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そしてサーカス団7

トマコが帰ってきて使用人の部屋で着替えているとレモンが飛び込んできた。


「トマコ!あんた、無事だったのね!」


どうやらメサイヤがトマコを連れて行ったので心配してくれていたらしい。トマコはやはり「黄色の君」はお優しい。と一人ごちる。


「苛められなかったよ。」


そう答えるトマコにレモンが不思議顔をした。突っ込んだってトマコにはなにもわかるまい。


「なんか、栗毛の女の子が欲しかったみたい。」


「そう。今夜来る子はにはもう……。」


誰かの替え玉だったと分かってトマコはちょっと安心してちょっと残念に思った。フライドポテト工場ならお腹いっぱい食べれたかもしれないと。……勘違いしたトマコに教えてやるものはいないのだ。


「いいかい。トマコ。これはカッシードのカギだ。これから警察サツのガサ入れが入るんだ。トマコはカッシードを放してここが混乱しているうちに逃げるんだよ!私は西に行く。恋人のマシューと一緒に。」


「へっ!?」


「メサイヤについて行って分ったろう?団長やメサイヤは人身売買してるんだ!」


人身……バイバイ……確かにやつらは人間から離れた存在……いやいや、トマコよ。そうじゃない。


「ひ、人買い!?」


「そうよ、あの赤いテントの子たちはサーカス団が移動しながら各地から連れてきた攫われたり、売られてきた子たちなんだ!いいかい。今すぐ荷物をまとめるんだ。」


トマコの足がもつれる。だいたい避難訓練の時だってダラダラやっていたトマコに急に危機感なんて沸かない。


「え、とお。」


振り向いたらもうレモンの姿は無かった。一緒に連れて行ってくんないの!?トマコは心寂しくなった。「おお、黄色の君……。」と嘆いても仕方がない。教えに来ただけでも十分親切だから。


「おい、どうせその服も返さなくていいんだから袋に詰めて持ってけよ。」


ネズミの方がよっぽどしっかりしていた。その声に従ってトマコはギクシャクと体を動かして逃げる準備をした。

部屋から出て猛獣たちの檻の方へ行くとレモンに言われた通りにカッシードの檻の鍵を開ける……。しかし、カーシードは嬉しそうでもなんでもなくて、トマコを寂しそうに見つめた。


「いくらなんでも連れて行けない。でも、外に出たらカッシードって捕まるだけじゃないの?」


「レモンは、その隙にって言ったんだよ。カッシードが外に居たら警察だってそっちに目が行くだろう?」


「ってことはカッシードは……。」


「囮ってことだろ?」


「……。」


トマコの脳裏に無数の銃で撃たれて倒れるカッシードがよぎった。いくら猛獣でもトマコは毎日世話していた可愛い弟分にそんな仕打ちは無いだろう。


「ねえ、一緒に逃げれないの?」


「無理に決まってんだろ!」


ネズミに一喝されてトマコはカッシードの檻に鍵をかけ直した。檻に居る方がきっと大丈夫なはずだ。


「ごめんね。連れて行けなくて。元気でね。」


そう言うトマコにカッシードは悲しそうに檻の隙間からすり寄った。


「あんたの方がよっぽどいい匂いで好きだったのに……。」


「おい、それは俺への当て付けかよ。」


初めて会ったときはよっぽど怖い生き物だったのにトマコにとってカッシードは家族みたいに感じていた。


「早くここから出ないとヤバいぜ!」


涙まじりにトマコが檻の中のカッシードの鼻を撫ぜているとネズミが急かしてきた。


「じゃ……グスン。」


名残惜しげに檻から手を離すとカッシードが後ろでパオンと頼りなさ気に鳴いた。トマコが振り向こうとしたとき、テントの方から何かが突入してきたような音がしてきた。


「警察だ!」


ネズミの声が上がる。その声に押し出されてトマコは小さな荷物を持って走り出した。









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