チーズケーキとシドの秘密6
人生初の眠れない夜を明かしたトマコは授業が終わると居てもたってもいられなくなって図書室に来ていた。「ララジュール」を調べようと思ったのだ。来週には又魔法省に来てほしいと言われているし、シドに会うその前にはすっきりしたい。「眠れない」なんて冗談じゃないトマコなのだ。
「恐怖だ……恐怖が私をこうさせるのだ……。」
一日寝なかったくらいで少々大げさだがトマコの眼が怖いのでそっとしておこう。アランとヘレナに相談することも考えたが、もしもトマコの推測があったとすると正直ヤバい。
比較的おとぎ話的な一般的なララジュールの本と古代語で書かれたララジュールの本を見つけて念を入れて一番奥の席を陣取って読むことにした。おとぎ話的な本にはララジュールは真の魔法使いとして描かれて魔法でシンデレラみたいに誰かを着飾らせたり、時には懲らしめたりしていた。……が、古代語の方はまるでUFO。地球外生物扱いだった。流石、国家機密なだけある……笑えない。
「でもなあ、シドがララジュールだとして、見つかったら確実にヤバいよなあ。王様が欲しかったのは先見の力だから女の子じゃなかったら関係ないのかな。」
いくら書物が揃っているからと言って、魔法省のように専門書があるわけがないから学園にある本を読んでもララジュールは伝説的部族であることしかわからない。でも、トマコは眠りたい。眠りたいのだ。
「あ……。」
ふとここでトマコは思いついた。専門書があるところがあるではないかと。
「そうだ、確かウルフ様の私室にも山のように古代語の本が……。」
もしかしたら、無いかもしれない……でも、あるかもしれないのだ。トマコはいてもたってもいられなくて放課後、ウルフィファル邸に向かうことにした。
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「なんだ、珍しいな。」
てっきりウルフはいないだろうと忘れ物を取りに行くふりをしてウルフィファル邸に来たトマコだったが、都合はいいのだがウルフにさっそく捕まってしまった。
「あの、ちょっと気になることがあって、ウルフ様が本を持っていらしたら借りたいなあ……って。」
「……仕事の邪魔にならなければいいぞ。お前の興味がありそうなものがあるとは思えんけどな。まあ、ちょうどいい。今日は泊まって行け。モリスンにケーキを買ってこさそう。」
溜まっていた仕事の合間に甘いものが欲しかったウルフにはトマコは渡りに船だった。ウルフはこう見えても本を読む。父親が集めていたものが大半だがアーキンスの書庫には専門書が揃っている。その中でも興味を引いた本はウルフが自室に並べていた。ウルフの仕事の邪魔にならない様にトマコはこそこそとララジュールの本を探したがなかなか見つからなかった。が、やっとそれらしいタイトルの本を見つけたらちょっと高いところにある。ここでトマコにウルフに頼むという選択肢は無い。無いので仕方なく椅子を引いてきて取ることに決めた。
「なんだ、ララジュールが気になってんのか?おとぎ話の延長ならそれは読まないほうがいいぞ。生臭いからな。」
同じく手を貸そうとも思っていないウルフはトマコが手に取った本をちらりと見ると声をかけた。
「……。う、ウルフ様はララジュールは実在すると思いますか?」
「……いたかもな。」
先の戦争の原因でもあることだ。ウルフが知らないわけもない。でも、これは軍事機密事項になるのでうかつにしゃべったりしない。
「もし、居たら?」
「女だったら王宮に監禁だろうな。」
ウルフは当時の王の様子からそうするだろうと推測した。王宮に監禁して自分の側室にでもしただろうか。先見の力がなければ子も産まされていただろう。
「男だったら?」
「……子供作らせまくるだろうな。」
「……。」
ガゴン。あんまりな答えにトマコは本を足の上に落としてしまった。床に落として本が傷むよりはいいが、地味に足が痛かった。直球過ぎるウルフの言葉はアダルティ。
「どこかにいたりするのかな……。」
「いないだろう。」
「わかるんですか?」
「ララジュールは黒髪だ。光を通すと紫色にも見えるらしい。そんな人間がこの世にいたらすぐに騒ぎになるってなもんだ。」
「……。」
今度こそトマコは驚いて固まってしまった。落とすものがもう手の内にないのが幸いだった。シドと会った日シドはトマコに言ったではないか。「黒髪は珍しいので」と。珍しいどころじゃない、黒髪はララジュールの象徴なのだ。これは非常にヤバい。トマコ的にも。きっとシドはトマコが異世界人で能力もないのを見越して髪を切ったのだ。髪の色を変える魔法は時間がかかるとシドに聞いたことが有る。トマコの髪の色が意味のあるものだとトマコに気付かせない様にして……そして、シドの髪もきっと……
本来は黒色ではないのだろうか……。




