さよならサーカス団
もつれる足を何とかしながらトマコは走りに走った。ちょうどいい茂みが有って、チビのトマコにはちょうどいい隠れ場所だった。中央の団長のテントからはメサイヤと団長が縄で縛られて制服の警官らしい男たちに連れられていた。もちろんトマコはいい気味だと思ったが、これからどうやって生きて行けばいいんだろうと不安でいっぱいになった。
「ねえ、私これからどうなっちゃうのかな。」
「街に出て様子見るか。トマコは売りもんじゃなかったんだから仲間だと思われたら捕まるだろ。」
「掴まったら、牢獄?」
「さあ、俺の国では人身売買なんて縛り首だがな。」
「ひょぇ~。」
その言葉に震え上がってトマコはレモンが教えてくれて良かったと思った。
*****
トマコはトボトボと街を歩いた。
メサイヤと二人で歩いたことのある街にはトマコくらいの子供がちらほらいた。
「あれ、何してんの?」
「ああ。アレは靴磨いてんだ。」
ちょっと紳士風の男が出す革靴を煤けた頬の少年が懸命に布で磨いていた。
「あれなら私も出来るかも。」
「駄目ダメ。あれにはショバ代がいる。」
「ショバ代ってなに?」
「ギャングがこの辺仕切ってて、この通りで商売やるならギャングにお金払わないと出来ないんだよ。」
ギャング……ここにきてトマコは自分のいた世界と完全に違うこの世界に戸惑いを感じた。トマコの足りない頭を総動員してここは昔テレビで見た映画の世界みたいだと思った。トマコが見た映画はチャップリンだったか、アンタッチャブルだったか第一次世界大戦後くらいの雰囲気だと言っていい。日本でいえば大正だろうか。ただ、ここは黒髪の人はいないので西洋的だった。
「じゃ、なんか食べ物屋とかで働けないかな。」
「おい、なんか音がしないか?」
「え、うん?あっちの方かな?」
路地の向こうから何か物音が聞こえて来ていた。好奇心で覗いたトマコは覗いた瞬間後悔することになる。路地の向こうではスーツ姿の男が数人の男と殴り合いをしていた。
「わわ、喧嘩だ!まずいよ、逃げよう!」
小声でポケットに言うとネズミはすぐさま頭をひっこめた。
くるりと方向転換したはずなのにトマコは後ろから来る靴音にビビった。なんてことはない、喧嘩していた男たちはこちらに向かってきているのだ。慌ててトマコは隠れる場所を探して一目散に建物び隙間に体を滑り込ませた。
そのうち、パンパンと飛び道具的な音もする。ああ、腹ペコで死にたくないとトマコは息を殺した。すぐさまそこを離れると思っていた一団は一向にその場から離れなかった。よおく伺っていると長身の男を捕まえようと5人の男が苦戦していた。移動してきたところを見ると長身の男はもう何人か倒してきているのかもしれない。
「何だかわからないけど、おっきいひと、ガンバレ!」
トマコは長身の男を訳も分からないまま心の中で応援した。寄ってたかって大人数で一人をってこともあったが、乙女としてはすこぶる容姿の良い長身の男の方が応援し甲斐が有る。長身の男は紺色のコートを羽織っていて男たちを交わすたびにヒラヒラとコートが舞っていた。薄茶色の前髪が顔にかかってまるでジャ〇ーズみたいとはトマコの感想。
「強いし、かっこいい……。」
いつの間にか見とれていたトマコはアホ面でじっと眺めていた。あっという間に5人の男を片付けた長身の男はコートの汚れを払って路地を後にした。もちろんトマコはその背中を追っていた。もう、会うわけないし。
と、倒れていた男の一人が胸からピストルのようなものを出した。
「そ、それは卑怯でしょうよ!」
思わず口にしたトマコは衝動のまま、傍にあった石ころを手にしてピストル(?)に意識を集中した。
ひゅん
トマコの剛腕が繊細なコントロールをしながら石ころを放った。なんてったって、期待の一年生レギュラーでエースのトマコ。久々とは言っても確実にピストルの持った腕に石ころを当てた。
ガツッ
鈍い音がしてからカランカランとピストル(?)が吹き飛んでった。こんなことしか特技は無いが、こんなところで役に立つとは。私ってばスゴイとトマコが思わずガッツポーズを取ると同時に鈍い音がまたした。
ボコッ
「え……。」
見ると戻ってきた長身の男が起き上がっていた男をフルボッコにしているところだった。ひぇ~。
「お前、どこのシマから来た?見慣れないな。」
身構えたトマコは自分が「シエ~」の格好になっていることに気づける筈もなかった。