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愛していると言うのなら  作者: いち
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ちょっと誠意を見せようか?

私は基本毎日、貴族っていいな、と実感している。


チリひとつ落ちていない室内。

新品かと見間違うばかりの清潔な衣服。

席につけば出てくる食事。


何より、旦那様の世話をしなくていいのが素晴らしい。




「メリー、マリー。いつもありがとう。今日のドレスもとても着心地がいいわ。それに、とてもいい香り」


だから私は使用人に対して寛大で気さくで優しい、貴族にしては珍しい部類に分類される。


「ありがとうございます、奥様」


「そちらはレガロアの花の香りをつけてあります。僭越ながら、私が選ばせていただきました」


メリーとマリーは私の専属メイドで、この邸に一番近い村の村長の娘だ。双子なので容姿はそっくり、見分けのつかない私は基本的に二人にまとめて用事を言いつけ、まとめて呼んでいる。

薄情と言うなかれ。

出会って一月で体型から髪色・髪型まで全く同じ人間を見分けれるほど私のスペックは高くない。

髪型か服装で変化をつければよいのでは?とスカート丈を変えてもらったこともあったが、それでも間違えた。

そもそも、私は人の名を覚えるのがあまり得意ではない。実際、旦那様の名前もうろ覚えだが、旦那様と呼べば全て解決するのでこちらは問題ない。

けれど使用人となるとそうもいかない。まさか「そこのメイドさん」などと呼ぶわけにもいかない。いや、使用人を「そこの」とか「ねえ」とか「ちょっと」とか呼ぶ貴族は実際多いのだが、良い奥様としてはよろしくない態度だ。私は使用人たちとは出来る限り良好な関係を築きたいと思っているので、ね。

しかし私はかつて、従姉たち相手ですら呼び間違いを多発していた。親戚のおばちゃん並みの認識力だ。これが一朝一夕、少々の小細工で正確に機能するはずもない。

私は早々に、自身のスペックに白旗をあげた。意地を張ってどうにかなるものでなく、努力の方向性もわからないことだ。

諦めた私はメリーとマリーに自身の残念さを正直に伝え、お互いが気持ちよく過ごすためにまとめて呼ぶ、という形で落ち着いた。

メリーとマリーは別に間違えても構わないと言ってくれたが、使用人の名前を間違えてばかりの主人とか残念すぎるでしょ、ということでまとめ呼びを私がごり押したなんて経緯は余談ですね。


「ありがとう、この香り、気に入ったわ」


「恐れ入ります」


「ねぇ、レガロアってどんな花なのかしら?私の実家では聞いたことがないのだけれど・・・」


聞きながら、匂いは金木犀だな、と思う。前世ではトイレの匂いという認識が強いが、それでもあの甘い香りが好きだった。

名前が違うこちらでは、果たしてどのような姿なのか。


「白い、小さな花です。とても可愛らしい花なんですよ。よろしければお部屋に飾らせていただきますが…」


「お願いしようかしら。楽しみにしているわ」


私はにっこりと笑って、マリーもしくはメリーの提案を受け入れた。



…こういう風に。

言葉を、かけて欲しかった。


ありがとう、とか。

美味しいよ、とか。


それだけで家事の半分は頑張れたのに。



笑顔の裏で溜め息をつくのは、最早習慣だ。

今と昔と、意味のない比較に、私は自身を引き締める。

驕ってはいけない。

当たり前と思ってはいけない。

感謝を忘れずに、言葉を惜しまずに。

彼女たちにはきちんとお給料が出ていてこれが仕事だとしても、私がそうしたかった。

ーーーかっての願望を体現して、過去の自分を慰めている面がないとは言わない。


「奥様、お茶が入りました」


「ありがとう」


かけられた言葉にお礼を言うのも貴族らしからぬ、と言われることもあるけれど。

かつての負担を請け負ってくれる彼女らに少しでもいい環境を用意したいという思いを少し、私は『いい奥様』であり続けるだろう。


特に旦那様がアレな分、私まで同じような態度をとっていたら使用人いなくなっちゃうんじゃそれは無理!絶対回避!!な打算も十分だけどね。




ちなみにレガロアは見た目かすみ草でした。…嫌いじゃない!

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