪れるものだということを身をもって知り、そしてあふれる衝動のままに告白をした。ぶっちゃけ俺は勉強くらいしか取り柄がないので自信はあまりなかったのだが、結果は今日の会話を見てもらえばわかるだろう。俺にとって初めての彼女だったので不慣れなこともあったがこれまでは仲良く順調にやっていけていた、と思う。しかしクリスマスは、イヴも含めて楽しむのが恋人というものだと思っており、その通りに予定も立てていたばかりに躓いた感じがしてショックを受けてしまった。
まあ、親戚の事情なら仕方がないということは分かっているし、クリスマスは2日間とも恋人と過ごすなんて、俺の勝手な先入観だということも分かっているのだが。刀也が言っていたように笑って許してやるのが男というものなのだろうか。
そんなことばかり考えているうちに当の24日になっていた。ちなみに25日の予定は昨日のうちにSNSで話したが、愛菜は午後とか言いつつ夕食を食べるくらいの時間までは帰ってこられないらしく、話もわりとすぐに終わってしまった。
そんなわけで彼女がいるのにぼっちイヴだ。なんだか彼女がいなかった時よりみじめな気分になるな。刀也でも誘ってどこか遊びに行こうかな、いや、それだと余計に悲しくなるかな、なんて考えていると俺のスマホがSNSの通知を告げた。
誰からの連絡だろうか、と思って相手の名前を見るとそこには「櫻井」と書かれていた。
櫻井紗耶香、文学部所属の1年生で俺の後輩だ――ちなみに俺と愛菜と刀也は2年生だ――。紆余曲折あって俺が文学部に誘った後輩で、部活にも熱心に参加してくれている子だ。といっても文学部はほとんど本を読むだけの部活なのだが。一応先輩だし勉強を見てあげることもたまにはあるか。
俺と彼女は部活か趣味の本以外では、あまり接点は無い。なので連絡の内容も部活か本の関係だと思ったのだが……。
「今日会って話したいことがある、だと……?」




