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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
三章

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チーズケーキとシドの秘密8

トマコは急いでカドーレにとんぼ返りした。馬車の従者も驚いていたし、なにより子供たちが残念がった。でも、トマコは「急用ができたので、ごめんなさい。」の一点張りでカドーレの屋敷に帰ってきた。


「ほんとに、馬鹿だ。」


馬車の中でトマコの目からはしょっぱいものが流れた。トマコにだって認めたくないものはある。あくまでもしょっぱいものはしょっぱいものだ。誰がシドの為に泣いてやるものか。とトマコ。


「はあはあ。」


カドーレに帰るとトマコは1段飛ばし、いや、2段飛ばしで階段を上がった。目指すはシドの部屋だった。


「い、いない!」


狂ったように部屋を見回し、人の気配を探っても、何も感じなかった。


「どうしたの?トマコちゃん。シドお兄ちゃんなら魔法省のお仕事で1週間は帰らないって言ってたわよ。」


「一週間!?」


酷い顔で慌てて帰ってきたトマコをメヌエットが心配して追いかけてくれた。どうしよう、どうしようとブツブツ言いながらトマコはクルクルと部屋の中を回る。


「あ!」


声を出したトマコはメヌエットと目を合わせる。何か、言い訳は……。


「シドお兄ちゃんに忘れものを届けなくっちゃいけなかったの!もしかしたら魔法省の宿舎に忘れてきたのかも!」


辻褄合わせも考えていない忘れ物攻撃だったが、もうなりふり構ってられはしない。


「そ、そうなの?」


「ちょっと、行ってくる!」


「え、ええ?」


驚くメヌエットをおいてトマコはカドーレから走る、走った。なんだかわからないけどヤバいことだけはわかる。魔法省の宿舎の部屋の場所はうろ覚えしかない。でも、何もしないなんてトマコにはできない。無駄についた筋肉がトマコを宿舎へと運ぶ。こっちだったか、多分そうだとトマコはシドの元住処を目指した。


「いないかもだけど!」


祈るように開けたドアの向こうには古ぼけて、見覚えのあるベットがあって……。


「……い……た。」


腹を抱えたまま額から汗を吹きだしているシドが横たわっていた。





*********




「苦しいの?お医者さん、呼ぶ?」


そんなことならきっと、もう医療施設を訪ねていただろう。声をかけておいてトマコはため息をついた。


「誰にも知られたくなくてここに来てるんだもんね。」


幸い必要なものだけしか持っていかなかったので色々なものが部屋に残っていた。トマコが寝ていた古いベット……今はシドがウンウン唸りながら寝ているものとか色々。苦しいのか体をくの字にしているシドにトマコがきれいにした呪いの毛布をかけてやる。洗面器に水を張るとタオルを絞って額の汗を拭いてやった。


「確か、3日3晩、業火に焼かれるような思いをするって。」


そう、書いてあった。ララジュールの書いた本には。


こんなことを普通の魔法使いには到底できないと一緒に解読していたヤノンは言っていた。そもそも扱う魔法の種類が違うと。でも、シドにはできたし、その後の後遺症があることを知ってもシドは決行したのだ。


「あつ……い……  ……。」


シドが切れ切れにそう、訴えた。

慌ててトマコは濡れタオルを頭に乗せてやる。でも、体温が高いわけではない。多分、これは呪いなのだ。


「バカだな……。ほんと、馬鹿。」


きっとこの人は優しすぎるんだ。

家族の、一族の復讐の為に自分を捨てて、それに突き進むために孤児院のみんなの記憶を消して回った。きっと口封じにはトマコにしたみたいにひどいやり方も有った筈だ。でも、シドはそうしなかった。きっと、シドにとってあの孤児院は大切なものなのだ。オーレンにしても、子どもたちにしても、あんなに無表情なシドを受け入れて慕っている。……そういうことなんだとトマコは思う。


「シドお兄ちゃんはララジュールなんだね。」


金色の髪を辛そうな顔から救い上げて横に流しながらトマコはシドに語りかける。きっとシドには聞こえもしないだろう。


「……レ。」


「 ? 」


しかし、トマコの声に反応したようにシドが何かを言った。


「ピオ……レ……。」


「ピオレ?……何かの名前かな?」


シドの手のひらが空を切った。何かを求めているみたいに。元気づけるみたいにトマコはそっとその手を握ってみた。トマコにしたらほんの出来心だ。


でも、トマコがシドにその手を放してもらえることはなかなか難しかった。






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