第一章 異世界遭難 第9話「天使顔の痴女」
子供の頃に憧れたヒーローが、他の番組で悪役になっていた時やバラエティー番組でイメージぶち壊しになっていくとき、子供ながらにヒーローはテレビの中だけなんだと思い知ったりしました。
だけど、グラビアや写真集になった時だけドキドキが止まらないのは、自分も大人になったからなのか、それともただ汚れているだけなのか悩むところです。
「それより、怪我大丈夫か?」
『はい、しばらくしたら治ります。』
そういえば、神様だから死なないのか?それでも、痛いだろう。そう言えば確か家出るときに、ブラックがハンカチとティッシュ渡してきてたっけ———
俺たちは、メンバー全員と精霊の『タマ』(どう見てもただの三毛猫)と管理人兼指令の響 京子さんとルームシェアの状態で暮らしている。俺は高校生、レッドとブラックは大学生、ブルーとピンクは社会人だ。ちなみにブルーは大学に落ちたので就職、ピンクは俺の一つ下だが高校にすら入っていない。
今日の朝、家を出るときのことだ。
「日乃、ハンカチとチリ紙は持ったか?」
「忘れてた。とってもらっていいですか?」
そう言って声をかけてきたブラックこと渡木 麗に俺が頼むと、右手をこちらに差し出した。
「そうだと思ったよ。ほら、これ。」
その手にはしっかりとハンカチとティッシュが乗っていた。この気遣いまさに天使。
「ありがとう。麗さん。それじゃ、行ってきます!!」
そう言って、それを受け取り家を出た。
「待てって、私も途中まで一緒に行くよ。」
慌てて後を追いかけてくる麗さんに向いて、
「じゃあ、いっしょに行きましょう———」
だから、リュックにハンカチとティッシュがあったはず。
「『ツクモン』、怪我した方の腕こっちに出してくれ。」
そう言って取り出したハンカチを傷口に当てた。次の瞬間、
『条件を満たしました。新生を開始します。』
例のごとく、一瞬で光に包まれ別の姿になる。そこに現れたのは下着姿にしか見えない格好にサークレットと肩当の付いたローブを身に着け、手には少し長めのマイクにも似た先端に黒い宝石の付いたロッドを握りしめた女性が立膝で祈りの姿勢をしていた。しかし、その顔には見覚えがある麗さんだ。
その姿に目を奪われて、固まっているといきなり首に両手をまわされ、何かうっとりとした顔で、
『日乃様、『クイーン・ランジェリーナ』あなたに全てを捧げます!!んーー』
そして、麗さんの顔が近づいて来て、
「んっ!んん!!!」
いきなり口付けをされた。ファーストキスが奪われた。
『んっ、んふっ!ぷっはっ!!ふふっ、御馳走さまです。日乃様。』
「ふぇっ!」
頭がぼ~っとする。
(ガチャ、ガチャ)
ぼ~っとした頭で、音のする方に目線を下げると、一瞬で目が覚める。
「ちょっ!ちょっと!!ストップ!ストップ———!!!」
『だめですか?日乃様。』
上目遣いで見てもだめです。いきなりズボン下げようとするとか何考えてるんだ。しかもこんな場所で、隣を見るとアリの死骸がある。ファーストキスを奪われただけでなく童貞まで奪われるところだった。初めては、本物の麗さんとベッドの上でがいい。
そもそも、なぜ麗さんの顔なのか?とりあえず、
「ごっほん!とにかく怪我は治っているみたいだな。」
『日乃様のおかげでこの通り、傷一つない美肌ですよ。』
「こら、近づけなくていい。」
『日乃様のいけず~。』
「それよりも、どうして麗さんの顔をしてるんだ。」
『麗様の想いが強く込められているからですよ。』
「麗さんのハンカチだったのか?確かに、俺は白いハンカチなんて持ってないしな。」
俺がそうして納得していると、
『違いますよ、白のショーツですよ。日乃様?』
ショーツ!?ハンカチじゃなくてショーツ?ということは、俺はカバンの中に麗さんのパンツを持ち歩いていた。そんなお宝をツクモンに使ってしまったのか!『ファイトモン』に引き続き、OTZの姿勢で落ち込むことに、なんてこったい。こんチクショー!!家宝にして額縁に飾ってもいいほどのお宝が!!
『だいじょーぶですよ。日乃様。ショーツがほしいなら脱ぎますよ、私!』
「俺の天使だった、麗さんが変態に汚されてしまった。」
この日、生まれて初めて女性に迫られたが同時に大切な何かを失った気がする。
主人公 次野 日乃
性 別 男
年 齢 18
職 業 ヒーロー(イエロータイガー)、高校生
ジョブ テイマーLv.1(7)
パッシブスキル 精霊視、野生の感
アクティブスキル 機獣召喚、精霊変身
装 備 変身ブレス、私服、靴
持ち物 ペットボトル:スポーツドリンク(飲みかけ)、リュックサック(勉強道具、ジャージ、ティッシュ)、テイムカード(6枚)