初恋とチョコレート2
「由々しき問題です。」
何を言いに来たのかと顔を上げればモリスンがそんなことを言い出した。
「あー、はいはい。」
こういう時は必ず面倒なことを言い出すこの男の言葉にウルフは投げやりな気持ちで答えた。この書類は今日中に仕上げないといけない。
「う、ウルフ様というお方がいながら!お勉強会など!」
「趣味くらいいいだろう……俺の為にしているんだ。」
嘘ではない。完全にロマとトマコのお勉強会はウルフが仕組んだといっていいものだ。しかし、表向き、ウルフはモリスンに「私の手作りならウルフ様が食べてくれるんです。」と張り切っているトマコが言い出したことにしている。なんとも勝手なことである。
「そうはいっても、あんなにイソイソと嬉しそうに!!」
「はあ。分かった。明日来るからその時に聞いておく。」
「辞めさせるべきです!ええ!!」
辞めさせる気なんてさらさらないウルフはそのまま無視を決め込んだ。しかし、モリスンのお花畑センサーも伊達ではない。トマコがロマに好意を抱いているのは確かなのだ。モリスンはウルフがどう動くか少し覗ったがこれ以上はもうダメだと悟ると頭を下げて部屋を辞した。
バタンとドアが閉まってから、ウルフはふとペンを止めた。
「……嬉しそうに?」
少しモヤっとした気持ちを振り切ってまたウルフはペンを走らせた。
*********
「で、ロマ=チュランプはどんな奴なんだ。」
ウルフのその一言にトマコが心底不思議そうな顔をした。開発中のお菓子のことを聞かれるのは当たり前だがロマの人柄を聞いてくるなんてウルフの気が知れない。
「えーと……ロマ先輩は……。」
先輩……なんともちょっと魅惑の響きである。なんだか思ってたよりトマコが親しそうにしているのを感じてウルフはイラッとした。
「……。」
いつもよりも冷たい空気を感じてトマコは戸惑った。これは、きっとモリスンの仕業に違いない。ウルフの所業と知らないモリスンはロマ先輩と私のお菓子作りを阻止したいのだ。--きっとないことないことウルフに吹き込んでいるに違いない……ここは褒めないと、とトマコは拳を握った。
「ロマ先輩は素敵な方です!優しいし!普段はちょっとぽーっとしてるのにお菓子のことになると情熱的で、なによりこげ茶の髪とか一重の顔とか一般人臭半端ないところが親近感有りまくりで、とにかく、いい人なんです!!!」
言い切ったトマコに一瞬ポカーンとしたウルフだがなんだか一層気分が悪くなった。
一方トマコは褒めないとロマ先輩が危ないとプレッシャーのあまり多弁になり、結果非常に告白臭い感じになってしまった。……残念。
「ふうん。」
ウルフは必死で言い募るトマコが全く気に入らない。ただ、自分はトマコよりずいぶん年上で大人なのだ。これが嫉妬だと認めたくない。何を嬉しそうに……こんな面白生物なのに腹立たしい。
「あのう……ウルフ様、なにか怒ってます?」
「怒ってない。」
「……で、あの、チョコレート開発の方なんですけど、次の日曜日に中央市場に材料集めにロマ先輩と回る約束したんです。だから、来週はここにこなくていいですよね?」
トマコはウルフがどうして不機嫌なのがさっぱり分からなかった。チョコレート開発がウルフが思っていたより遅れていたのだろうか、んな、無茶なと震えながら今後の説明をした。
「………く。」
「え!?」
「だから、来週は時間があるから俺も一緒に行くと言ったんだ。文句でもあるのか?」
「あ、いや、文句なんて滅相もない!」
思わずイエッサーと右手を上げて軍式の応対をしたトマコ。市場に甘物を求めるつもりなのだろうかと不思議顔。
ウルフは少しも喜ばないトマコにまたイラッとしながら
「マッサージしろ。」
とベッドにその体を横たえた。




