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そしてサーカス団6

いくらレモンにそう言われたところで、トマコはトマコ。普通にしていて女の子っぽいわけでもなく、只今絶賛お猿である。なにか秘密めいたものにビクビクしていたのは2、3日で、それからは相変わらずカッシードの世話をしていた。


ジャパー


ジャパー


最近では床にブラシをかける時にはカッシードが片足づつ避けてくれるようになった。なんだか心通じ合ってる?とトマコはちょっと得意げにニマニマした。ポケットのネズミは偉そうだが所詮はトマコの食事をちょっぴり分けてやる子分にに過ぎなかった。あの赤いテントは気になったが危険を冒してまで首を突っ込むのは良くない気がした。女神のような「黄色の君」がそう言ったのだから。トマコは寝坊助だがふつうに根は真面目なのだ。しかし不意に訪れたメサイヤによって意外にもそのテントにかかわることになってしまった。


「え。どーいうことだかさっぱり……。」


「黙ってそれを着たらいいんだ。そこのカツラも被っときなさい。用意が出来たら黙って私の後をついてくるんです。いいですか、黙って、ですよ。」


メサイヤは黙れと言うところを強調した。そんなに言わなくたって耳はついている。目の前には安っぽいがヒラヒラの服。メサイヤは自分を女の子と見破ったのか?すげぇ。とトマコは勝手にメサイヤに感心した。やはり、自分の出す女の子オーラが黙っていなかったんじゃないかとも思った。結構イケてんじゃないかとおとぎ話の町の娘みたいな格好に胸が躍るトマコ。


「あら、思ったより女の子に見えるじゃないですか。内股で歩きなさい。これから少しの間、お前は女の子の身代わりになってもらいます。黙って座っていれば大丈夫でしょう。いいですか、一言も、話してはしけません!」


姿を表したトマコにメサイヤは容赦なく言い放った。とことんトマコは男の子だと思っているらしい。憤慨したトマコが黙ってメサイヤについて行く途中トマコは2度も内股で歩けと注意されてうなだれた。


メサイヤはサーカスのテントを離れると街の中へとトマコを連れ出して行った。薄暗い路地をくねくねと曲がってやがてメサイヤは小さなビルのような建物に入って行った。



*****


「ふうん。まあ、丈夫ならいい。少々小汚くても磨き買いが有るからな。」


メサイヤの隣に座らされたトマコは上目使いで相手を伺った。真正面から見ようとすればメサイヤが足を踏んだのだ。しかし、目の前の男はその上目使いが気に入ったようで上機嫌で話していた。


「髪は栗毛か。……いいじゃないか。」


いえいえ黒髪の猿頭です。トマコは居心地の悪い視線に心の中で答えた。メサイヤが隣で硬直している。この面接みたいなのは何だろうとトマコは考える。もしやサーカスからこの男のところへ派遣されるとか。あの赤いテントの女の子たちは斡旋されているのじゃないか?


「ホゼ様。今日はもうこのくらいで。明後日準備を整えまして参りますから。」


「おや、今日もう貰い受けようと思ったのに。味見できぬとは残念。」


何の味見なんだろうか。メサイヤがなにか手作りでも?見当違いをしたトマコは手作りクッキーを瓶に詰めるメサイヤを想像してオエ~っとなった。しかし目の前の男はじっとりとトマコを見つめていた。この男も例えるならタヌキ。しかも父親が庭にコレクションしている信楽焼きのタヌキそっくりだ。あのタヌキのせいで母親のハーブ畑は英国風からお笑い系になっていた。トマコは家を懐かしがりながら不快な視線を遣り過ごした。


「お代はきっちり受け取りませんと。」


「わかった、わかった。一目見たんだ。明日には入金する。」


「では、明後日また……。」


メサイヤもその場を早く立ち去りたいようだった。それからすぐ急かされてトマコは席を立ってサーカスのテントへと帰った。帰り道は上手く行ったのかメサイヤは上機嫌だった。


「ああ、男色家だったらお前もおいしい目に合えたのに。まあ、身代わりは上手く行ったので安心だ。」


メサイヤはトマコにそう、つぶやいた。ジャガイモなら男爵の方がポテトに向いていたはず。あの男はフライドポテトの商売人だったのかとトマコは奉公にでても良かったかもと思って、やはり、タヌキ顔を思い出して首を振った。





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