利害の一致と兄妹と2
それから
あと二日間はトマコがせっせとシドの世話をしてシドもそれを嫌がることは無かった。
それどころか時折シドはトマコに優しくなった。ピオラとは何かと尋ねたトマコにシドは妹の名前です。と答えた。トマコはそれ以上聞くことはできなくて胸がいっぱいになった。それからシドはトマコに髪を切って悪かったと謝って、ぽつぽつとトマコに説明して見せた。魔法が使えなかったせいか黒髪になったシドがトマコには少し別人に思える。
「黒髪はララジュールの特徴です。ただ、貴方はララジュール特有の魔力どころか普通の魔力も微塵に感じなかったので、すぐに違う世界から来たものだと解りました。大昔は王家の人間が異世界からよく人や物を召喚していたそうです。こちらに馴染むまで魔法がなんというか浸透しないようだったので髪の色を変えることができませんでした。短く切って、しかも男だということにして隠そうと思ったのです。今から思えば乱暴でした。」
謝罪するもそっけないシドだが謝罪あったことにトマコは驚いた。しかもおさる頭には理由があったのか。あのままではトマコはララジュールかもしれないという疑いをかけられていたのか。シドの髪は紫がかっている黒で見る人が見れば違うとすぐわかりそうなものだけれど、ララジュールを見たことのない人にとったらトマコの黒髪もそう見えるだろう。
「あの、あのさ。前にシドお兄ちゃんはいったよね。バカな王女様が私をこっちに呼んだって。」
「そうです。この国の第3王女シルビアナ。黒毛も珍しいんです。猫みたいなペットが欲しかったんですよ。王女は。それで、王家に伝わる禁断の魔術を使ったんです。そんな、どうでもいい理由で。」
「ペット……。」
勇者召喚!とか、そんなものでもなく、ただのペット……。がっくりとトマコは肩を落とした。と、同時に王女が大嫌いになった。偉くて可愛かったら何してもいいのかよ!ってお人形のような美しい顔を思い出して憤った。
「まあ……。今のところそれが私の強みでもあります。王女の失態をもみ消しましたからね。そして、王女は私のこの顔を非常に気に入っています。」
「はあ。」
これだけ美形だと自分でそんなこと言えちゃうんだとトマコは思う。そう言えばネズミがシドは王女と結婚するつもりだと言っていた。復讐の為に、好きでもない人とだなんてトマコには到底想像できないことだった。……自分はウルフと婚約中だというのに嘆かわしい。
「王族の秘伝の書が手に入れば、トマコが帰ることも出来るかもしれません。」
シドはそう言ってトマコに協力すると約束してくれた。モチロン協力も嬉しかったが、偽とはいえ兄妹になってから初めてまともにシドと心を交わした気がしてトマコはちょっとそわそわしてホンワリ気持ちが温かくなった。
トマコがもう少し大人だったら。
シドに復讐なんてやめろと言っただろうか。そんなことしてもシドは幸せになれないと。トマコが昔から見ていた少女漫画ではそうだったし、もしかしたら正解はそっちなのかもしれない。
でも同じ立場だったらトマコはどうしただろう。
大好きな家族が殺され、なにもかも奪われて……
きっと自分も王様を恨むに違いなかった。シドの考え方はちっとも変に思えない。ここは勝手な王様とその王族が好き勝手やってる世界なのだ。帰る手立てを探しながらシドの思うようにしてあげようとトマコは思った。仮だとしてもこの世界でたった一人の兄の為に。
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黒くなった髪を金色に染め直したシドは一見変わった様子は見受けられない。あんなに苦しんでいたというのに少し体重が落ちたくらいで今では元気になっていた。弱ってた時の方が素直でかわいかったとおもうトマコに罪はない。カドーレに一緒に帰るときもトマコの歩幅になんか合わせないで歩くし(鍛えてるせいかトマコもそんなに前ほどなんとも思わない)、自分から挨拶もしない。
でも
「トマコ、歴史の単位が恐ろしいくらい危ないのはどういうことですか。」
「ひっ!」
確実にシドはトマコの世話を焼くようになっていた。ほとんど来なかった学園にもトマコの部屋にも、特にテスト前には頻繁に訪れるようになった。
「はあ、天才と言われるだけのことはありますね。シド様の教え方ってすごい上手い。」
ウルフ教のアランでさえ目の前の美形が優秀に映るらしい。もともと孤児院でずっと子供たちに教えてきたシドだから教えることは上手かもしれない。
「カドーレの家名に泥を塗ってはいけませんよ……。」
にっこり笑うこの家庭教師はトマコを震え上がらせる。そんな様子をアランとヘレナは面白そうに観察した。血は繋がらないというが時折見せるそのシドの優しげな表情にトマコの兄というのも頷けるものだった。「ギャップ萌え……シスコン……おいしすぐる……。」ヘレナが小さくつぶやいたかどうかは……誰もしらない。




