チーズケーキとシドの秘密7
結局、モヤモヤしっぱなしだったトマコだが、ウルフに甘いものものを分けてもらってその日はやっとこさ眠れた。週末は孤児院に顔を出したいと言ったトマコに思いがけず甘いものが手に入ったウルフもご機嫌に今週末は来なくていいと宣言してくれた。
ウルフに借りた本はララジュールは稀に並外れた魔力を持っている者が出ると書かれていた。食物を長持ちさせる魔法……ララジュールは生活に基づく魔法を得意とする。決して好戦的ではなく、それゆえに一般的な攻撃的な魔法は嫌われていた。トマコが普通にシドから受け取っていた温かいスープ。あれもララジュール特有のものらしい。シドはトマコにバレると思わなかったのだろうか。トマコが元の世界に帰りたいと強く願う異世界人であるということがシドを安心させているに違いない。だから、きっとシドは外では隠している。そのうちに秘められた魔力を。
「オーレンお母さんいるかな」
トマコはわざわざシドが午前中に行くのを知って午後からニールズホンネットを訪ねた。「課題が終わってたらシドお兄ちゃんと一緒に行けたのに」と言うトマコにシドは「はあ。」とため息交じりに答えたので不審がられてはいないと思う。きっと。
「オーレンお母さん。」
ここに来るまでに子供たちにもみくちゃにされたトマコは奥の扉をノックした。
「はい。どうぞ。」
「こんにちは。」
「よく来ましたね。トマコちゃん。午前中ならシドと一緒に来れたのに。二人一緒に見れなかったのは残念だけど……来てくれて嬉しいわ。」
「……はい。」
「どうしたの。」
直球なトマコが話をうまく聞き出せるとは自分でも思っていない。だから、もうそのまま聞くしかなかった。キョロキョロと周りを見渡してトマコは話を切り出した。
「その、シドお兄ちゃんのことなんだけれど……。前にその……話してくれたでしょう?」
「え?」
「あの、私にシドお兄ちゃんを助けてほしいって……。」
「……。何のことかしら。ゴメンナサイね。話が分からないわ。」
「オーレンお母さんがシドお兄ちゃんを保護した時の……。」
「ええ?シドがここに来た同じ時期にトマコちゃんはここに来たわよね?あなたたちはすぐに仲良くなって……。」
「それは、作り話ですよね?本当の……。」
「作り話って?」
「シドお兄ちゃんはララジュールなんでしょう?」
「……。」
「……。」
「ブ!ブブ!! ト、トマコちゃん!いくらシドが魔法が得意でも!あ、あは、あははははは。もう、物語の読みすぎよ!確かにシドはトマコちゃんの王子様でしょうけどね!」
ニコニコと笑うオーレンからはトマコの予想とはかけ離れた答えが返ってきた。
「し、シドお兄ちゃんを保護した人の話を聞きたいのだけど……。」
それでも食い下がったトマコだったが
「さあ……旅の人だったし、それはもうわからないわ……。そうだ、午前中にシドが持って来てくれたお菓子があるのよ?お茶を入れるわね。」
オーレンからは何の話も聞けなさそうだった。流石にトマコは得体のしれない怖さを感じた。子どもたちとの約束があるからと言ってお茶を断ったトマコはオーレンに名残惜しそうな顔をされながら部屋を後にした。
「トマコ!鬼ごっこしようぜ!」
「トマコ!私も~!」
子どもたちの部屋に入るとカーテンと窓を開けて空気を開けているところだった。
「今日は部屋で勉強してなかったの?」
「ううん。シドお兄ちゃんが今日は絵本を見せてくれたんだ。なんか、暗くして見る珍しいやつだったの。きらきら光ってて綺麗だったよ。」
「へえ……。ねえ、アモ、私とシドって仲がいいと思う?」
「何言ってんるの?トマコ。トマコとシドお兄ちゃんは私がここに来た時からべったり一緒だったでしょ?」
「……。」
アモはここで一番の年長者になる。トマコより4つほど下の子供だ。どちらにしても馴染んでいるからと言っても皆トマコが最近来たのを知っていたはずだ。
「ねえねえ、私はニールズホンネットに来たのは最近だよね?」
「トマコとシドお兄ちゃんがお金持ちに貰われてから遊びに来てくれたことを言ってるの?」
「……。」
「いいなあ~。いいお家に貰われて~。でも、ここにみんなのことも忘れないで遊びに来てくれて嬉しい!」
ね~、と子供たちがトマコを見ている。まるで、シドが書いたシナリオ通りにみんなが思いこんでいるみたいだ。とトマコは思う。
暗くした室内で明かりを映しながら
どこかで読んだことのあるような、とトマコは思いついた。シドは午前中、ここで何をしていたのだろう。考えるのが怖い。オーレンの、子どもたちの記憶がシドの良い様に変えられている。
記憶の魔法。
しかしそれを行うには膨大な魔力が必要で、精神的負担も伴うと書いてあった。ララジュールの異端児が書いた人の記憶を操作する魔法。
とても危険で。
使った者のダメージが大きい魔法。




